第十一章 ーユアとアリアの正体ー
一行はスカーレットレイク・タウンに到着すると、シグナスを医療施設へと預け、ロウエナの家へ集まった。ロウエナはまず、ユアとアリアに自分達を助けてくれた礼を言った。
ロウエナ「まず、二人共、お疲れ様。そして私達を助けてくれて本当にありがとう……。」
ユア「いやいやー、わたし達は困っている人を助けるっていう当然の事をしただけだよー!そんなに気にしなくていーよ!」
アリア「まぁ、私は魔導剣使いの魔力を感じたから気になって追ってただけ。たまたまあんたが危なかったから助けたってまでよ。」
ロウエナ「うん、ごめんね。そう言って貰えると気が楽だよ……。」
二人は満足げな表情だった。
ロウエナ「あ、そうだ……。二人はどうして私の居場所が分かったの……?」
ロウエナふと、二人がどんな真似をして自分の居場所を突き止めたのか気になっていたことを思い出し、二人に質問した。
ユア「じゃあ、わたしから説明するね!」
最初はユアが説明することになった。
ユア「まず、わたしが何なのか。わたしは水と氷を司る妖精さん!妖精って言っても、半妖精っていって比較的人間に近いんだけどね!だからいくつか魔法も使えるんだよ!すごいでしょ!」
ユアはロウエナに詰め寄った。
ロウエナ「う、うん……確かに!(近いよ!!)」
この世界では、純粋な妖精と人間と妖精のハーフの半妖精という二種類の妖精が存在する。純粋な妖精は水筒と同程度の大きさの者が多く、その小ささ故に回復魔法以外の魔法の行使ができない。また、単体だと身を守る方法が皆無な為、ほぼずっと人間の側に居ないと寿命が短くなってしまう。しかし、人間のサポート役として有能で、道案内や主の回復をすることに長けている。
一方半妖精は、人間と同じ大きさで、魔法の行使が可能だが、半妖精の殆どには自立意識があり人間の力を借りずとも、身を守ったり生活することができる、と言った特徴を持つ。その為半妖精は独自の文化を形成し、街を造ったりもした。エル・フォレストもその一つであった。
ユアもその半妖精の一人である。
ロウエナ「それはそうと、ユアはどうやって私やシグナスの居場所を?」
ロウエナは疑問に思っていた事を聞いた。
ユア「あの湖の畔で、ロウエナさんはわたしを見つけたよね?あの時、ロウエナさんのお友達がロウエナさんの名前を呼んでたから名前は分かってたんだー。そしてあの後、わたしはロウエナさんにまた会いたくていろんなところを探し歩いてたの。そしてあの砦にも行ったんだよ!そしたら魔物と兵士さん達が戦っててさ!隊長らしき人がロウエナさんの名前を口に出してたのが聞こえたんだー。その人がその後ケガして動けなくなってたから回復しに向かったの!ロウエナさんの名前を口に出してたから家族かな?って思って……てきとーにお兄さん?って聞いたらあたってた!」
ロウエナ「適当で当たったんだ……。兄さんの事は偶然見つけたって訳ね。」
ユア「うん!それで、ロウエナさんがパルナの方に向かってたのをその時ようやく思い出して、パルナに来たんだよ!」
ロウエナ「偶然に偶然が重なるってこう言う事なのね。奇跡としか言いようがないわ……。とりあえず、ユアの事は分かったわ。」
アリア「じゃあ、次は私の番ね。」
ユアの説明が終わると、今度はアリアが説明を始めた。
アリア「もう大雑把には説明したから分かるでしょうけど、私はかつて英雄達と同質の力を扱えた数少ない一族のうちの[バーゼラルド家]の末裔よ。それと……私は目覚めたばかりだわ。」
ロウエナ「目覚めたばかり……?」
ロウエナが謎に思っていると、アリアは100年前に起きた事件とその結末について語った。(第六章参照)
アリア「つまり私は戦いには勝ったけど封印されたのよ。期間は短いけどね。それに対し、英雄は600年以上眠っているわ。復活できるかも分からない。」
ロウエナ「そうなんだ……。」
