21.思い出は美しすぎて
長らくお待たせしてしまってすみません。
ブックマークありがとうございます。
読んで頂けて幸せです。
『羊の丘』をでると甘い香りが鼻腔をくすぐった。
ふと軒先をみると来た時にはなかった鉢植えが数個置いてあり、その中で大きめの素焼きの鉢植えから一本の木が植えてあり匂蕃茉莉の小さな花が多数咲いていた。
開花してからしばらくたつと紫から白に変わる花で、一本の木に紫と薄紫、白の花が混在していて見ごたえがある花だ。
今はほとんど薄紫と白の花ばかりなので、もうすぐ夏が近いことを感じる。
爽やかな甘い香りが、自分の幼い頃を思い出す。
『アル・・・アルフォンス大好きよ』
『私達・・・ずっと一緒よ』
白い華奢な手が獣化した俺の頭を優しく撫でる。
匂蕃茉莉の花が好きで庭で栽培していた彼女からは、いつもこの花の香りがした・・・・・・・
馬車で『羊の丘』から『竜のひげ』に向かう。
魔眼と接触するために『竜のひげ』のオヤジに伝手を求めるためだ。
今回は前触れも出してないから女性の集団はいないだろう。
店の近くで馬車を止め、従者を置いてひとり店に向かう。
太陽はあともう少しで真上になる時間。
夜の仕込みのためにオヤジは店にいるはずだ。
居酒屋に入る。
「おやっさんいるか?」
大きな声で奥の厨房にいるオヤジに声を掛ける。
「ん?誰だ・・・アルか・・・どうした」
出た来たのは人型になっていたオヤジだった。
「おやっさん!!人型になって・・・人に見られたらどうするんですか?!」
「あははははっ、別に構わねーよ。内緒にしてるわけでもないし・・・まぁこの格好だったら獣人に襲われたら敵わないか・・・まぁ襲ってもこないと思うが?」
「人型でもあなたは獣人よりも強い・・・俺達にだって負けないじゃないですか・・・英雄でこの国の皇太子殿下なのですから」
「元な・・・今はしがない居酒屋のオヤジだ」
そう言いながら緩やかなウェーヴのかかった金髪の髪をかきあげる。
耳たぶには小さな赤い石が付いており、彼が火の属性だと印象付ける。
竜人は耳たぶに魔法属性の石を身に着けて生まれてくる。
赤なら火の属性。青なら水の属性。緑なら風の属性。茶色なら土の属性。黄色なら雷の属性。黒なら闇の属性。白なら光の属性だ。
火の属性の彼が市井に下るとき冗談なのか本気なのか「火の魔法が得意だから食堂か居酒屋でもやろうと思ってる」と友人たちに語ったことが逸話になってるぐらいだ。
「ところでお前ひとりで来たということは、なにかあったのか?」
「あったというか・・・まぁ頼みたいことがあって」
「なんだ?あ、そういえば俺もお前に用かあったんだ」
「俺にですか?」
「ああ、宰相に頼まれてな・・・お前とレイにお見合いの話が来てる」
「はぁ~またですか・・・お断りしたはずですが?」
「そういうなって・・・宰相も親心みたいなもんで。特にレイはな・・・爵位を持っている。変な野心家の貴族の娘なんか宛がわれていいようにされないか心配しているんだ・・・それにアイツ・・・かなりのお嬢さんたちを弄んで酷い別れ方をしているみたいじゃないか・・・俺も親としておまえらが心配なんだよ」
「・・・レイの女性関係については・・・俺も頭を痛めてるところです・・・なんせあの母親のせいで女性不信ですからね・・・でも彼女たちも納得しての交際ですから・・・」
レイのあの外見と地位で寄ってくる女性は数多いる。一夜の相手でもいいからと彼女たちはそう言いレイの心変わりを期待するが、彼の心は変わらず体だけの関係で終わってしまう。レイも問題だが・・・エリックもな・・・
「いつか女性に刺されないかとヒヤヒヤしてるんだぞ」
