間が悪いとはこのことか
魔法に対する思いは多種多様、人それぞれいろんな思いを抱えている。
その対応を一つ間違えると、全体に迷惑がかかる。魔法使い全体に。
「再就職って、そんな大変なんですか?」
「受けるとこ全部落ちてんだよ!出来ててほしいところでもあるんですかねえ!?」
逆鱗に触れたのか、激昂する男性。
「こっちはものづくり一筋に生きてきたんだぞ!そんなん知るか!」
よっぽどストレスたまってんだろうなと、心の中で思う。
酒を飲むときは楽しく飲んでほしいと心底願い、話を聞く。
(魔法を使って落ち着かせたら、またさらに怒りそうなんだよな……)
魔法使いに悪い印象を持たれたら困る。
かといってこのまま聞き続けるのもな、と思う自分がいる。
ボタンを押すかどうかを考えていると、男性は視線を落とす。
「なんだこりゃ?ボタン?」
男性を運んだときか水を渡したときに落としたのか。
ミサキさんから受け取った機械のボタンを、何度か男性は押す。
「あ、それ僕のです」
「大事なもんなら、縛着でもしとけ!」
「ひもや鎖に通して、服と結び付けとけ、でしたっけ」
意味を確認する僕に、男性はスイッチを投げて渡してきた。
受け取った手に痛みが走る。
紐とかあったかな、と痛む手でポケットを探していると、男性が叫ぶ。
「あー!もー!イラつく!」
それはこっちの言葉だ、と言いかけた言葉を飲み込む。
(落ち着こう落ち着こう。こういう時こそ平常心)
そう自分に言い聞かせ、呼吸を整える。
(こっちも熱くなったら、どんどんエスカレートしていく。冷静になろう)
ボタンは男性が押してくれた。そのうちだれか来るだろう、と話を聞き続ける。
根気よく話を聞いていると、急に桜の根元が気になった。
嫌な予感程よく当たる、とは誰が言ったのだろう。
桜の根元には魔が佇んでいた。
その魔の影響を受けたのか、男性が苦しみだす。
目つきが変わる。瞳は赤く肌は白に、髪の色は灰色に、耳がとがっていく。
(取り憑れた?)
魔が憑いた最終形。人に憑いたら魔人、ものに憑いたら魔物と言われている。
人格は消えて魔に乗っ取られ、暴れまわるとミサキさんから教わった。
魔を祓うために、僕は走る。風花の中、屋根付きベンチを飛び出す。
(全体を見て動くんだ。今の自分にできることをやろう。全力で!)
そう自分に言い聞かせ、袋から刀を出し、濃口を切って、魔法を唱える。
――逢魔が迫る日暮れ時
彩り替わるその中で
営み続ける大自然
ここに一度集まりて
取り憑いている魔を払え
「切り祓う」




