第三章 ー剣に宿りし二つの「魂」ー
再び旅路を歩み始めたロウエナ一行。様々な街や村を転々としながら魔法都市[エル・フォレスト]を目指していた。エル・フォレストは巨大な大木が茂る森[エルヴィス]がそのまま街となっている。大木の幹はかなり太く、普通の木の20倍近く太い為、エル・フォレストの住人は幹の中をくりぬき、そこを住居として生活している。また、この森の大木からは普通の木が光合成で酸素を出すように、マナが溢れ出るため、魔法技術がスカーレットレイク・タウンと同等かそれ以上に高い。ロウエナは自身の能力強化のヒントとなるようなものがないか探す為にこの街を訪れようとしていた。
ある日の事。エル・フォレストの付近の道で一行は道端に倒れている銀髪の少女を発見した。
ペガシオーネ「ん……?みんな、あれを……!」
ロウエナ「誰か倒れてるよ!……おーい、大丈夫ですかー!?」
ブルー「何かの拍子に意識を失ったっぽいな……息はあるから死んではいないな……。エル・フォレストも近いし街まで運んでやるか……ペガシオーネ、この子を頼めるか?」
ペガシオーネ「あぁ、任せて。……よいしょっと!」
ペガシオーネは格闘で戦うだけあって力仕事は得意なようだ。軽々と少女を背負うと、スタスタと歩いていった。ロウエナとブルーも彼のあとに続いて歩いた。
そして暫くして目的地、エル・フォレストに到着した一行。
ロウエナ「まずその子を診てくれるようなところを探さないと……」
ブルー「だな……ん、そこにいる人に聞いてみるか。」
そう言うとブルーは近くにいた街人に近づいていき、道を聞いた。
ブルー「あの、ちょっといいかな?」
街人「おや、旅人さんですか。どうなさいました?」
ブルー「この子、さっき道端に倒れてて……診てくれるような場所ってないかい?」
街人「なるほど、それなら……」
街人は少し離れた場所にある、木で作られた十字のマークが掲げられた建物を指差した。
ブルー「すまないね、ありがとう。さて、みんな行こうか。」
街人に礼を告げ、一行は街人が教えてくれた建物を訪れた。中に入ると看護婦らしき人が出迎えた。
看護婦「これはこれは、旅人様、どうかなさいましたか?」
ブルー「実は……」
ブルーは少女のことを話すと看護婦は少女を奥の部屋へ運び込んだ。
看護婦「女の子の事はお任せください。旅人様は暫くこの街に……?」
ロウエナ「えぇ、この街には色々用がありますので。」
看護婦「分かりました。女の子が目を覚ましたらまたご連絡します。……あぁ、そういえばお名前を伺ってませんでしたね…。」
ロウエナ「私はロウエナです。こっちはブルー、そしてペガシオーネです。」
看護婦「ロウエナ様、ブルー様、ペガシオーネ様。確かに承りました。」
ロウエナ「はい、では、私達はこれで……」
看護婦に礼を告げ、外に出ると、さすがに日が暮れていた。
ペガシオーネ「そろそろ宿を探して休もうか。」
ロウエナ「そうだね。あ、あそこが宿屋かな?」
ペガシオーネ「だな、あそこに泊めてもらおうか。」
一行は宿屋に向かい、今日一日を終えた。
翌日。一行が街を歩いていると、向かいから一人の少女が一行の元へ駆け寄ってきた。見るとあの銀髪の少女だった。
銀髪の少女「あ、あの……ボクを助けてくれたのはあなた達でしょうか……?」
銀髪の少女は緊張した様子で一行に話しかけた。
ロウエナ「うん、そうだよ!良かった、元気になったんだね。」
銀髪の少女「はい!おかげでバッチリ元気になりました!ロウエナさん、ブルーさん、ペガシオーネさん。どうもありがとう!」
ペガシオーネ「ははっ、良かったね。しかし何で昨日は倒れてたんだい?」
ペガシオーネが少女に問うと、少女は顔を赤らめてこう言った。
