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古代戦艦クルクス ~呪われた女教王の祈り~  作者: SheilaCross
Episode-1「あなたに、一つのいのりを」
7/17

―4―



 シルヴィオは「俺の方が攻撃上手いだろ。代わってくれよ」とティラナに訴えた。


「まだ敵を捕捉できるかどうかも分からないのに、攻撃もなにもない。重要なのは全体を統率して相手の正体を見極めることだ。それにお前、周りを忘れて暴走するだろう」

「でも俺の方が機体を上手く扱える! 才能あるのに、後ろでアレルヤなんて!」


 シルヴィオの突っ掛かりに、ティラナは早口で突き返した。「……お前は確かに操縦も上手い。でも状況を把握できないだろう。視野が狭い。私は周りをみられるし指揮も取れるし暴走もしない。だから私が操縦で、お前が副操縦。分かるな?」


 アイリーンが後ろからシルヴィオの服をぐいっと引っ張って、叱咤した。

「ティラさまの仰る通りですわ、シルヴィオさま。今はお時間がありません」


 膨れっ面のシルヴィオに、アイリーンはやや強引に古びているテラコッタ色の聖書を持たせた。(聖書と彼女の髪色とよく似ていたので、まるで髪の中から聖書を取り出したようにみえた)

「……分かったよ」

「しっかり朗読して下さいまし。この機体に危険が及ばぬよう。なんせ女教王がお乗りになられているのですから」

 「はあ。はいはーい」と子どもじみた返事をあえてしながら、シルヴィオは後部座席に身を投げた。


 アイリーンは俯き躊躇いながら、前席のティラナに声を掛けた。

「……ティラさま、あの、お気をつけて……」

 驚いたように、ティラナは思わず瞳をアイリーンに向けた。


 ドクンと高鳴る心臓は、戦闘が近付き高揚しているからではない。心臓に焼き石を投げ込まれたような、内側から感じる熱と痛み。気不味く、何もかも投げ出して、逃げたくなるような荊が心臓を覆う。

 この感情を、ティラナはあからさまに無視して、まったく何事もなかったようにアイリーンに顎で離れるように示した。


 アイリーンがサッと引き下がると、ティラナとシルヴィオは最終調整を行う為、前後のシートそれぞれに幾つか付いているモニターやスイッチのチェックを開始した。


 腕を膝掛け位置にあるエンジン操作のバーに固定し、ティラナと機体ギデオンが一体となると、グウォンという音とともに、機体の前頭部が透け、視界が大きく開ける。

 シルヴィオの上半身にベルトがスルスルと巻き付き、装着された。また、ティラナの腰や脚にも蛇のように渦を巻き、固定した。



 ティラナが「こちらギデオン。どうだ」と問うと、手元の緑のランプが点滅し、橋下隊員の『こちら観測機イザヤ、出ます』という声が響いた。ペアのアレルヤは本宮(モトミヤ)だ。

 続いて赤も光る。『こちら攻撃機バラク、出るぞ』これは郡山(コオリヤマ)の声で、アレルヤには伊勢(イセ)が乗っている。


「健闘を祈る」

 機体はそれぞれ、隣接している滑走路場へと移動していく。

 シルヴィオが前のめり気味に外を覗いた。「レナ達も来たみたいだ」観測機ダニエルの元にふたりの姿がある。


 ティラナはふたりの姿を横目に流し、それから言った。「滑走路で待機する」

 「……うん」発進する機体に揺られながらシルヴィオは、前を向きなおした。滑走路ゲートが開かれ、機体を自動で誘導するレーンに乗る。


 パワーゲージの移ろいで、チカチカと白光する滑走路の眩しさに、ふたりは俯いた。視界の明度を調整しながら、ふとティラナが「お前の祈りだけだ。身体が、機体が軽くなるのは」と呟くと、「……うん」と素直な返答が耳元をくすぐった。シルヴィオは既にアレルヤ用のマイクのスイッチを入れたらしい。



 不意に視界の右上に『GET READY』と文字が浮かび、点滅を繰り返した。緑の通信ランプが点く。


『こちらイザヤ! 閃光方向と同方角から敵機確認! しかし……出没を繰り返しています!』


 赤ランプの点滅と共に、左側面に攻撃機バラクから中継が繋がれた。四角いブロックのようなものがそこに映し出される。

 これこそが、一年前にクルクスを襲った正体不明の敵である。


 誰からと言うわけでもなく、気付けばみなこれを『キューブ』と仮の名を付けていた。

 七フィート(約二メートル)ほどの、つまりもしかすると宇宙人、これはあまり考えたくないことだが、もしくは……人類が乗っているかもしれないサイズの飛行物体である。


 キューブは上下に揺動すると、すぐ白い靄と共に消滅した。なるほど敵には、ワープ能力が備わっているように思われる。一年前の映像では分析しきれなかったことが新たに分かった。


 キューブの映像が切り替わり、バラク機体内、郡山の顔が映し出された。軽く頭を下げ、彼ははっきりと宣言をする。

『女教王、出陣を要請します!』

「こちらギデオン。了解」

『これより戦闘指揮はギデオンに移る』

『こちらイザヤ。了解』

 ティラナの腕は、ギッと力を込められた。

「ギデオン、発進!」


 激しい光の瞬きのあと、次の瞬間には、ギデオンは宇宙の中に解き放たれていた。機体は人工重力を失い、ふわりとした、甘くて心地の良い一瞬を味わう。


 その一瞬を、ティラナも、シルヴィオも、天国から蹴落とされる美しきルシフェルのように恍惚とした表情で喘ぐように笑い、しかし次の瞬間には、地獄に堕ちた憎しみ溢れる囚人のような悍ましい顔で唸り、咆哮した。

「祈れシルヴィオ! 我らのために!」

「主イエス・キリストの恵み、神の愛、精霊の交わりが、クルクスとともに!」

「また司祭(アレルヤ)とともに!」


 グッと身体に堪える衝撃を全身に受けながら、ギデオンはティラナと一体になってフルスロットルでエンジンを加速させた。


 シルヴィオは、まだ何の罪も犯していない無垢な少年の如く、淡く紡ぎだす回心の祈りで、機体に奇跡を起こしていく。「全能の神がわたしたちをあわれみ、罪をゆるし、永遠のいのちに導いてくださいますように」

 ふたりを乗せたギデオンは、敵機に向かってただ真っ直ぐ、弓のように星屑の間を突き抜けた。



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