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 陛下に会って話をしよう。陛下が聖女について何を思ってるのか知りたい。



 モリーナは、自分が聖女に選定されたときのことを思い返した。


 聖女の有力候補とされた娘はまず、王都の教会に一度集められ、2ヶ月ほどその宿舎で過ごす。

 その間に礼儀作法の教育を受ける。祈りの塔には教皇はもちろんのこと、貴族も訪れることがあるので当然の処置だろう。

 礼儀作法を覚えるのに苦労した覚えがある。


 その教育の際に人柄や健康状態を見て、聖女として向いていないようなら家に帰されるらしい。

 それはモリーナが聖女と選別された後に教えられた話だ。



 残った数名が、翌月に再び輝石による選別の儀式を受けて聖女に選定される。

 つまり聖女に認定されるまで3ヶ月はかかるので、王都に呼ばれる前の段階では聖女に決まったわけではないのだ。




 そろそろ月に一度の王都からの使者が手紙を持ってくる時期だ。その時にシャーロットも王都に連れていかれるだろう。

 聖女の話を聞いて彼女の家に行った時、モリーナはシャーロットに話しかけられて、嘘でも『おめでとう』なんて口にできなくて、ろくに話もできずに逃げ帰ってしまった。

 あれから一度もモリーナはシャーロットと会えていない。シャーロットの親が、シャーロットが王都に行くまで怪我などさせないよう家にほぼ引きこもらせているようで、会ったら何を言えばいいのかわからないので、会えないならその方がいいとモリーナは思った。



 モリーナは使者が来る前にと、陛下に手紙をしたためた。王都に向かうこと、聖女のことで話がしたいこと。あと………。

 少し頼むのを躊躇ためらったが、モリーナは仕事の斡旋をしてもらえないかも手紙に書いた。

 陛下の伝手なら、城の下働きくらいさせて貰えそうな気がする。村で住めなくなりそうなのは陛下のせいもあったりするので、事情が伝わればちょっとくらい頼んでも悪くないと判断される……はずだ。



 いつもは村長を介して手紙をやり取りしていた。けれど今回は、どうしても直接渡したくて村長に頼んだ。この村を出るつもりだから、それを伝えないと手紙がきたときに行き違いになるからだ。



「王都との使者との対応がわからなくなったら、わたしの真似をすればいいからな?」



 本来なら片田舎の娘が、習っていない行儀作法などわかるはずがない。付け焼き刃で村長が教えてくれたけれど、わかっているものをわからない振りをしながら練習するは少し苦痛だった。



「ようこそお越しくださいました。モリーナと申します。」



 村長が家に使者を迎え入れると、モリーナは村長に教えられた通り使者に対して平伏した。聖女時代は跪いて頭をたれるのが普通だと思っていたけれど、ただの平民である今はこれがふさわしいと思った。



「………村長、少し彼女と2人に。」



 使者はモリーナを視界に入れると、村長に目配せして告げた。村長は頷くと、礼をして家から出ていく。使者はいつもそうしているのか、慣れたように部屋にある古びた長机の周りに置かれた4つの椅子の1つに座った。モリーナに、その向かいに座るように勧める。

 モリーナは、勧められた通り躊躇ためらいがちに椅子に座った。



「モリーナ様、お話しするのは初めてですね。私は陛下がこの村を初めて訪れた時に同行させていただきました。陛下よりお話は伺っています。」



 普通なら平民であるモリーナには敬語である必要はまったくないし、名前に様をつける必要もない。それをしないということは、モリーナが聖女モリーナの生まれ変わりだということも知っているのだろう。

 にわかには信じがたい話なのに、陛下がそれを話しているあたり、よほど信頼の厚い人材なのがモリーナにはわかった。



「はじめまして。今は聖女ではないので、モリーナとお呼びください。また、敬語も必要ありません。今は片田舎のただの娘、モリーナです。」



 モリーナが恐れ多くて頭を下げると、フと空気が揺れるのがわかった。

 モリーナが顔をあげると、使者がほほ笑んでいた。



「すみません、陛下も『モリーナならこういうだろう』と同じことをおっしゃったので…つい。」



 手紙は何度も交わしているが、今世で直接話したのは一度だけだ。そんな陛下に性格を見抜かれているのがなんだか恥ずかしい。

 私は恥ずかしさを誤魔化すように、手紙を差し出した。



「これを陛下にお渡しください。あと私はこの村を出て王都に向かうつもりなので、この村に手紙を送らなくてもよいとお伝えください。」


「どこか王都に働き口や住む場所がお決まりで?」


「いえ、まだ決まっていません。ですが 、これ以上私が村にいては、村が豊かになりすぎますので。」



 そう言って、村長の家の窓からも見える井戸に視線をやった。

 モリーナの視線につられたように使者は窓の外を見て、話の意図に気づいたのか使者は頷いた。



 人は突然豊かになりすぎた場所があれば羨むものだ。国は聖女により魔物からは守られているけれど、国内に明確な貧富の差はあり、野盗だっている。村が自分のせいで野盗に襲われるなんて、考えただけで恐ろしい。



「こちらを。もしモリーナ様が王都に行くとおっしゃった時の為にと、以前から預けられていました。」



 使者は少し古びてよれている手紙を差し出した。封蝋を剥がして中を見ると、金のインクで陛下のサインがされた書が入っていた。



「これを城の門番に見せれば、陛下への拝謁が叶います。平民が陛下と会うのは通常は難しいことですから。」



 紙のよれ具合から、数年前から使者に託されていたのだと察した。


次回、王都に向かいます。

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