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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

竜の女王<天災を運ぶ竜>

作者: クイーン・ドラゴン







とある世界のとある秘境の地に竜の王国がありました。

金色に輝く鱗を持った竜の王と美しい緑の鱗を持つ竜の王妃との間にご子息が生まれ、王国は歓喜に包まれました。

王のご子息は、父親の王と同じ金色に輝く鱗を持ち、母親の王妃と同じく、素晴らしくバランスのとれた体付きをしていました。

そして数千年たち、ご子息の顔から幼さが消え、大人のような顔つきになると、竜の王国の貴族のご令嬢には、ご子息に恋をする者も現れましたが、ご子息は相手にしませんでした。

しかし、ご子息には友がおり、黒き鱗を持つ竜の青年に王国一の美竜と言われる黄緑の鱗を持つ竜の姉妹、そしてご子息が密かに恋をした深紅の鱗を持つ竜の貴族の少女。少女は、琥珀色の瞳を持っていて、その可憐な容姿とは裏腹に強い魔力と力を持っていました。

少女の名は、フィルダーゼ。

可愛らしくも、力強いこの少女は、のちにご子息の妻となり、竜の女王として竜達を統べる長になるのですが、それはしばらく後の話。




フィルダーゼは、ご子息や黒竜の青年、黄緑の鱗の姉妹と幸せな日々が続きましたが、その幸せな日々も終わりを迎えました。

フィルダーゼの両親が人間の魔法使いによって殺されたのです。

フィルダーゼには、悲しむ暇も与えてはくれませんでした。貴族としての生活は、終わりを告げて家名は無くなり、生活が困難になったのです。

ご子息は、そんなフィルダーゼを憐れみ、ご子息の寵愛を受けることも提案されましたが、フィルダーゼはこれを丁寧に断りました。


フィルダーゼは、貴族ではなくなったので、王都から離れ巨木が茂る森の中で一人で生きていくことにしました。

その森の中で真紅の鱗を持ち、王国を渡りながら旅をする流浪の民と出会ったのです。

流浪の民であった一頭の竜の娘とフィルダーゼは、仲良くなり親友となりました。

そして千年ほどその森の中で暮らしているある日。

その森に一頭の竜が舞い降りたのです。

その竜は、キルディスと名乗りました。フィルダーゼは、とても驚きました。

なぜならキルディスは、王のご子息なのですから。

キルディスは、王が病で他界し、今は自分が王なのだと告げました。

そしてフィルダーゼにプロポーズしたのです。

フィルダーゼは琥珀色の瞳から涙を流しました。

千年もの間忘れたことのない思い人だったのですから。

キルディスとフィルダーゼの間は、婚約という形になり、王都へと旅立つことになりました。

流浪の民の娘であるクフォニアは、フィルダーゼと別れることが辛く、流浪の民の掟を破り、王都について行くことになりました。

王都に着くとかつての友である黒竜のサーペンタイン、黄緑の鱗を持つ姉妹のアナコティアとハーパもフィルダーゼのことを待っていました。

フィルダーゼはしばらく友との再会に喜び、王国もキルディスに婚約者ができたことにお祭りになるほど喜びにひたりました。

しかし、フィルダーゼに二度目の不幸が襲いかかります。

王国の竜達が人間の魔法使いに唆され、竜の派党が二つに割れたのです。

それが、魔法使いの狙いでした。

竜達による戦争が起こったのです。

のちにドラゴン大戦と呼ばれるこの戦争で、大半の竜達が命を落としました。

その戦争でキルディスとフィルダーゼも離れ離れになりました。

フィルダーゼは、自らの翼で世界中を飛び周りキルディスを探しました。

キルディスは、その戦争を終わらせて、キング・ドラゴンと人間達に呼ばれるようになり、フィルダーゼもまたその鉤爪を血に濡らしキルディスの婚約者でもあったためクイーン・ドラゴンと呼ばれるようになりました。

それから二千年、フィルダーゼは人間に友と呼べる少女もでき、キルディスと再会することができました。キルディスと再会した秘境の谷に不倶戴天と呼んでもいい魔法使いが攻めてきたのです。

フィルダーゼは、これまで魔法使いに殺された両親とハーパのことを思い出しました。

フィルダーゼは、そのとき祖先が忘れてしまった竜としての本来の力を思い出したのです。

フィルダーゼの振るう圧倒的な力は、この世に存在しない古の神なる竜を思い起こさせました。

そして、十五頭ほどになった竜達に平穏な日々が戻ってきました。

キルディスとフィルダーゼは結婚し、フィルダーゼは卵を産みました。

秘境の谷では数千年の、人間の少女の国では数十年の年月が過ぎていました。

しかしある時人間の軍隊が竜達の秘境の谷に攻めてきたのです。

フィルダーゼの卵は割られ、谷の竜達は一部の竜を除いて殺されていました。

冬の月の浮かんだ夜空の美しい日でした。

フィルダーゼは泣き叫びました。フィルダーゼの咆哮は、大地を揺るがし、海を波立たせました。

近くにいなかったはずの人間の軍隊は、その恐ろしさに<天災を運ぶ竜>と言って恐れました。

フィルダーゼの大切なものを奪い、フィルダーゼの心は、完全に悲しみに包まれました。そして、生き物として大切なものも捨ててしまったのです。

フィルダーゼ以外の竜も同じ国の同じ軍隊に殺され、フィルダーゼはその国の王都に夜、襲撃しました。

フィルダーゼは大地を焦がし、王都の人間を皆殺しにしました。そしてその国の土地でかつての友であった人間の少女、リリーに再会しました。

リリーは、時を経て美しい女性に成長していました。それ以外何も変わらないことに喜びましたが、自らはなんと変わってしまったのかと嘆きに包まれました。そしてリリーとフィルダーゼは、いつかフィルダーゼが狂気に満ちた時、リリーの血族がフィルダーゼを殺すことを約束しました。

それから数千年、竜の女王としてただ一頭で世界の頂点に立っていました。

しかし、寂しさはただただ増していっただけでした。

<天災を運ぶ竜>として恐れられていたフィルダーゼはフィルダーゼのもとに訪れたリリーに似た少女に討伐されようとしていました。

フィルダーゼは、もう疲れきっていたのです。


フィルダーゼは、死ぬ間際に世界に向けて言いました。

“この世界は悪意に満ちている。あたしには、この世界は辛すぎた。もう一度、生まれ直すことがあるならば、あたしは仲間達に囲まれて過ごしたい。孤独とは、無縁でいたい。人間達よ、忘れることなかれ。この世界に竜の女王、<天災を運ぶ竜>がいた事を。悲しみが悲しみを呼んだことを。負の感情は、負の感情しか生まない事を。忘れない事が成功の一歩になる事を。”

フィルダーゼは、静かに瞼を閉じて、二度と瞼を開けることはありませんでした。




そして世界から竜が消えました。竜が空を飛んでいた事も忘れられて、竜の伝説はとある娘の中にしかなくなってしまいました。





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