「女性よりも男性もでしょ・・・レイは敵が多いですから・・・」
「困ったもんだな・・・で、おまえはどうなの?アル」
切れ長の青い瞳が俺を見据える。わかっているくせにこの人は・・・
「俺は・・・誰とも結婚する気はありません」
「はぁ~まだあの女の事が忘れられないのか?」
「そうですね・・・忘れられません・・・」
「もう何年たった?いい加減おまえも幸せになってはどうだ?レイもエリックだって成人した。お前を縛るものはなにもない。結婚して幸せになれ」
結婚して幸せ・・・結婚だけが幸せじゃないと思うが、オヤジは好きな女と結婚したくって市井に下がった男だ。
きっと俺と幸せの価値観が違うんだろう。
「こんな気持ちで結婚なんかすれば相手の女性にも悪いです。この話はなかったことにして下さい。」
オヤジは苦虫をつぶしたような顔をする。
「ダメもとで聞いたがやはりダメだったか・・・レイはどうだ?」
「レイも・・・結婚話は断るでしょうね」
「だろうな・・・あー宰相にまた怒られるな・・・でもレイの女性関係についてはちょっと問題になりそうだから解決策を考えてくれ」
「今のところ、この間会わせた・・・ぷにぷにに夢中なので当分は大丈夫だと思います」
「ぷにぷに?ってあの魔物かなんなのかわからない生き物か?」
「はい・・・レイは大層気に入っているみたいで、甲斐甲斐しくお世話してますよ」
「へーあのレイがね・・・ああ、そうだもう一つ思い出した。そのぷにぷにの件で宰相から言われてるんだ」
「ぷにぷにがどうかしたんですか?」
「ほら、兄貴が謁見の許可をだしたじゃないかそれを宰相を通さず勝手にやってしまったものだから、宰相が『そんな魔物かもしれない訳の分からない生き物を陛下に会わせることはできない』と言い出してな、魔眼に鑑定を頼みたいと思ってたんだ。それでまたそのぷにぷにに会わせてもらおうかとアルに頼もうと思っていたところだ。」
「それは偶然ですね。俺も魔眼にぷにぷにを見てもらおうと手紙を出したんですが断られてしまって・・・それでおやっさんにもう一度頼もうかと今日はそのことで来たんです。」
魔眼が『竜のひげ』に訪れるのは3日後、その時にぷにぷにを連れてくる。
今日の用事が終わった俺は馬車の乗り、屋敷に戻る。
流れる景色を眺めながら昔を思い出す。
匂蕃茉莉の香り
長く柔らかい金色の髪
翡翠色の瞳にはいつも俺が映り・・・小さな唇からは囁くような優しい声で俺の名を呼ぶ
『愛してるわアル・・・・』
『私を離さないで』
『ずっと二人は永遠なの』
「永遠か・・・」
永遠は続かなかった・・・それは彼女の裏切りで終わってしまったからだ。
いつの間にか屋敷に着き、フットマンに扉を開かれ我に返る。
従者にエリックとぷにぷにの所在を聞くと、部屋にいるという。
なぜ部屋に?と思いながらエリックの部屋に向かう。
ドアをノックしてみるが返事がない。
昼寝でもしてるのかと思いドアを開けると、そこには獣化して犬になったエリックとそのエリックを撫でまわしているぷにぷにの姿があった。
『アル・・・好きよアル・・・』
獣化して猫になった俺を優しく撫でる・・・レイラ・・・
「これは・・・いったいどういう事なのかな?」
自分では信じられないぐらい低く冷たい声が出た。
『竜のひげ』のおやっさんの名前がまったくでてこないww
異世界なので花の名前とか創作でと考えてましたが、前にバラの香油とか書いてるの思い出し「わぁ~設定穴あき・・・」となりまして現実にある植物を出していこうとなりました。
匂蕃茉莉はジャスミンのような爽やかな甘い香りらしいです。香りはジャスミンですがナス科の植物で毒が含まれています。




