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『ざまぁ』された勇者の子  作者: ha-nico
旅立ち
8/15

第5話 儀式を嫌がる理由

授業を終えた5人は、帰宅するため校門に向かって歩いていた。


「うふ、うふふふふふ♪」


お昼休みにさっそく腕輪を付けたクリードはほくほく顔だった。午後の授業中もチラッチラッと何度も腕輪を見てはほくほくしていた。


今も腕輪を眺めてニコニコしている。その後ろを同じくほくほく顔のカリンが、イリーナの腕に抱き着いて歩いていた。


「ねぇ!カリン聞いているの?私はツンデレでは・・」


「うん、うん!イリーナは可愛い!!!イリーナはそのままでいいの!!」


「もおっ!!聞いてないでしょ!!それに歩きづらいわ!」


カリンのデレデレの理由は、授業を終え、教室を出る前に腕輪を付けたイリーナが笑顔で見ているエストに気づくと「ふん!ま、まぁ、なかなか良いじゃない。ウチの商品だし、当然と言えば当然よね!」などと語尾を強めに発しながら、顔をぷいっと背けたのだったが、その背けた方向がカリンの真正面だった。耳を真っ赤にして嬉しそうにニマニマしているイリーナの表情に、カリンの心は打ちぬかれてしまった。


まだほくほくしている。余程お気に召したらしい。


「なぁ、エスト。そう言えば『ツンデレ』って言葉も、3人の勇者が関わってるって知ってたか??」


歩きづらそうにしているイリーナをぼーっと見ながら、その後ろを歩いていたドゥーエが、思い出したように隣を歩いているエストに問いかけた。


「うん!もちろんだよ!あれは3人の勇者が召喚されて、王の間に招かれたときに・・」


「待った!!分かった!もういい・・大丈夫だ!!」


「え?何で??」


「お前、勇者系の話になると終わらねーんだもん。」


「は?・・・・・いや、最後まで聞いてもらうよ!!」


一瞬ぽかんとしたエストだったが、ニヤッと笑うと目を光らせた。


「いい!!いいって!!」


完全に失敗したという顔をしたドゥーエはその場から逃げ出した。


****


3人の勇者の功績はもちろん魔族やバスチェナを倒した事だったが、その他にもこの世界に大きな影響を与えたものが多々あった。


特に影響が大きかったのはこの世界には無い言葉や、彼らが好む服装だった。異世界の文化は人族にとって新鮮だったらしく、彼らが来るまでこの世界には無かった「ざまぁ」や「ツンデレ」などの新しい言葉は一気に広まっていった。また、「カーディガン」や「パーカー」「ポロシャツ」を普段着にするという習慣が無かったが、ここ10年程ですっかり定着した。


その他にも食事や音楽、娯楽品など彼らがもたらした影響は多岐に多岐にわたった。



****



「また明日ね。」


「うん!またね。」


「バイバーイ!」


区の交差点でイリーナ、ドゥーエ、クリードと別れたエストとカリンは、いつも通り農産区に向かい歩き始めた。鼻歌混じりに歩くエストは、昼間に少し落ち込んでいたクリードが、元気になった事に満足していた。


「みんなに喜んでもらえて良かったよね。」


「うん。」


「クリードなんて泣いてたからなぁ。あんなに喜んでくれて嬉しかったなぁ。」


「クリード・・うん、そうだね・・・。」


「あれ?どうしたの?カリン。」


しかし、いつもより少しトーンが低めのカリンの声に、心配したエストは足を止めた。


「うん・・あのね、お昼にクリードが言ってたこと思い出して・・・・『私も分かるなぁ。』って思っちゃって・・・。」


「寂しいってやつ??」


「うん。最近、皆と笑いあってると『このままずーーっと一緒にいれたらいいのに!』って思っちゃうの。」


「そうかぁ。うん・・そうだね。」


カリンの言葉に肯定だけしたエストは、そっと俯いているカリンの頭を撫でた。最初ビクッとして驚いた様子のカリンだったが、目を閉じてそのまま撫でられ続けた。幼い頃から泣いたり落ち込んだりした時は、決まってエストに落ち着くまで頭を撫でてもらっていた。


