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古代戦艦クルクス ~呪われた女教王の祈り~  作者: SheilaCross
Episodeー2「誰の為の壁」
8/17

―1―



 攻撃機ギデオンはすぐさま、威嚇閃光を避けながら敵の姿を探している観測機イザヤと攻撃機バラクの元へと追いつき、先頭に躍り出た。


『バラクからギデオンへ。敵の姿はあれきりだ』

『こちらイザヤ。威嚇閃光に熱量や質量を感じられません。これは……光が散っているだけのようですね』

 郡山が忠告する。『いや、とりあえず避ける越したことはない。何が起きるかは分からないからな』バラクの機体は、飛び方を雛に教える親鳥のように、慎重に閃光を避けてみせた。


 「裁いてはならない」シルヴィオは、マタイによる福音書を読み上げる。「裁かれないためである。あなた方が人を裁くように、あなた方は裁かれ、あなた方が量るその升で、あなた方にも量り与えられる」

 ティラナは心の中で十字架のしるしを行うと、無意識に「キリストに賛美」と呟いた。



 それは、ふと起きた。不意に四角い物体(キューブ)がイザヤの前に現れ、操縦士の橋下の短い悲鳴がマイクを通して駆け抜ける。

 イザヤは衝突しそうになったところ何とか回避し、しかしその先にあった隕石にぶつかってしまった。ティラナら操縦士が一瞬イザヤの安否に目を奪われている間に、もう既にキューブは消失した。


「イザヤ! 聞こえるかイザヤ!」

 イザヤからの返答はない。ティラナは冷や汗が胸元に流れるのを感じながら、クルクスに向けて言った。

「こちらギデオン! 観測機ダニエルの出陣を要望」

 黄色のランプが光り、操縦士のエレナの軽やかな声が響く。『こちらダニエル、了解』



 バラクとギデオンの二機で、イザヤの周辺を飛びながら、キューブの姿を探っている間に観測機ダニエルが到着する。


 エレナは楽しげに言った。『こちら、ダニエル。イザヤは任せて、フフ』彼女の操縦は、いつも人形遊びをする少女が不敵に微笑み鼻歌を歌うようで、おおよそ緊張が無く、死を厭わない狂気すらある。変わり者と称される理由が、此処にすべて現れている。


 レオナルドのロザリオの祈りが全機に響き渡る。彼の心にはいつも芯があり、すべてを包み込む大らかさが、朗読を通して感じ取れる。人を癒し、赦す、聖母マリアのようだと人は言う。



 初めの聖母マリアの祈りが三回目に入った頃『恵みあふれる聖マリア、主はあなたとともにおられます。主はあなたを選び、祝福し、あなたの子イエスも祝福されました。神の母聖マリア、罪深い私たちのために……』イザヤの機体が緑のフィールドに包まれた。

 レオナルドは栄唱までとなえると、祈りを止めた。『大丈夫みたいだ。機体も掠っただけのようだよ』


 緑のランプが点く。『いてて……、こちらイザヤ、橋下。ごめんなさい。頭を打って、意識が飛んでいました。本宮も無事です』

「こちらギデオン、イザヤは後方に下がれ。ダニエルはイザヤの護衛に」

 橋下が答える。『了解』

『ダニエル、了解よ』

 

 「バラクは右に……」そのとき、ティラナはたしかにその目でみた。「……ッ! 出現した!」


 一マイル(約一・六キロメートル)もないほど近い先に、まるでこの世に居続ける魂のように、また宇宙に咲き誇る白い百合花のように、脅威なる異物はそこにいた。


 バラクとギデオンは敵に照準を向ける。「攻撃開始!」という合図で、同時に攻撃を発射させた。放たれた火球はキューブ目掛けて宇宙を泳ぐ。しかしながら、キューブは動くことなく前を見据え、じっとこの宙の隨に浮いたままであった。


 攻撃は見事に当たり、爆発でキューブの身体は大きく揺れた。シルヴィオがぽつりと呟いた。「……なんで避けないんだ?」


 白いカケラが飛び散り、キューブの中身が露わになる。機械的な空洞のなかにいるのは。

 ティラナが叫ぶ。「みろ! 人が乗っているぞ!」

 全身グレーの服を纏った男が、目を見開き驚いた顔でギデオンの方をみあげた。まるでギデオンの存在を、たった今初めて知ったかのように。


 嘘だ、そんな、なぜ、おお神よ……。四機はそれぞれ、思わず動揺を洩らした。

 やっとみつけた、クルクス以外の人類を。本来なら、感動して涙を流しながら、熱い抱擁を交わすときであるのだ。七百年振りの再会であるのに。何故だ……、何故我々兄弟に攻撃をするのだ。


 散ったキューブのカケラは母体へと再び集まり、次々と修復していく。それと共に、男の姿も徐々に埋もれていった。ティラナは映像をズームし、男の記録を取りながら、考えていた。おそらくティラナ以外の操縦士も同じことをしているだろうが、そんなことは関係なかった。


 銀髪、釣り上った切れ長の目、銀色の瞳、そしてグレーの襟のついた……それは制服だろうか。とにかく、間違いなくヒトであるのだ。

 今この場をどうすべきか、ティラナは必死に考えを巡らした。


 敵が人である以上、さらに攻撃を仕掛けるには、修道星庁(シュウドウセイチョウ)と政府の議論が必要になる。我々は戦争をしない、それは七百年前から決めていることだ。

 嗚呼、どう考えても、今は威嚇をしながら相手が消えるまでやり過ごすことしかできない。


 完全にキューブが元の四角い姿へと戻ると、ティラナは「全機、反撃に備えろ!」と叫んだ。

 それぞれのアレルヤが一斉に賛美歌を歌い出す。ギデオンにも、シルヴィオの歌声が響き渡った。


 キューブの姿がシュッと揺れ、消えた。ティラナは叫ぶ。「来るぞ!」


 どこだ、来ない、何処に行ったのだ。ティラナは全ての神経を瞳に集中させた。後方の映像も広げ、三百六十度、食らいつくように前のめりになって、瞳をギロギロと動かし続ける。もはやシルヴィオの歌声も耳に入らない。


 画面の片隅にキューブが現れるのと同時に、黄色のランプが点滅した。ダニエルからの通信、それは無音であった。

 イザヤの側に控えていたダニエルの、目と鼻の先にキューブがいる。


 ティラナが「レオナルド!」と叫ぶのと同時に、シルヴィオも「レナ!」と叫んでいた。

 機体を捻り、ティラナは「あの野郎!」と罵倒しながらダニエルの元へ急発進した。「また……、またレオを……!」

 しかしギデオンがダニエルの元へ着く頃には、キューブは再び姿を眩まし、威嚇閃光も跡形もなく止んでいた。


 宇宙の静寂のなかで、誰しもが言葉を失い、ただただクルクスの不憫な運命に心を痛めていた。




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