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 乗り合いのホロ馬車を何度も乗り換えて、遠くに王都が見えてきた時は、あんなに行くのを躊躇ためらった場所なのに懐かしいと思ってしまった。



「ほら、あれが有名な祈りの塔だ。」



 御者の後ろに陣取って見ていたら、それに気づいた御者が、笑いながら塔を指さした。

 御者は見た限りだと、まだ30代前半の若い男性だった。笑顔が好ましい。

 近隣から観光で来る人もいるしあまりにまじまじと見ているので、モリーナもそのたぐいだと思ったのだろう。

 ここにいる誰よりも見知った場所。懐かしくて、苦しくて…でも、陛下との思い出の場所。



 見た瞬間に不安にかられるかと思ったが、思ったよりも平気な自分がいることにモリーナは気づいた。

 次第に近づく祈りの塔。



「大きいですね、塔って。あと、あまり外観が綺麗じゃない。」



 作られてから補修はされているようだが、どこか薄汚れた外壁。蔦まで絡まっているのが見える。

 聖女候補だった時はそんなところを見る余裕なんてなかったし、聖女となってからは外にも出れないので、外観なんて気にしたことはなかった。

 自分がいた塔からは、他の塔は遠すぎて外観なんて遠眼鏡でもないと見れない。

 見上げながら適当な感想を言うと、御者は尚も笑った。



「観光に来た人はみんなそう言うよ。もっときらびやかで輝かしい場所であることをみんな期待してるのさ。」



 それは国の守りの要である祈りの塔に、ひいてはそこに住む聖女への期待のあらわれでもあるのだろう。



 実際は聖女はそんなに綺麗なものでも、きらびやかでもないですよ。



 なんて言えるはずもなく、モリーナは御者の言葉への反応に困って押し黙った。

 御者はモリーナが初めて見る塔や王都の姿を見入っているとでも思ったのか、それ以上話しかけてくることはなかった。



 乗り合い馬車が王都の町並みの中、大通りを駆け抜けていく。

 ホロ馬車が停留所に着くと、降りやすいように後部に板がかけられ、モリーナ以外の乗客4人がぞろぞろと馬車を降りていく。



「この馬車はこの後、貴方が馬を御して隣町まで戻るんですか?」



 モリーナが馬車から降りずに御者に尋ねると、御者は首を左右に振った。



「いや、他の担当のやつがいくと思うよ。自分は短期で雇われてるだけだしな。」


「なら、次の担当の人にライル村までの手紙を渡してもらえますか?」



 住んでいた村の名前なんて、村をでなければ知らなかった。他の場所を呼ぶ名称なんて「隣の村」か「山を越えたところの町」程度で、村の名称なんて知る必要なんてなかった。

 モリーナは「山を越えたところの町」で地図を見て初めて、住んでいた村の名前を知った。



 王都に無事に着いた知らせを送ってもらう為に、事前に手紙を用意していた。

 手間賃としての銭貨10枚と手紙を差し出すと、御者は快く受け取って懐に手紙とお金を入れた。



 銭貨50枚で銅貨1枚の価値。普通に手紙を出すだけなら銭貨3枚でいいところだけれど、ちゃんと届けてもらうために念には念を入れる。

 御者に手紙や荷物の配達を頼むのはこの国ではよくあることだったが、お金だけ受け取って預けたものは捨ててしまう人もいるので、頼む人はよく見極めないといけない。

 モリーナは半日かけて隣町から王都に来る間、御者の人柄を見極めて頼むことを決めていた。



 モリーナが馬車を降りると、少しの着替えしか入れていないのに肩掛けの鞄が肩に食い込むような感じがして、疲れているのだなと思った。



「良い観光を。もし宿をとるならここの少し先にある山鳥亭に行くといい。飯がうまいし、女将の気前もいい。俺の名前はガル。ガルの紹介と言ったら安くしてもらえるよ。女将は俺の伯母さんなんだ。」



 そう言って、御者もといガルは親指で自分の胸元を示した。手紙を預けるお金を奮発したから、礼だろう。

 有り難く礼を言うと、ガルはモリーナに手を振りながら停留所から馬車を御して行ってしまった。馬車を置いておく場が別にあるらしい。



 胸元を押さえると、入れていた手紙がカサリと音をたてる。

 先に城を尋ねるか宿を尋ねるか。

 モリーナは迷ったが疲れを感じていたので、先に宿に向かうことに決めた。

 3年も待ってくれたのだから、1日くらい待たせたところで変わりはしないだろう。



 モリーナは貰った旅費を節約していたので、まだ随分とお金が残っていた。

 むしろ貰いすぎだと思ったので、使った額だけ覚えていて残りは返すことに決めていた。



「山鳥亭は……と。」



 モリーナがキョロキョロと周囲を見回しながら歩くと、言われた通り少し先に木の看板に鳥の絵と山鳥亭と文字が書かれた看板があった。

 宿の扉に近づくと、お昼時なのか美味しそうな匂いが漂ってきてお腹がなった。

 隣町で馬車に乗る前、安い黒パンと水を口にしただけなのでかなりお腹がすいていた。

 部屋が空いているといいと思いながら扉を開けると、扉についた来客を知らせるベルがカランカランと音を立てた。



「いらっしゃい。お嬢さん1人かい?」



 カウンターで少し太めの女性が笑顔でモリーナを迎え入れる。女性一人旅は珍しいので、他にも人がいるのかと思ったようだった。



「1人です。ガルさんの紹介で来ました。部屋はありますか?」


「おや、ガルの紹介か!ならサービスしないとね。女性1人なら3階に良い部屋があるよ。1泊銅貨1枚。食事を希望するなら、1食につき銭貨10枚だよ。」



 にこにこと笑う顔が、ガルの笑顔とそっくりで確かな血筋を感じさせた。



「ならとりあえず5日で食事つきでお願いします。」


「5日間……ガルの紹介だから、食事を銭貨5枚ににまけとくよ。銅貨6枚に銭貨25枚だ。ここは先払い制。途中で宿を引き払ったり、食事がいらないなら言ってくれれば、宿を出るときに差額を返すよ。」


「ありがとうございます。じゃあこれで。」



 さすがに王都ともなれば宿代も高い。

 泊まり続けていたら、陛下に返すお金がなくなってしまうし、破産してしまう。

 早めに仕事と住む場所を探すしかない。

 言われた通りの値段を出すと、女将はお金を箱にしまった。

金貨=銀貨20枚

銀貨=銅貨30枚

銅貨=銭貨50枚


です


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