****


洗礼の儀式は、ただの儀式ではなく将来を左右するものでもあった。『女神の心』は触れたその者の才能や素質を判定するというものでもあった。


その判定により、頭脳が特筆した者や魔力や武力の才能や素質を見出された者は、稀に神国への入国が認められる場合があった。そして、認められた者は直ちに神国の高等学校や魔法専門の高等学校、騎士専門の高等学校に入学する《《義務》》があった。アリエナにある学校に在学中の者にとっては転校のような形になるが、それは女神に認められたという証で、大変な(ほまれ)だと言われていた。


現に、先月イヴァリアへの入国が認められた生徒が、どや顔で学園を去っていったのは記憶に新しい出来事だった。


その他、イヴァリアへの入国まではいかないものの『女神の心』の判定を伝える司祭より、アリエナの政治機関や騎士団へ進むよう助言される者もいれば、そのまま家業を継ぐようにと言われる者までその判定内容は様々で、教会に入り女神に仕えるよう助言される者もいた。助言を受けた者の中で、稀に担当教師の口添えにより助言と違う道に進む者がいるが、そのほとんどは女神の助言に従っていた。


そのため、結果によっては5人全員が離れ離れになる可能性があった。むしろ『仲が良い者同士が同じ内容の助言を受ける』事の方が可能性としてはかなり低かった。


それ故に周囲に話すことはないが、カリンは儀式を受ける事をとても嫌がっていた。


陽は傾き、マーテル河に架かる橋の歩道に、小さい2つの影が長く伸びていた。


「このまま時間が止まればいいのに・・・。」


何よりエストと離れ離れになる事が嫌だったカリンは、エストに頭を撫でられ続けながら、また叶わぬ事を本気で願うのだった。



****



「ただいまー。」


「お!おかえり。」


「何か手伝う?」


「ん。今日は大丈夫―。」


エストが家に帰ると、台所に母親のリュナが立っていて夕飯の準備をしているようだった。周囲でも美人と言われるリュナは、いつも腰ほどまである青い長い髪を首元で結んでいた。すらっとした顔立ちに、涼やかな目の色は深い青だった。エストの髪と目の色は母の遺伝によるものだった。昔、家に初めて遊びに来たドゥーエが、リュナを見て「お前の母さん、めちゃくちゃ美人だな。」と言って頬を赤らめ、それを聞いたイリーナが不機嫌になったという出来事があったのは余談だ。


エストの家は木造の平屋建てで、間取りは3Kと周囲の家と比べれば、少しこじんまりとした家だったが、2人暮らしの彼らにとっては十分な広さだった。


トントンと野菜を切っていたリュナは、そのまま台所に立っているエストに気づくと振り返った。


「ん?どうした?何か飲む?」


「ううん、大丈夫。今日、腕輪を皆に渡せたよ!」


「え?昨日『来年になったら渡す。』って言ってなかった??まぁ、いいわ。それよりどうだった?喜んでもらえた?」


「うん!クリードなんて泣いて喜んでくれた!」


「あははは!!なんだか目に浮かぶわ。良いことしたね!あたしはあんたのそういう所大好きよ。」


笑顔で息子の頭をくしゃくしゃと撫でたリュナであったが、少し元気のないエストの様子が気にかかった。


「どうしたの?浮かない顔して。何かあった?」


「うん・・腕輪は喜んでくれたんだけど・・・今日カリンとクリードが、離れ離れになるのが寂しいって言い出して・・・僕何て言えばいいのか分からなくなっちゃって。」


「そう。だから渡す時期を早めたのね。」


「うん。でも、上手く言葉が出なくなって。」


「まず座りな。お茶入れるから少しお話しよう。」


「うん。部屋に鞄置いてくる。」


そう言って台所を出ていく息子の背中を見ながら、リュナは小さく呟いた。



「優しい子に育ってくれたよ・・・・正人。」


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