他人
ドーナッツを食べる時、僕はいつも虫歯を恐れながら食べていた。だから、できるだけすぐに歯磨きができる状況で、ドーナッツを食べるように心掛けていた。彼女がドーナッツを食べようと言って、僕の顔が少し引きつったのは、ここが洒落たカフェで、歯磨きなんかできそうになかったからであって、別にドーナッツが嫌いなわけではなかった。それに、僕は歯ブラシを持っていなかった。僕はできるだけ砂糖のついていないドーナッツを選んだ。
「甘い物の気分じゃないのね」と彼女が言った。
「まあね」と僕は言った。
彼女はチョコでコーティングされているやつと、シナモンがかかったやつと、砂糖が所狭しとまぶされているやつの三つを選んだ。こんなに食べたら頭がぼんやりするだろうな、と僕は思った。
僕と彼女は窓際のテーブル席に向かい合う形で座った。彼女はもう我慢がならないというように、ドーナッツにかぶりついた。とても大きな一口だった。僕はアイスコーヒーをストローで飲んだ。
「美味しい?」と僕は聞いた。
「とっても」と彼女は言った。
それから、彼女はドーナッツをこちらに渡すような動作をしながら、一口食べる? と僕に聞いた。僕はそれを断った。断ってから、こういう時は一口食べて、美味しい、とでもいうべきだと思った。一瞬だったけれど、僕と彼女の間に他人のような空気が流れた。