アリア「あと、この前の事件にはナヴァルという男が絡んでいたらしいわ。一族の伝承では、かつて英雄に倒された筈の極星五鬼将の一人として記されているの。何かがおかしいわ。」
ロウエナ「確かに……倒された筈なら彼らが居る筈はない……どう言うこと?」
アリア「まあ大方予想はつくわ。私は100年前に同じく極星五鬼将の一人、ナルガを完全に滅ぼした。ナヴァルまで出てきたとなれば、他の二人も……。」
アリアはそこまで言いかけた所で、ロウエナの質問を思い出した。
アリア「っと。話を戻すわ。何で私があんたを見つけられたかね。まぁ、魔力を感じ取ってそれを辿っていただけよ。あんたも私の魔力を感じ取っていたはず。」
ロウエナ「確かに……戦っててあんまり気にしてなかったけど、自分と似たような感じがこっちに向かってきているのは何となく。」
アリア「ま、それだけよ。単純。」
アリアは話を終えると、ロウエナの家の外へ出ていった。
アリア「じゃ、私は色々やることがあるから。……いずれまた会いましょ。それじゃ。」
アリアは二人に別れを告げると何処かへ去っていった。
ロウエナ「バーゼラルド家かぁ……後でアーシアさんに詳しく話を聞こうっと。ユアはこれからどうするの?」
ユア「わたしは特に何もないよ!わたしには家族とか家も無いし!」
ロウエナ「え?そ、そう……。……。よし。」
何かマズイ事を聞いてしまったかと焦ったロウエナであったが、気持ちを落ち着かせて少し考えた。そして、ポン、と手を打つとユアにこう言った。
ロウエナ「ユアちゃん、私の家に住んでも良いよ!」
ユア「……えっ!?」
ユアは驚きを隠せなかった。
ロウエナ「ユアちゃん、ずっと一人だったんでしょ?一人じゃ寂しいかと思ってさ。家が無いのも危なくて、可哀想だし……私の家は私と兄さんしか住んでないからスペースも余ってるし!」
ロウエナが力強くユアにそう語ると、ユアの目には涙が浮かんでいた。
ユア「い……いいの……?」
ユアは半信半疑でロウエナに再確認した。それに対しロウエナはありったけの笑顔でこう答えた。
ロウエナ「ユアちゃんは……ユアちゃんは、今日から私達と家族だよ!家族!」
ユア「え……?えぇ……?」
ユア「うわあぁぁぁぁぁっん!!ありがとーーーーーーーっ!!!」
ユアはロウエナに勢いよく抱きついた。余程嬉しかったのだろう。
ユアはずっと一人で生きてきていた。彼女はまだ人間で言えば9歳位だ。一人の彼女は、さぞ恐怖に怯えていた事だろう。
ユア「ありがとっ……ロウエナしゃんっ……ほんっとぉにありがとぉぉぉ……!!わたしっ……一人でさみしかったしっ……!!怖かった……!」
ロウエナ「ユアちゃん……。」
ユアの様子を見たロウエナは、かつて自身に妹が居た事を思い出していた。素直で、可愛くて、利口な妹だった。ロウエナの事が大好きでいつもべったりだった。しかし、ある日、事故によりその妹は帰らぬ人となってしまった。その時ロウエナとシグナスは心に深い傷を負ったものの、妹の為に前を向いて生き続けようと強く思ったのだった。ユアは見た目こそ違えど、性格や仕草が妹にそっくりだった。ロウエナはユアに妹の面影を重ねていたのだ。
暫くしてユアが落ち着きを取り戻すと、ロウエナはユアにあるお願いをした。
ロウエナ「さて……ユアちゃん、私はパルナに戻ってみんなを連れてこなくちゃ。それと、私がパルナに行ってる間、兄さんの事をお願いしたいの。大丈夫かな?」
ユア「うん!へーきだよ!……パルナまでは遠いから、転移魔法でパルナに送ってあげるよ!一人しか転移させられないから帰りは無理だけど……いい?」
ロウエナ「全然大丈夫だよ!」
ユア「分かった!じゃあ転移するよ!」
ロウエナ「ありがとう!兄さんの事、よろしくね!」
ユア「まかせて!行ってらっしゃいっ!」
ユアに見送られ、ロウエナはパルナへと転移する。
──アリアとユア。また新しい出会いを通じてロウエナはまた一歩成長した。これからの旅は、一体どんなドラマが待っているのだろうか。