真琴、トレントに進化する。
真琴がトレントに進化する話です。そして、冒険者の仲間入りを果たします。
【ライフ経験値が一定量に達しました。上級種に進化します。進化によりスキル体力回復・身体強化を習得しました。衝撃耐性体になりました】
朝。目覚めたら、またしても進化していた。
「また進化したの。いい加減にして欲しいわ。今度は何に進化したのかな」
《スキル鑑定発動》
【種族=トレント。樹木と人間の両方の特徴を持つ魔物。枝や葉で敵を攻撃する。習得スキル=増殖・再生・鑑定・探知・体力回復・身体強化。耐性=麻痺・毒・呪い・衝撃】
「人間の特徴もあるなら、会話出来るかな。あと、歩行も出来るかな」
「あいうえお」
(おお!声が出せる)
私は歩いてみた。よちよち歩きだが、歩けた。
(そういえば、身体強化のスキルを習得したよね)
《スキル身体強化発動》
(おお!早く歩けるわ)
「あとは練習あるのみ」
私は歩行練習をする事にした。
「真琴さん、またですか」
マリアさんが呆れた表情で私を見つめている。
「そんな呆れた顔をしないでよ。好きで進化したんじゃないわ。勝手に進化するのよ。それに会話も出来るし、歩けるようになったのよ。これで私もマリアさん達と一緒に冒険できるわ」
「冒険者ギルドで従属魔物の登録が必要よ」
「従属魔物って何?」
「魔物を冒険に連れて行くには、従属の証明と問題を起こさない事を誓約書として提出する義務があるのよ。問題を起こした場合、申請者が全責任を負うのよ。勿論、試験もあるわ」
「大変なのね。仕方ない。冒険は諦めるわ」
私は冒険を諦める事にした。
「真琴さんなら、問題は起こさないから。一応、試験を受けてみる」
マリアさんが助け船を出してくれた。
「いいの?」
「ただし、絶対に問題を起こさないでよ」
「分かっているわ」
「それに、セイラ達に許可を貰わないとね」
「今度はトレントに進化したの」
「本当に不思議よね。何度も進化するなんて」
「解剖のしがいがあるわ」
「真琴さんが歩けるようになったので、従属魔物として冒険に連れて行くことしたの。それで、皆の許可が欲しいのよ」
「セイラさん、ミオさん、ラムさん、お願いします。私を冒険に連れて行って下さい」
私は皆に懇願した。
「私は構わないけど」
「私もいいわ」
「問題を起こしたら、解剖していい」
(ラムさんは悪魔か)
「話は決まりね。それじゃギルドに行きましょう」
「おい!あれって、トレントじゃないか」
「間違いない。トレントだ」
「何故、トレントが町の中を歩いてるんだ」
町の人々が私を注視している。
冒険者ギルドに着くまで、針のムシロだった。
「すみません。従属魔物の登録をしたいんですが」
マリアさんが受付嬢に声を掛けた。
「従属魔物の登録ですね。そちらのトレントを登録するのですか」
(さすがに、受付嬢は落ち着いているわ)
「はい。トレントのマコトです」
私はマコトという名前で登録する事になった。
「それでは、登録申請書の記入と誓約書に署名をお願いします」
マリアさんが記入と署名をした。
「これで、いいですか」
「確認します」
受付嬢が提出物の確認をしている。
「確認しました。問題ありません。それでは、試験を行います。訓練場に案内します。トレントと一緒に来て下さい」
私達は訓練場に向かった。
「それでは、試験を始めます。最初に試験官と闘ってもらいます。試験官はCランクの冒険者です。確認します。本当に試験を受けますか」
「はい。受けます」
私は元気良く答えた。
「トレントがしゃべった」
受付嬢が驚いて、後ろに倒れた。
「大丈夫ですか?立てますか?」
私は手が無いので、枝を差し出した。しかし、受付嬢は反応しない。私はマリアさんの方を向いた。マリアさんは頷くと、受付嬢に手を差し出した。
「すみません。説明不足でした。私のトレントは人と会話が出来るんです」
「そうなんですか」
「それでは、試験をお願いします」
マリアさんは受付嬢を促した。
「はい。試験官を呼んできます」
受付嬢は逃げるように、試験官を呼びに行った。
「真琴さん、駄目じゃない。人前でしゃべったら」
マリアさんに叱責された。
「ゴメンなさい」
