「ねぇお兄ちゃん。クリスマスってなあに?」
兄×妹のお話です。苦手な方はご注意ください。
ここは人間世界から遠く離れた幻想的な街。
冬という季節が存在しないこの街には、当然クリスマスも存在しなかった。
「ねぇお兄ちゃん。クリスマスってなあに?」
妹のクリアは“人間世界の写真集~日本編~”という本をじっと見つめながら問いかけてきた。
クリアは最近人間世界……特に日本という国の文化にハマっているらしい。
まったく……人間世界なんて、犯罪と欲にまみれた汚いところだろう?
僕らの住んでいる街のほうが美しくて、優しさに溢れているはずだ。
しかし俺は妹にだけは優しい兄だ。質問にはきちんと答えてあげねば。
「クリスマスってのはなー……日本以外の国だと、家族でパーティーしたり、シチメンチョウってやつを焼いて食べたりするらしい。クリアの好きな日本では、恋人同士で過ごすのが定番みたいだ」
「コイビト同士……」
クリアは本に載っているイルミネーションの写真をうっとりと見つめている。まるで恋人同士でクリスマスを過ごすことを夢見ているように……
おいおい、いつからそんな女っぽい表情をするようになったんだ?
クリアは俺の宝物だ。他の男とロマンチックな時間を過ごしているところなんて、考えたくもない。
「クリア。日本のクリスマスもいいけど、そろそろ宿題でもやろう?」
「もう終わったもん……」
クリアは愛らしいほっぺたをぷくりと膨らませた。
うん。かわいい。
もう宿題を終わらせているなんて、流石俺の妹だ。俺に似てクリアは成績も優秀なんだよな。
それに、めちゃくちゃ美少女。兄バカだと思われるかもしれないけど、本当に美少女だ。
ゆるいウェーブのかかった薄い水色のロングヘアで、毛先は本当に透明になったような質感だ。
唇はほのかに色づき、ガラス玉みたいな瞳は純真無垢そのものだ。
ついこの前まで子供体型だったのに、最近は肉体も徐々に女らしくなってきている。
まだ誰も触れたことのない膨らみかけの胸は、一体どこまで成長するのだろう。俺としてはあんまり大きくなりすぎないでほしい。大きな胸が目立って男共の目を引くようになっては困る。
ああでも、胸が大きくならなくてもそれはそれで心配だ。ロリ体型ってやつか。そういうのに萌える男だっているもんな。
「お兄ちゃん。クリアね、日本のクリスマスのイルミネーション見に行ってみたい」
「何言ってんだ。人間世界に行くには役所に申請しないといけないんだぞ。そもそも申請するには最上級魔力取扱士の資格がないとダメだ」
「……うぅ」
クリアのガラス玉みたいな瞳が、うるうるしている。
うん。かわいい。
かわいいけどそんな所にはまだ行けないし、行かせないぞ。
「そうだ!アサギお兄ちゃんに相談してくる!アサギお兄ちゃんなら、何か他の方法を知ってるかもしれないし!」
「ええっ!?」
アサギお兄ちゃんってのは近所に住んでる俺たちの幼なじみだ。
いけすかない変態キザ野郎で、ちょっと顔がよくてちょっと頭がいいからって皆にちやほやされている。
顔のよさでは俺も負けてないんだが、成績はいつもアサギが1番。俺は2番で、あと一歩追いつかない。
クリアはアサギに懐いていて、小さい頃から何かあればアサギお兄ちゃん!って感じだった。冗談じゃない。
アサギはアサギでクリアのことを本当に妹みたいにかわいがってるし、アサギとクリアが話しているだけで俺はムシャクシャしてしまう。
「アサギのところに行くのはやめなさい。今何時だと思っているんだ?迷惑がかかるかもしれないだろ」
うん、この場合の引き留め方はこんな感じがベストだろう。
頭ごなしに行くなというより、相手のことを考えた言い方をしたほうが、クリアみたいないい子には効果がある。
「そっかぁ……そうだよね。ごめんなさい」
クリアはシュンとした表情で謝ってきた。
うん、予想通り。クリアは相手のことをちゃんと思いやれる子だからな。
アサギは前から魔法薬の研究をしていたが、最近では魔法道具の開発も始めたらしい。確かにアサギなら何かしらの方法を知っているかもしれないけど……
あんなやつにクリアを実験台にされちゃ困る。引き留めて良かった。
「でも、見たかったなぁ……イルミネーション……」
クリアはため息をつくと、雪なんて降るわけのない窓の外を見つめた。
うん、ため息をつくところもかわいいけど、あんなにションボリとした表情のクリアは久しぶりに見た。よっぽどイルミネーションを見てみたかったんだろうな。
うーん……兄として妹の願いは叶えてやりたいが……
……そうだ!
