舞い散る花と酔う人と
作業員さんと一緒に建物を出て、挨拶をして別れ、並木道に向かう。
ゆっくりと並木道を歩く。
照葉樹を抜け、桜並木に差し掛かると、街灯が点き始め、白いものが宙に舞う。
「雪……風花か」
見上げる空は黄昏て、赤と青が入り混じる、
晴れた空に降る雪が舞い散りながら消えていく。
並木道に咲く満開の桜が出迎えるように、静かな風が花と葉を揺らしていた。
「そろそろ時間か」
桜並木が途切れるころ公園の時計を見ると、アルバイトの終わる時間が近づく。
帰りの時間を考えると、そろそろ公園を出た方がいいだろう。
せっかくだし、階段先の大きな桜を見て帰ろうと、フードを被り速度を上げる。
「特に異常は――あれは?」
桜の木の近くにある芝生に人が倒れていた。
急ぎ駆け寄ると、その男性は眠っていおり、近くにはお酒の瓶が転がっている。
「もしもーし、起きてください。雪、降ってますよ」
風邪でも引かれたら大変と思い、ひとまず声をかけた。
「うん?」
起きた。吐く息からアルコールの匂いがする。
かなり酔っているのか、千鳥足で芝生から出ると、段差に躓く。
転びかけた体を支え、肩を貸す。
「大丈夫ですか?あそこにあるベンチまで歩けますか?」
芝生は立ち入り禁止ですよ、と言いかけ思い留まる。
(余計な波風を立てるより、とっとと休ませて酔いを醒まさせよう)
屋根付きのベンチに着き、男性に横にさせ買ってきたペットボトルの水を渡す。
男性はもたつきながらもペットボトルを開け、水を飲む。
僕は一安心して、フードをとって買ってきたお茶を口にする。
「……ここは?」
「公園のベンチですよ。芝生で倒れてました」
酒臭い息で話しかけてきた馬に似た顔の男性に、眉をしかめながら答えた。
その男性もまた僕を見るなり、ムッとした様子で話し始めた。
「なんだよ、ほっといてくれりゃ良いのに。酒は百薬の長なんだぞ」
「そうですね。楽しいひと時にお邪魔してしまいした」
話を合わせて、いったん頭を下げる。
されど万病のもとってのがそのあとに付きますよと言うと怒り出すだろう。
ノンアルコールでも飲みすぎると検査に引っかかりますよ、も同様に。
「なんだよ、人が良い気分で酔っ払ってるときに!」
それでも男性は怒り出す。どうしたものか。
「……そもそも、どうして芝生で寝てたんですか?」
「会社が潰れたからだ!」
「倒産したんですか?」
怒鳴られた。魔法で酔いでも覚まそうかとこっそり思う。
「これからを見据えて魔法の道具を作ってたら、会社が傾きだしたんだよ!」
魔法を使うのに必要な道具や先ほどのダグさんの紙を作っている企業はある。
社会がようやく落ち着いてきたから、増えるぞと魔法科の先生も言っていた。
(そりゃ会社が倒産する原因が目の前にいたら、怒るよな)
一般の人は魔法にあこがれている。その憧れのために事業を行い、会社が潰れた。
そのあと、魔法使いに会えば思うところはいろいろあるのだろう。