私は素直に誤った。
受付嬢が大男を連れて来た。
「こいつが相手か。俺の試験は厳しいぞ」
「大丈夫です。この子は頑丈ですから」
マリアさんが自信満々に答えた。
「それじゃ、始めるぞ」
《スキル身体強化発動》
「1回だけ先に攻撃させてやる」
大男が余裕綽々に言った。
(それじゃ、遠慮なく。葉っぱ手裏剣。なんちゃて)
私は葉っぱを手裏剣のように高速で飛ばした。
「ぎぁぁぁぁ!」
大男は葉っぱを全身に受け、悲鳴を上げて、気絶した。
(やり過ぎたかな)
「それまでです」
受付嬢が慌てて、終了を告げた。
「それで、結果は」
マリアさんが受付嬢に尋ねた。
「勿論、合格です」
(やった~)
「次の試験は何ですか」
「一般人に危害を加えないかの試験ですが、会話が出来るなら、問題無いでしょう。合格です」
「ありがとうございます。あと、私が会話出来る事は関係者以外には話さないで下さい」
私は受付嬢にお礼とお願いを言った。
「分かっています。これで試験は終了です。お疲れ様でした。それと、ギルドマスターに会ってもらいます」
受付嬢は眉間にシワを寄せながら、微妙な笑顔で終了を告げた。そして、ギルドマスターの執務室に案内された。
「トントン」
受付嬢がノックした。
「誰だ」
「ドロシーです」
「入れ」
「失礼します」
(受付嬢さんはドロシーって名前なのか)
ドロシーさんがドアを開け、私達に部屋に入るよう、促した。
私達は部屋に入った。
「お前は確か、マリアだったか。後ろのはトレントか。ドロシー、用件は何だ」
「はい。彼女達は従属魔物の登録に来たのですが、このトレントについて、報告しなければならない事があります」
「内容は何だ。手短に報告しろ」
「実は、このトレントは人と会話が出来るのです」
「ドロシー、冗談を聞く暇など無いぞ」
ギルドマスターは眉間にシワを寄せてドロシーを叱責した。
「冗談ではありません。マリアさん、トレントにマスターと会話するよう、命令して下さい」
「分かりました。マコト、ギルドマスターに挨拶をしなさい」
「初めまして、ギルドマスター。トレントのマコトです」
私は初対面の挨拶をした。
「トレントがしゃべった」
ギルドマスターが先程のドロシーさんのように驚きの声を上げた。
「本日は従属魔物の登録に参りました。無事に合格しました。ありがとうございました。私が会話出来る事は関係者以外には話さないで下さい」
ギルドマスターは固まったまま、動かない。
ドロシーさんを見ると、満足げな笑顔を浮かべていた。
(ストレスが溜まっていたのかな)
「これは悪夢なのか」
ギルドマスターが呟いた。
「いいえ、現実です」
ドロシーさんが否定した。
「ドロシーさん、もういいですか」
「すみません。もうしばらく、お願いします。マスター、このトレントの特別保護指定生物の認定を進言します」
「「特別保護指定生物?」」
私とマリアさんがハモった。
「特別保護指定生物とは、絶滅種など保護する必要のある生物に特別に与えられる権利みたいなものよ。権利を与えられた生物に危害を加えたら重罪になるわ。そして冒険者ギルドを敵に回すという警告の証でもあるわ」
「そんな、すごいものにこの子を認定してくれるのですか」
「そうよ。このトレントには十分資格があるわ。マスター、認定してくれますよね」
「考える時間をくれ。簡単には決められん」
「どのくらいの時間ですか。マスター」
「一週間程、考えさせてくれ」
「分かりました。マリアさん、いいですか」
「私達は問題ありません」
「それでは、一週間後にギルドに来て下さい。今日はお疲れ様でした」
「ドロシーさん、就業後に予定はありますか」
「別に予定はありません」
「それなら、私の家に来てもらえますか。大事な話があります」
「分かりました。一階のフロアでお待ち下さい」
「はい。では後ほど」
私達は一階のフロアで、ドロシーさんを待っていた。
「お待たせしました」
ドロシーさんが息を切らせながら、私達の方に歩いて来る。
「それじゃ、行きましょう」
私達はマリアさんの家に向かった。
「マリアさん、ドロシーさん、誰かが、私達を尾行しています。どうしますか」
