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 シャーロットが面食らうのも無理はない。

 同じ村出身とはいえ、特段仲良くもない相手からそんな申し出がでるなんて、思いもしないだろう。

 でもシャーロットが吐露した言葉を思えば、モリーナはいても立ってもいられなかった。


 シャーロットの言葉を借りるなら、モリーナは()()()のだ。

 モリーナとシャーロットは、似て非なる人生を送っている。

 かたや元聖女、かたや聖女候補。

 それが無ければ、2人共がただの田舎の村娘。

 根本的に違うのは、知識だ。


 文字の読み書き、お金の使い方、乗り合い馬車の乗り方、王都の地理。

 モリーナもそれらの前世の記憶がなければ何も出来ず、村の外で生きようなんてことも考えず、ただ村で農耕をして一生を終えていた筈だ。

 そう、前世で願った平凡な人生を。


 その上、前世の行いのおかげで陛下に招致されて王都を訪れることが出来て、前世の行いのおかげでコルト侯爵の世話になることもできた。

 これがずるくなくて、何だと言うのだろう。


 だからシャーロットから文字を知る機会がなくてバカにされたと聞かされた時、身につまされる思いをした。

 前世が無ければモリーナも、シャーロットと同じ立場に置かれていた筈だからだ。


 それを気にしたり気後れする必要もないのだけれど、どうしても心にひっかかってしまったから、提案してしまった。


 シャーロットは何をいっているんだって不可思議な顔をした後に、なにか思案するように目をそらして黙ってしまった。

 風が通り、ざわざわと木の枝がしなる。

 そうこうしているうちに、小さな鐘のが遠くから聞こえてきた。

 この国では、1日3回の大聖堂の鐘とは別に、長い長い梯子を登った先にある、鐘楼台に吊るされた小さな鐘が1刻(2時間)ごとに鳴る。



「あ、時間……。」



 シャーロットが鐘がなった方角を見て、腰を上げる。

 聖女候補も午後の活動が始める時間だ。いつまでもここにはいられない。

 肉串が入っていた紙袋に食べた後の串を折って入れてると、シャーロットが食べた分のゴミも受け取ろうと手を差し出す。条件反射のようにゴミを差し出すシャーロットに、モリーナはそのまま語りかける。



「もしその気があるのなら、今日の夜に山鳥亭って宿に来て。私が今、働かせてもらっている場所なの。明日からはちょっと別の場所で働くけれど、仕事が終われば夜には行けると思うから、待ち合わせ場所にしましょ。」



 少し間があって、返事がある。



「行かなかったらどうするの?」


「貴方が今日来なくても、私が王都にいる限り待ってるわ。」



 あの勝ち気な性格だ。シャーロットは聖女には向いていないし、選ばれないと確信がある。

 聖女候補として選ばれた者は故郷を出て王都で働く者が多いそうだから、彼女もその道を選ぶだろう。

 シャーロットが王都で過ごしている間にいろんな作法を身につければ、聖女候補だったといえば尚更、箔がついていろんな仕事を見つけることも容易になるだろう。

 元聖女だから、色々教えることができる。

 シャーロットにとって、少しでも力になれるはずだ。

 ただシャーロットがモリーナの手をとろうとしないのなら、それはそれでかまわない。



「じゃあ、またね。」



 シャーロットから返事はない。

 モリーナはそれを気に止めることなくシャーロットに背を向けると、宿で今か今かと待っているであろう2人の居る、山鳥亭へと向かった。



 ※ ※ ※ ※ ※


 山鳥亭では、城で働くことが決まったことを知らせると、2人はまるで自分のことのように喜んでくれた。モリーナがここで働けないと仕事が大変になるというのに。



「コルト侯爵だっけ?まさか城で働く後見までしてくださるなんて、すごいことだね。」



 2人には詳細まで話す必要はないと思い、コルト侯爵が紹介者として仲立ちしてくれたとだけ説明した。



「ええ、そうなんです。侯爵様のお屋敷にご挨拶にも行かないといけなくて。」



 モリーナの言葉に女将さんとおじさんが顔を見合わせる。



「なら何か手土産を持って行った方がいいな。」


「うちの料理を食べに来てくださった方だし、何か手作りが良いかね。」



 2人だけで何やら息巻くと、おじさんが早速厨房へと向かう。



「え、いや、あの、そこまでしていただかなくても良いですから!」



 もはや暴走とも言ってもいいだろう。

 モリーナは止めたが結局、おじさんが張り切って作ったワンホールのアップルパイが入った紙箱を両手で抱え、コルト侯爵のお屋敷を訪ねることとなった。

 白亜の壁に赤い屋根。もはやお城に近い重厚で大きなお屋敷から少し離れたところで、モリーナは紙箱を見て自問自答する。

 いくらコルト侯爵が美食家で、貴族用のレストランだけではなく山鳥亭のような平民が行く宿の食事処でもお忍びで行くような方であろうと、アップルパイを持っていって喜んで貰えるのだろうか。だからといって持ち帰るわけにも行かない。

 モリーナがもだもだとしていると、屋敷の警備兵に奇妙な動きをしているのに気づかれ、少し厳しい口調で話しかけられた。



「そこのお前、そこで一体何をしている。」


「わっ私は、怪しい者ではありません!」



 人の気配に気づかなかったので飛び上がらんばかりに驚いたが何とか返答するものの、明らかに怪しい者のような返事をしてしまった。

 ますますこちらを怪しむ兵士に向かって、アップルパイの箱を傾けないように気を付けながらも頭を下げ、改めて身を正した。



「改めてご挨拶申し上げます。私はモリーナと申します。コルト侯爵様よりこちらに伺うよう申し付けられ、コルト侯爵のお屋敷に参りました。」



 片手で鞄を手探りして、コルト侯爵から預かった手紙を取り出して兵士に渡す。

 兵士は受け取った直後までモリーナを怪しんでいたが、手紙の封となっていたシーリングワックスにあるコルト侯爵家の家紋を見ると、ガラッと態度を変えた。



「家の者に確認して参りますので、しばらくお待ちください。」



 兵士はかしこまると、侯爵家の屋敷の前でモリーナを待たせたまま、屋敷の方に向かっていった。

 そのままモリーナが待っていると、少しして屋敷の方から先ほどの兵士を伴った男性がこちらにやってくるのが見えた。


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