第一章 ーはじまりー
魔王が倒された600年後の未来。とある丘の上に建つ街、スカーレットレイク・タウンから物語は始まる。この街はかつて優れた魔法技術により発展し、今や大都市となった。大都市と言っても見た目は古風で木造住宅やレンガ作りの建物が建ち並ぶ。また街の中心には、街の名前の由来でもあるスカーレット・レイクと呼ばれる綺麗に透き通った赤い湖があり、街は幻想的な雰囲気を漂わせる。この湖の水は魔法資源として有用で、更に無限に涌き出るため、他の都市や村からもこの水を求めてやってくる人も多い。
街の外れにある一軒家。そこに一人の少女が住んでいる。彼女の名はロウエナ。真紅の髪、真紅の瞳を持つ、小柄な少女だ。それ以外は特にこれといった特徴も無く、普通の人間である。ある日、彼女は街に散歩に出掛けた。何も変わった事のないいつもの日常。見慣れた街の風景を眺めながら歩いていると、突如地震が発生する。
ロウエナ「う、うわぁ!いきなり何なのよもう!?」
街中が突然の出来事にパニックに陥る中、ロウエナは街の周囲に何か嫌な気配を感じ取った。彼女は特殊な能力こそ持たないものの、気配を感じとる力は人一倍であった。
ロウエナ「地震ときてこの気配……嫌な予感しかしないわ……!」
暫くして地震は止んだものの、嫌な気配はますます強くなっていく。彼女が街の様子を伺っていると街の衛兵達が一斉に出動し始めていた。
ロウエナ「衛兵が出動なんて……まさか、魔物が?」
シグナス「ロウエナ!無事だったか!」
そう言って駆け寄ってきたのはロウエナの兄、シグナスだった。彼は街の衛兵の隊長を勤めているのだ。
ロウエナ「兄さん!やっぱり襲撃か何かなの!?」
シグナス「ああ、最近めっきり気配が無かったから信じられないが……かなりの数が向かってきているらしい。」
ロウエナ「そんな……」
シグナス「ロウエナ、大丈夫だ。衛兵の皆は歴戦の戦士だ。負けることなんてない。それに……ッ!?」
ロウエナ「兄さん……?どうしたの?」
シグナス「ロウエナ!逃げろッ!!」
ロウエナ「え……?きゃあぁ!!」
シグナス「くそッ、ロウエナ!!」
思ったよりも魔物の動きが早く、ロウエナが足を出すよりも先に魔物の攻撃がロウエナに直撃してしまう。
シグナス「貴様!絶対に許さん!!こいつを食らえッ!!」
魔物「グオオオオオッ!!」
シグナスの渾身の攻撃で魔物は倒れたものの、ロウエナは重傷を負い意識を失ってしまっていた。
シグナス「くっ、ロウエナ!しっかりしろっ!!」
シグナスは必死に呼びかけるが、返事はない。シグナスが絶望に崩れ落ちたその時……
シグナス「な……何だ……!?」
ロウエナの身体が突如光を放ち、街全体を包み込む。街に潜入していた魔物は消滅し、付近にいた群生もいつの間にか消えていた。
シグナス「こ、これは一体……。ん……?」
シグナスが茫然としていると、意識を失っていたはずのロウエナが静かに起き上がった。身体の傷も消え、元の状態へ戻っている。
シグナス「ロウエナ!?大丈夫なのか!?」
ロウエナ「兄さん……?私……生きてるの?」
ロウエナは今にも消えそうな位小さな声で問う。
シグナス「本当に生きている……あの攻撃が直撃したら普通は即死だ……一体何が?」
ロウエナ「うぅ~ん……よく分からないけど…あの時、夢を見たの。」
シグナス「夢……?」
ロウエナ「夢というか誰かが私の中に入ってきたような……」
シグナス「まさか……憑依か?その夢の話、できるか?」
ロウエナ「う、うん……何とか思い出せそう。」
ロウエナは少しおぼろ気な様子で話始めた。
ロウエナ「う、うぅん……ここは……?」
