内緒にされたその理由
昨日までの自分の姿を母に説明しようとすると、頭の中が霞んでいく。
代わりにアルバムの写真の思い出が蘇ってくる中、チャイムが鳴った。
「こんな早くに誰かしら。アニーちゃんおとねちゃん、着替えて来てね」
そう言って、お母さんが部屋から出ていく姿を、ボクはぼんやりと見ていた。
「お姉ちゃん、早く着替えうよ」
「……せめてアニーちゃんって呼んでほしいな」
「良いよ。なら、私もおとねちゃんって呼んでね」
「わかったよ、おとねちゃん」
「むー。ここでおとねーちゃんって言えば、私がお姉ちゃんだったのに」
「名前で遊ぶのはどうかと思うよ。双子なんだし、名前で呼び合おうよ」
アルバムと母の説明では、ボクとおとねちゃんは、同じ日に生まれている。
ふしぎな気分が残るまま、保育園の服に着替えて、部屋を出た。
お母さんを探すと、玄関で話し声が聞こえる。
急いで見に行くおとねちゃんと対照的に、ボクは柱に隠れ、様子をうかがう。
「あら、おはよう、おとねちゃん」
玄関には女の人がいた。誰だっけ。
よく見る人、名前を知っているはずなのに、また頭の中が霞んでいく。
「おはよう。ミサキお姉ちゃん。ほら、アニーちゃんもこっちおいでよ」
おとねちゃんがボクを呼ぶので、警戒しながら玄関に行き女の人に挨拶した。
(あれ?どうしてボクはこんなに警戒しているんだろう?)
「もーアニーちゃんってば人見知りなんだから。私がそばにいてあげるね!」
「おはよう、アニーちゃん。待てば快路の日和ありってお店のケーキあるよ」
おとねちゃんと会話していると、女の人が話しかけてきた。
「わーい!あそこのドングリ粉使ったケーキ大好き!エリーちゃんも好きだって」
喜ぶおとねちゃん。エリーちゃんは確か保育園の同じ組の女の子で、兄がいる。
兄の名前はケイ……あれ?なんだか懐かしい気がしてきた。
「いつもありがとう、ミサキちゃん」
「尊敬するシズル先輩のためですから」
「どうしたの?こんな時間に?」
顔を赤らめて、お母さんと話すミサキさんに、ボクは尋ねる。
「急ぎ伝えたいことがあります。お邪魔しても良いでしょうか」
「良いわよ。どうせだし、朝ごはんどう?」
食後にケーキと温かいお茶が注がれる。お茶を飲み、ミサキさんは話し出す。
「ピューターさんについて、話しても良いと許可がおりました」
「お父さんの?」
ボクは聞き返す。お父さんはボクたちが生まれてすぐ亡くなった――ってあれ?
何か教わった気がする。思い出そうとすると、ぼんやりする。
「……と言うように、これまでは魔法の研究の事故で終わってました」
ふしぎな気分に浸っている間にも、話は続く。ボクは耳をそばだてて聞く。
「ようやく研究内容を家族は知って良いと許可が下りたので連絡しに来ました」
ミサキさんはかしこまった様子でお母さんに話す。
「その研究内容は『誰でも魔法が使えるようになる道具の開発』というものです」
ここで言葉を切り、ボクとおとねちゃんを見る。
「この話が外部に流出した場合、重大な情報漏洩で罰せらるのでご注意くだ――」
「ミサキちゃん、ストップ」
お茶を飲んで話を聞いていたお母さんが、ミサキさんを止める。
「ありがとう。ただ、難しい言葉は娘たちが混乱しちゃうわ」




