落書き1
通りがかるといつも威勢よく吠えてくる飼い犬が、吠えなくなるほどのうだるような暑い夏の日。
湖の畔にある公園、その中でも湖に近いところに設置されているベンチに、私たちは今棒アイスを咥えて座っている。
このベンチには辛うじて屋根がついているから、直射日光は受けないものの…咥えたアイスが口の中で溶けだすよりも早く、頬を伝っていく。そのくらいには暑いのだ。
「あー・・・・暑い・・・・・」
隣であたしと同じくこの暑さやられて、背もたれにぼろ雑巾のように体重を預けている建宮恵がうなだれている。
胸がちっちゃくて、黒髪の天然ストロングヘアー。美人で可愛い、あたしの彼女だ。
「ねー恵ー・・・・・涼しくできない・・・?」
なんとこの子、自分ができると思ったことは何でもできる凄い人なのだ。
「ムリなものは無理だから潔く諦めなさいな・・・・・」
「出来ないって決め込んでるからできないのでは?」
「ちょっ、暑いのは愛華だけじゃないんだからねー・・・」
むぅ・・・おしかりを受けてしまった・・・
今みたいに本人が常識的に出来ないと思っていることは出来ないっぽい。まあ、この話はまたどこかで誰かが詳しく説明してくれるだろうから今はいいか。
それよりもあたしたちがなんで今こんなところで涼しんでいるでもなく座っているのか、湖のほとりだからまだましだと思うけど・・・あれ、、、太陽の光が反射してるからもしかして他よりも暑いのではないか・・・・やめよう。暑いと思うから余計熱く感じるんだ。ともかく、ここにはとある人の頼みでとある人物を待ち伏せをするために座っている。
生憎と待ち伏せをすることになった場所周辺にはエアコン完備の建物は存在せず、かろうじて屋根付きのベンチに狭々と二人して座る羽目になった、というわけ。
「ねぇ、愛華。なんでずりずりとすり寄ってきているのかな・・・・?」
「気のせい気のせい」
「それが本当かどうか証明してあげてもいいのよ」
「ごめんなさいすみませんでした」
恵にはかなわない。たぶん証明された後に長々と説教を食らう羽目になるだろうからそれだけは避けねば。
額の汗をぬぐった恵は着ている服をつまみ、胸元を開けて風を入れようとしている。元々恵の着ている服は動きやすく体にピッタリくっついてるからその行為に意味があるのか・・・・?
でもなんだかなまめかしいから良しとするのだ。
でもでも、やっぱり恵ちゃんは歳にしてはお胸がちっちゃいような気がするぞ・・・、ちゃんとものを食べているのかしらこの子は。何でもできる割には、というより何でもできるからこそなのか、若干抜けているところがある。最初は気づかなかった事だけど、付き合い始めてから段々と明確な欠点が浮き彫りになってくる。私は3年生になり、かれこれ1年以上付き合ってる。そもそも恵はあの街で、とある仕事を住込みでこなしているためほとんどの時間を一緒には居れないが、今日のようにたまーにこの町に来てくれる。それは仕事に関することだったり、自分の親戚の人に会うなどの目的を作ったとかなんとか言っているけれど、本当のところはあたしに会いに来てくれているのではないかと、そんな期待を寄せてしまう。
そんな期待を口に出してみたことがある。メールでのことだ。
「ねぇねぇ、たまに用事作ってこっちに会いに来てくれるけどさ」
「うん」
「それってあたしが本命?」
「・・・・・・・・・ついでよついで」
とか耳まで真っ赤ににしてそっぽ向かれてしまった。
「あっつい・・・・」
「あいつまだかなー・・・・」
「あいつって・・・・あのあいつ?」
「そうそう、こうすけくん」
「なに、あいつ待ってたの。メールか何かで呼び出せばいいのに」
あれ、誰を待ち伏せしてるのか説明してなかったっけ・・・?そもそも2人って知り合いだったのか。
そんな私の疑問を表情から読み取ったのか、恵が「あっそうか」と頷いて補足してくれた。
「ついこの間、愛華も被害にあった連続殺人事件あったでしょ?私もそれでこっち来ている訳だし。あの関連でちょっとね」
「え、あいつまたなんか関わってたの」
「関わっていたというか、完全に確信犯だったというか」
あの事件、結局はあの時巻き込まれそうになっただけで終わってしまった。そりゃもちろん殺人事件に関わらない事に越したことはないけどさ・・・。恵が解決まで関わっていたことを聞かされれば、やっぱりあたしとしては、一緒にかかわっていればよかったな、と若干の後悔が根付いてしまう。
あたしがあの事件が解決したこと、実はそれに恵がかかわっていたこと、その両方を初めて聞いたのは恵があたしに会いに来てくれたつい昨日の事で、「色々と解決して暇ができた」と知らぬ間にすべては終わっていた。
「もう少し頼りにしてくれもいいのになぁ」
「大切な人にわざと危険なことに首を突っ込ませられるわけないでしょ?」
あたしの無意識下での呟きに対して「お互い様」と、色々理解したような優しい顔をして見つめてくる恵。
・・・・なんか悔しい。
「でも、特に怪我がなくてよかった」
「・・・・・・・・ありがと。そっちもね」
不意に伸びたあたしの手を払う事もなく、大人しく頭を撫でられる恵。大人しくなでられているにも関わらず、目を合わせようとはしてくれない。でも耳が真っ赤、なにこれ、超可愛い!照れてる!!
ホントこの子は純粋な好意に弱いなぁ・・・・。
「ま、まあ、がんばったご褒美として?もらっておくわ」
「ツンデレかよ」
そんなこんなをしている内に、あたしたちの座っているベンチから少しだけ前。その道を男女のペアがゆっくりと歩いてきた。今回のお目当てである、あの事件に巻き込まれそうになったあたしを助けてくれた後輩の、こうすけ君だ。
「来たね、あいつ。携帯とか持ってないっぽいから真昼さんに言われた通りここで待ってたけど、やっぱあの人正確だわ」
隣で「なるほどね」と恵がつぶやく。
あたしたちは2人同時に立ち上がって、目的である彼に声をかけようと歩き始める。
この後、こうすけ君と一緒にいた「彼女」を無力化するのに、数時間を要したことは、また別のお話になるかもしれない。




