第九章 ーシグナスに迫る危機ー
同時刻。ロウエナの故郷、スカーレットレイク・タウンに居るシグナスは、衛兵隊の偵察隊から付近に敵の反応が近づいてきているとの報せが入り、衛兵隊を率いて出撃していた。場所は街の東側に位置する防衛用に作られた古い砦。シグナス達が到着すると、既に砦は魔物で溢れかえっていた。
シグナス「こ、これは……!なんて数だ……こんな量の魔物が本当に自然発生したのか……?」
シグナスは一緒疑問を抱いたが、今の目的は街にこの魔物の群れを近づけない事だとすぐに気を取り直し、衛兵隊に突撃命令を出す。
シグナス「……みんな、見ての通り数が多い。必ず2人以上でグループを作って戦うんだ。それなら囲まれても攻撃を分散させる事ができるだろう。そして、無茶はするなよ!無理だと思ったら下がれ。死にたくないのはみんな同じだろ?最悪俺が何とかしてやる。だが、やるからには最善を尽くせよ!必ずこいつらを倒して、街のみんなが安心できるようにするんだ。そして必ず全員生きて帰るぞ!いいな!」
衛兵隊の兵士達『了解!!』
シグナス「よし、行くぞぉぉぉぉぉ!!」
衛兵隊の兵士達『うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』
かくして、シグナス率いる衛兵隊と魔物の群れとの戦いは幕を開けた。
衛兵隊はシグナスの指示通り、退く時は退き、一体ずつでも着実に魔物を倒していく。さすがは歴戦の戦士の集まりと言おうか、誰一人として魔物に屈することなく、戦況はこちらが押し勝っている様に思えた。
砦周辺の魔物を全滅させ、衛兵隊は砦の内部へ入る。入ってすぐ目の前にある広場にシグナス達が足を踏み入れると、不気味な高笑いと共に黒いコートに身を包んだ男が現れた。
シグナス「…!誰だ!!」
黒いコートの男「はっはっは、お見事。僕の軍勢を退けるとはねぇ……。予想外だったよ、ほんと。」
シグナス「貴様、何者だ!さっきの魔物の群れは、貴様が出したのか!?」
ナヴァル「おっと、失礼しました隊長クン。僕はナヴァル。[極星五鬼将]の一人だ。そして君の言うとおり、さっきの魔物達は僕が召喚した。」
シグナス「極星五鬼将……だと……!?」
[極星五鬼将]とは、かつて魔王の直属として仕えていた、特に戦闘力の高い五人の事だ。当時はそれぞれの鬼将がそれぞれ軍団を持ち、世界を支配していた。
シグナス「極星五鬼将は英雄により全員倒された筈だ……!倒された筈のお前が何故ここにいる!?」
ナヴァル「あぁ、僕らは600年前にあの英雄達によって倒されたさ。ただ……倒したとは言ったが、『完全に消滅した』とは言ってないだろう……?」
シグナス「何……?」
そう、英雄は極星五鬼将と戦い、確かに勝利した。そしてその時、極星五鬼将も消滅したかと思われた。しかし、魔王の策略により、極星五鬼将は消滅する前に保護封印され、存在自体は残っていたのである。
ナヴァル「君達は僕らが英雄によって存在そのものが消し去られたとでも思っているんだろ?きっと英雄本人達もそう思ってるんだろうけど、それは大きな間違いさ。僕達は死んでない。魔王サマによって保護封印されたのさ。」
シグナス「なんだと……!」
ナヴァル「はっはっは、呑気だなぁほんと。平和になったとでも思って平々凡々と生活してたんだろう?」
シグナス「バカな……。」
ナヴァル「さて……お喋りはここまでにしよう。もう少し君達の戦いぶりを見学させて貰おうかな…。」
ナヴァルはそう言うと、召喚陣を描き始めた。
ナヴァル「さぁ来い![デビル・バッファロー]!!」
ナヴァルが呼び出したのは、悪魔と闘牛が融合した巨大な魔物、[デビル・バッファロー]だった。その大きさは人の10倍くらいあるだろうか。頭には巨大な角が生え、体は堅い皮で覆われ、その手には身の丈以上のハンマーが握られていた。
ナヴァル「さぁどうする隊長クン……じっくり見学させて貰うよ。」
シグナス「くっ……!どんな敵だろうと、引き下がる訳にはいかねぇよ!!俺達は……街のみんなの命を背負ってるんだ……!そして俺達が生まれ育った街を……いつかロウエナが帰ってくるあの街を……護らなきゃいけねぇんだよ!!行くぞ野郎共!!」
衛兵隊の兵士達『うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』
シグナスの掛け声と共に、戦いの火蓋は切って落とされた。
シグナス達は最初は互角に戦えていた。しかし、デビル・バッファローは倒れる気配がしない。いくら攻撃を加えても、その堅い皮に弾かれてしまう。衛兵隊の中には剣を折られた者も多く居た。シグナスの剣も、既に刃はボロボロになり、弾かれてばかりだった。しかし皆はそれでも諦めず、勇敢に敵に立ち向かっていった。
シグナスも勿論、ボロボロになった剣で戦い続けた。しかし、彼は疲労も溜まり、動きもかなり鈍っていた。その影響で、彼が攻撃を弾かれて怯んでいるところに、デビル・バッファローの振り回したハンマーが直撃し、シグナスは勢いよく吹き飛ばされてしまう。
シグナス「ぐっはぁぁ……!!」
シグナスはトンネル状になっている通路の壁に打ち付けられ、そのまま崩れ落ちた。幸い、デビル・バッファローは衛兵隊に気を取られていてこちらに気付いていないようだ。
シグナス「く……くっ…そぉ!何て強さだ……!!」
シグナスは壁に打ち付けられ衝撃で動けない程のダメージを負ってしまっていた。このままではやがて衛兵隊も全滅してしまう。シグナスが頭を悩ませていたその時だった。
シグナスの目の前に、いつの間にか水色の髪の少女が佇んでいた。
シグナス「……?………何だ……あんたは……?」
シグナスが苦しそうな声で問うと、少女はこう言った。
水色の髪の少女「……ロウエナさんの、お兄さんだよね…?」
シグナス「なに……!?俺達の事を知ってるのか……?」
水色の髪の少女「……詳しいことは後で話すね!とにかく……すぐに助けを連れてくるから!!それまでここから動かないでね!」
そう言うと、少女はシグナスに回復魔法をかけて消えていった。
シグナス「何だあの子は……?しかし、回復魔法は助かった。ここから動くなとは言われたが、ここで部下が戦ってるのをのんびり見てるだけって訳にはいかねぇ!」
シグナスはかろうじて動くようになった体に鞭を打ちながらも、再び戦いに復帰した。
水色の髪の少女。彼女はロウエナがあの湖の側で出会ったあの妖精だった。何故彼女がロウエナに兄が居て、その兄が危機に迫っているのを知っているのかはまだ分からない。彼女はロウエナにシグナスの身に危機が迫っていると報せる為、パルナに向かったのであった。
─果たしてシグナス達が倒れる前に、ロウエナは彼らの元へ駆け付けることができるのだろうか…?