「誰かしら。まさか、マスターの指示じゃないでしょうね」
「人気の無い場所まで誘導して、理由を聞き出しましょう」
「危険だわ」
ドロシーさんは不安なようだ。
「大丈夫です。私に任せて下さい」
「ドロシーさん、マコトは強いから、任せましょう」
私達は、尾行している連中を人気の無い場所に誘導した。
「二人共、結界を張ります」
《スキル結界発動》
光の幕が二人を包む。
《スキル探知発動》
(五人か)
「そろそろ、姿を見せなさい。変態さん達」
私は彼らを挑発した。
「誰が変態だ」
「女性の後を尾行するのは、変態と決まっているのよ」
「ふざけるな。先程はよくも恥をかかせてくれたな」
私は先頭の男を見た。見覚えが無い。
「あなた、誰?」
「あなたは、コザ。マコトさん、試験官だった冒険者よ」
ドロシーさんが教えてくれた。
「コザ。逆だと雑魚ね」
「もう勘弁できねえ。皆、やっちまえ」
男達が一斉に襲いかかってきた。
《スキル身体強化発動》
「「「「「ギャァァァァァ」」」」」
男達を一発で殴り飛ばした。そして、気絶した男達を警備官に引き渡した。
私達は改めて、マリアさんの家に向かった。
「それで、大事な話って何?」
「マコト、あなたの事を話すけどいい」
マリアさんが私の確認を取る。
「私は構わないわ」
私は即答した。
「ドロシーさん、今から話す事は他言無用よ。たとえ、マスターでも」
「分かりました」
「話というのは、マコトの秘密よ。簡単には信じられない話だけど、真実よ。私達が出会った時、マコトは普通の薬草だったの」
「ちょっと待って」
「ドロシーさん、最後まで黙って話を聞いてくれる。疑問はその後に答えるから」
「分かりました。話を続けて下さい」
「マコトは進化と退化を何度も繰り返しているのよ。一度目は薬草からミツタケ。二度目はミツタケから薬草。三度目は薬草から麻痺草。四度目は麻痺草から猛毒草。五度目は猛毒草からアルラウネ。六度目はアルラウネからトレント。これは私の推測だけど、マコトはこれからも進化を繰り返すわ。話は以上よ」
「悪いけど。そんな話、信じられないわ」
ドロシーさんは、顔色が真っ青になっていた。
「そうでしょうね。実際に目撃している私でさえ、悪夢だって思いたいもの。けど、紛れもない真実よ」
「どうして、私に話したの」
「冒険者ギルド職員内に、私達の協力者が欲しかったのよ。あなたが一番信用出来そうだから」
「私は話を聞いた事を後悔しているわ」
「誰にも話さないと誓うなら、今すぐ帰っていいわよ」
「マコトさん、あなたは何者なの」
ドロシーさんが疑いの目で私を見つめる。
「帰らないの。いつまでも此処に居ると、もっとショックを受ける話を聞く事になるかもよ」
マリアさんがドロシーさんを挑発している。
「もう後には引けないわ。私も覚悟を決めるわ」
「分かったわ。最後の秘密を話すけど本当にいいのね」
「いいわ」
「私とマコトは異世界からの転生者なのよ」
「どういう意味」
「この世界とは違う世界の人間だったのよ。そして私は人間に、マコトは薬草に生まれ変わったのよ」
「そんな事、あるわけ無い。あなた達、狂っているわ」
「本当に狂っているなら、楽だけどね。私達は正気よ。この世界に馴染む為、どんなに苦労したか。あなたに私達の苦しみは永遠に分からないわ。私はまだいいわ。だけど、マコトは人間から薬草に生まれ変わったのよ。私にだって、完全にその苦しみは理解できないわ」
「マリアさん、もういいよ」
私はマリアさんを止めた。
「それでどうするの。私達の事を全て忘れると誓うなら、帰っていいわよ」
「帰らないわ。覚悟を決めると言ったでしょう」
マリアさんとドロシーさんは真剣な眼差しで睨み合っている。
「最後のチャンスよ。本当にいいのね」
「何度も言わせないで」
「ドロシーさん、ありがとう」
マリアさんはドロシーさんにお礼を言った。
「今日はお開きにしましょう。次は1週間後ね」
「それじゃ、またね。お休みなさい」
ドロシーさんは帰宅した。
「私達も休みましょう」
「マリアさん、ありがとう」
「急にどうしたの」
「何でもない。お休みなさい」
「ええ、お休みなさい」
真琴達が王都に向かう予定です。