銀髪の少女「えっと……実は……ボク、魔力が弱くて、魔力を増やしたいからマナ増強剤を飲みまくってたら気持ち悪くなっちゃって……えへへ。」
ブルー「はぁ……マナ酔い、か。」
ブルーは苦笑いしながら言った。
ロウエナ「道理で顔が赤かった訳だね……酔ってたんだ。……そうだ、キミ、名前何て言うの?」
バチェラ「ボクはバチェラっていいます!小柄ですけど、これでも大人なんですよ!ちなみに魔力は少ないけど、二本の小剣を使って戦えるんです!」
ペガシオーネ「ほほー。二刀流か。器用なんだな。」
ロウエナ「あ、そうだバチェ。私達には敬語じゃなくてもいいよ!友達感覚で話して構わないからね。」
バチェラ「ありがとう、ロウエナさん!早速聞きたいんだけど……」
ロウエナ「何?」
バチェラ「ロウエナさん達は冒険者って看護婦さんから聞いたんだけど……旅をしてるの?」
ロウエナ「そうだよ。色々な場所を練り歩いて修業しながら旅をしてるんだ。」
バチェラ「わー!楽しそう!」
ブルー「色々あるが、苦難もみんなで力を合わせて乗り越えたりするのは本当に楽しいし好きなんだ。」
バチェラ「ねぇねぇ、ロウエナさん!良ければボクも一緒に行って良い?」
ロウエナ「もちろん!ただ……一つお願いがあるんだ。キミが使う武器や戦い方を是非見せて欲しいんだ。私達のも見せるからさ!」
バチェラ「いいよー!じゃあ、街の近くにいる「クリスタル・ベア」を倒しに行こう!」
バチェラはそう言うと嬉しそうに走っていった。ロウエナ達も彼女の後を追う。
街から少し歩いた所にある泉。そこにクリスタル・ベアが現れた。
バチェラ「あれがクリスタル・ベアだよ!……よーし、ロウエナさん、よーく見ててね!」
バチェラはそう言うと二本の小剣を手に取り、クリスタル・ベアに斬りかかった。クリスタル・ベアはバチェラの攻撃に対し、カウンターするが……その瞬間、そこに居たはずのバチェラの姿がない。クリスタル・ベアが攻撃を空振りし、よろめいた瞬間。背後にバチェラが現れ、その直後、縦横無尽にクリスタル・ベアを切り裂いた。しかも、クリスタル・ベアの身体に生えていたクリスタルが綺麗に剥ぎ取られているのだ。
ロウエナ「す、すごい……攻撃と剥ぎ取りを同時に……!」
バチェラ「ふー!決まった!どう!?すごいでしょ!」
ブルー「驚いた。こんな逸材が居たとは……」
ペガシオーネ「これはかなりの力になるぞ!しかも見てて気持ちいいくらい美しい!」
ロウエナ「バチェラ、すごいね!キミの力、しっかり見させて貰ったよ!もちろん一緒に行こう!」
一行はバチェラの能力を見て、彼女を快く仲間として受け入れることにした。その様子を見てバチェラも嬉しそうだった。
バチェラ「そうだ、この武器について少し教えるね!これは二本で一本の剣なんだ。」
ブルー「二本で一本?」
バチェラ「うん、実はこの剣一つ一つには魂が宿ってるんだー。片方は力の魂、もう片方は技の魂っていうの。この魂によってボクはああやって器用に戦えるんだよ!」
ペガシオーネ「へぇー、武器に魂が宿ってるのか……ロウエナの武器も不思議だがバチェラの武器はもっと不思議だな。」
バチェラ「でしょ!だから大事にしてるんだー!」
ブルー「魂……か。みんなの武器にも魂が宿ってたりしてな。」
ブルーがそう言うと、ロウエナがちょっと微笑んだ。
ロウエナ「(私の武器には、アーシアさんの魂が宿ってるのかな……。)」
そんな話をしながら一行は街に戻った。バチェラに出発の日時を告げ、一行は一旦解散することにした。
──新たな仲間がこうして増えていき、一行は賑やかなものとなった。これからどんな冒険が待っているのだろうか……。