意識が消え、死を覚悟した時、彼女は見知らぬ場所に居た。ただ真っ白で、足元には綺麗な花が咲き誇っている。
ロウエナ「私……死んじゃったのかな……?」
???「いや、あなたは死なせない。」
ロウエナ「え?誰……?」
ロウエナが振り返ると、そこには自分と同じく真紅の髪と真紅の瞳を持った女性が佇んでいた。
アーシア「私はアーシア。600年前に戦っていた英雄……と言えばいいかしら。英雄と言っても大したことないけどね。」
ロウエナ「英雄……!?」
アーシア「まぁ、そう驚かなくていいよ。それよりも、私がここにいる理由を教えるわ。」
そう言うとアーシアは一本の剣のような武器を取り出した。
アーシア「あなたがここにいるということは、恐れていた事態が起きたから…ね。私達は600年前、この世界を破滅に追い込んだ魔王を倒した。その時魔王が私達を道連れにしようとして……私は皆の盾になって、死んじゃった。」
ロウエナ「え……?」
アーシア「おかげで他の4人の英雄は命は助かった。でも氷付けになった上、この世界のあちこちに離散しちゃったのよ。そして同時に、魔王が放った呪いも、各地にばらまかれた。」
ロウエナ「呪い……」
アーシア「それは600年後に各地で魔物を復活させるというもの。あなたが見たあの魔物達はその軍団よ。」
ロウエナ「そうだったんだ……」
アーシア「そしてロウエナ、皮肉な事にあなたは狙われる運命だったの。だからあなたは魔物に殺されたのよ。」
ロウエナ「そう……やっぱり、私…死んじゃったのかぁ……。」
アーシア「ううん、あなたはまだ予備軍よ。いわば死にかけね。」
ロウエナ「へ?」
するとアーシアは持っていた武器をロウエナに差し出した。
アーシア「これはメイジセイバーって言って、剣に魔法を纏わせて攻撃したり、様々な支援効果や強力な攻撃魔法を使えるの。……これをあなたに託すわ。」
ロウエナ「え?でも私……特殊能力なんてないし魔力の制御とかできないし……そもそも魔力が無いような……」
アーシア「そこで私の出番よ。ロウエナ、手を出して。」
ロウエナ「へ?う、うん……。」
そう言うとアーシアはロウエナの手を握りしめる。するとロウエナにアーシアの能力と全く同じものが流れ込んでいった。
アーシア「私はもう死んでるからこんな力を持ってても意味無いでしょ?なら誰かに譲ったほうがいいかなって。それに、今危機に陥っているのはそっちの世界なんだからそっちの世界の人に頑張ってもらわなきゃね!」
ロウエナ「私……上手くできるかな……」
アーシア「大丈夫大丈夫!あなたは実は素質あるのよ?ただ能力を全部いっぺんに使うと身体が持たないから、修業して身体が慣れたら徐々に出来ることを増やすと良いよ。」
ロウエナ「うん……よし!アーシアさん、私頑張ってみるよ!」
アーシア「ふふっ、嬉しいよ。さあ、ロウエナ!私の代わりにその力を使って世界を救っちゃいなさい!私に代わる新たな英雄として!」
ロウエナ「って感じだったかな……」
シグナス「何だよそれ!なんか凄いな……!」
ロウエナ「英雄……私に勤まるかなぁ……」
シグナス「まあ、肩の力を抜いて気楽にやればいいんだよ。そう気負う事ないさ!」
ロウエナ「そうだよね……よし!兄さん、早速だけど修業に付き合ってくれない?」
シグナス「ふっ、そう言うと思ったぜ。さっさと力を付けて、みんなを守れるようにならないとな!」
──こうして、ここに新たな英雄が誕生した。ロウエナはアーシアから受け継いだ力を上手く使いこなし、世界を救う事はできるのだろうか。彼女の成長に期待していてほしい。




