ベテランさんとアルバイト
「そう言われましても……」
ミサキさんは口ごもる。
「伝えたいことはちゃんと言葉にしてほしい。アーニー君に接するようにね」
「でしたら、言いますが……」
ミサキさんはしっかりとダグさんを見て、重たい口を開く。
「ダグさんは大ベテランですし、街ではヒーローみたいに人気がありますよね」
「おう」
「ですが現場にホイホイ出すぎです!もっと立ち振る舞いに気を付けてください」
「う、うん」
「ベテランがやっちゃうと若い世代の成長が遅れるんですよ。それにですね」
ミサキさんは会話をいったん切って近くにある書類を手にする。
「後進の育成とそれに対する枠組みの作成、全国魔法連盟から来ているんですよ」
「あ、はい」
よぽど溜まっていたのか、ミサキさんの顔は話し終えるとすっきりしていた。
一方でダグさんはしゅんとしていて、肩身が狭そうに感じた。
ダグさんが助けを求める顔でこちらを見てきたため、さもありなんと頷く。
「わかった。今後、気を付けよう」
「す・ぐ・に・気・を・つ・け・て・く・だ・さ・い・!」
「そうだな。気をつけるなら、すぐにだな」
ダグさんは一呼吸して、僕に体を向けると、説明を始めた。
「全国魔法連盟、通称全魔連は、すべての魔法使いが所属している組織だ」
先ほどとは一転して真面目な顔で語りだし、僕も真剣な面持ちでメモを取る。
「まあ上が何か言ってきたら即時対応してくれよ。対応が遅れるとこうなるぞ」
恰好つけて話すダグさんをジト目で見るミサキさん。
(まあ、二言三言で済むならともかく、それ以上の小言はうんざりだからなあ)
話が終わり、メモに書いた全魔連の文字をじっと見つめる。
「どうしたんだい?」
「あ、全魔連に行ったら、父さんのことが何かわかるかなって」
「ピューター君のことかね?」
ダグさんが確認をってきたので、はいと声に出して頷く。
「今、言えることを話そうか。まずここが全魔連で、このあたりの支部になる」
「魔法使いがいる交番って思ってましたよ……」
「似たようなものさ。それとピューター君の事故は、もう少し待って貰えるかな」
「待つってどれぐらいですか?」
「そうだな……遅くてもアーニー君が高校を卒業するころには、話せる」
すぐ知りたい僕に、ダグさんはもったいつけて話す。
「それまでに見識を広めておくと、今後有利になるぞ」
「勉強しろってことですか」
「それもあるがね。ここ以外でも、バイトして良いぞって意味でもある」
滅入った気持ちが顔に出ていたのか、ダグさんは励ますように話す。
「バイトは良いぞ。経験を積んでお金も貰える夢のような仕事だからな」
「ダグさんはどこでバイトしてたんですか?」
「接客だな。そこで言葉遣いや礼儀作法を学だんだ。そもそもバイトはだな――」
「ダグさん。そろそろ」
説教っぽくなってきたタイミングで、ミサキさんが口をはさむ。
「わかった。またなアーニー君。今度また機会があったら、より詳しく教えるよ」
ダグさんはミサキさんから書類を受け取ると、奥の階段を上って行った。