確か倉庫にアレがあったはず。
「クリア!ちょっと待っててくれ!いいことを思いついた!」
クリアにそう告げると俺はダッシュで倉庫に向かった。
埃をかぶったソレは、どうやらまだ使えそうだ。
「お待たせ!クリア!」
お気に入りのソファでごろごろしていたクリアは、俺が持ってきた地球儀を不思議そうな顔で見つめた。
ガラスで出来た地球儀は、ランプのようにぼんやりと光を帯びている。
「その地球儀がどうかしたの?」
「ただの地球儀じゃないんだ。ちょっとこっちにおいで」
クリアは机の前に来て興味津々といった様子で地球儀を眺めている。
俺が部屋の灯りを消すと、わかりづらかった地球儀の光が浮き出た。
「わぁ……きれい」
ガラスの地球儀は、暖色の光を放ちながらゆっくりと回転している。
「すごい、綺麗だねぇ……この地球儀の中、よく見るとちっちゃな光がたくさん集まって光っているんだね」
「そうだよ。小さい光がいくつも集まっているからこんなに眩いんだ」
地球儀を眺める横顔は、天使みたいだ。
俺のクリア。ずっとそのまま、無垢なままでいてくれ。
クリアが夢中で見ている隙に、地球儀のてっぺんにあるスイッチを押す。
すると、地球儀の中の小さな光たちが一斉に飛び出た。
「わぁぁっ!?」
小さな光たちは、窮屈な地球儀の中から抜け出せたことを喜ぶように、部屋の空間を照らした。
蛍よりも小さい光が、無数に瞬く星のように部屋中のあちこちで光っている。
「すごい……イルミネーションみたい!!」
クリアはきょろきょろと部屋を見回してはしゃいでいる。
「綺麗だねぇ……。どうしてこんなことができるの?」
「この地球儀は物心ついたときから倉庫に置いてあったものなんだ。小さな光を自動で集めて、星の中にいるような感覚を楽しませてくれる」
「ふわぁ~……!」
クリアは光に夢中だったけど、俺はずっとクリアだけを見ていた。
ガラス玉のような瞳に、小さな光がキラキラと写り込んでいる。透明感のある髪の毛は、光を反射していて、汚れのない湖みたいだ。
俺は地球儀の光よりも、クリアの方がずっと綺麗だと思った。
「お兄ちゃん、ありがとう……本に載ってるイルミネーションより綺麗だよ!」
「そうか。クリアが喜んでくれて、お兄ちゃんも嬉しいぞ」
「……人間世界に行きたいなんて、ワガママ言ってごめんね」
「いいんだ。それよりも、何かあったらアサギじゃなくて俺に頼ってほしい。あいつは確かに頭がいいし、何でも知ってるけど……俺だってクリアのためになるなら何だってできるぞ」
「お兄ちゃん……」
クリアは上目遣いで、じっと俺を見つめてきた。
ああ。俺は昔から、この表情に弱いんだ。
クリアを自分だけのものに出来たら、どれほど幸せだろうか。
「……クリア、そろそろ寝よう。これ以上起きてると明日に響く。寝る前にいつもやってるアレ、やってくれないか?」
「ん……」
クリアは、恥ずかしそうに目線を逸らした。
心なしかちょっとだけ頬が赤くなっている。
「やってくれないのか?」
「えっと……なんか恥ずかしいんだもん。いつものお部屋の雰囲気と違うし……」
「じゃあお兄ちゃんからやっちゃうぞ?」
「ひゃっ!」
俺はクリアをひょいと抱っこした。背が小さくて軽いクリアは、存在そのものが透明みたいだ。
ちょっと気を抜いていると、クリアは本当に透明になってしまうんじゃないかってくらい。
ぎゅっと目を瞑って待っているクリアに、顔を近づけてゆく。
「ん……っ」
クリアの桃色の唇と、俺の唇が重なり合う。
本当はこのまま口の中をかき回したいけど、今はまだ我慢だ。成長途中のクリアを傷つけるわけにはいかない。
名残惜しいけど、そっと唇を離す。
クリアは本当に照れているみたいで、顔を真っ赤にしていた。ちょっと前までは、なんの躊躇いもなくキスしてくれたのに。
ここ最近でちょっと大人に近づいたからだろうか。
「さあ、もう眠ろうか」
「うん……」
俺は抱っこしたままクリアをベッドに連れて行った。
星のような灯りが瞬くこの部屋で、俺たちは一緒に横たわる。
俺が隣にいると、クリアはいつも安心してすぐに眠る。その無防備な寝顔に、気づかれないようそっと口づけた。
純真無垢なクリアは、俺を疑うことを知らない。
クリアはこのまま俺のものになればいい。他の男になんて渡すもんか。
俺の予想では、あと1年後には丁度いい食べ頃だ。
このまま手懐けて、俺のことだけを思うようになればいい。
日本のクリスマスに浮かれる恋人たちよりも、もっと濃厚で、もっと純粋な愛を、クリアは知ることになるんだ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
この兄妹の幼馴染のアサギが登場する小説「大胆不敵イリュージョン」も連載しています。
よかったらこちらも是非。
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