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正義の条件  作者: ありと@
第1章『激突する憎悪と正義』
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8.Cのヒーローと転入生

一話2500字くらいを目標にしているんですが、なんか長くなっちゃいます。

――ルミ・ティイケリと名乗った少女主導の各地への襲撃があってから3日が過ぎた。


 特に被害の酷かった東区のスーパーは早くも立て直しの準備が始まっている。被害を受けなかった学園区は3日間何事もないように過ぎていった。



――天野学園2-C


「うーっす」


「セガあああああああああああああああああああああ!!」



 教室に入る瀬雅を迎えたのはやたらと声を張り上げる金堂鐸だった。


「なんだうるせぇ。絆創膏剥ぐぞ。」


「やめろ!それより、3日間も休みやがって!どんな無茶したんだよ!」



 鼻頭を押さえて心配する鐸。そう、瀬雅はあの事件のあと、無理がたたって検査入院するハメになってしまったのである。それを指摘されると少々弱い瀬雅であった。


「あー、まぁ色々……」


「ったくお前は……それに、話を聴きたいのは俺だけじゃないみたいだぞ?」


 鐸の言葉が合図になったかのように教室が賑わい出す。いつもより早く集まっていたCクラスのみんなが、登校した瀬雅を取り囲むように群がってきたのだ。


「……えっと?」



「なぁなぁ聞かせてくれよ、どんな怪人だったんだ?」

「金堂はネズミって言ってたぞ?」

「ネズミ?そんな小さいのいんのか?」

「いや、熊よりでかかったらしい。」

「俺別の場所で怪人が暴れてたの見てたぞ」

「本当に米村君が倒したの?」

「スゲー!オマエと鐸はCクラスヒーローだな!」



 困惑する瀬雅をよそに盛り上がるクラスメイト達、瀬雅はこれまであまり話したことのない人から次々と質問され目を回しそうになりながらも、なんとか自分の戦いを説明した。瀬雅が1つ話す毎に歓声が上がる。


 抜群の身体能力と整った外見を持つ瀬雅は、友達が鐸くらいしかいないと思っているが、周囲に嫌われているわけではない。


 魔力が使えず、5教科の点数が低いという長所短所が尖りすぎたステータスのせいでちょっと遠い存在のように思われているだけで、隠れた人気はあるのだ。



「悪いな。俺も色々聞かれてたんだけど、お前の活躍を掠め取っちゃうカンジになるかなと思って、セガが来るまで待ってろって言ってたんだ。」


 申し訳なさそうに告げる鐸。瀬雅はそれを聞いて心底呆れた。そんなもの、自分の手柄にしてしまえばいいのに。正直な奴だ。


 内心ため息をつきながらも瀬雅はクラスメイトとなんとかコミュニケーションを測る。どちらにせよ、この一件で鐸の評価が見直されているならよかったと思いながら。結局、質問攻めは担任が来て、半ギレで着席を促すまで続いた。



――――――――――――――――――――――


「毎日言っているが、怪人の活動が活発になってきている。幸い、昨日は何もなかったが今日は何かあるかもしれないと思って外出は極力控えるように。」



 担任が朝の連絡事項を告げる。先日の襲撃を受けて大和町各地は警戒が続いているとのことだった。瀬雅は町の中心にある病院にいたが、担任が見舞いついでに聞かせてくれたので知っている。






「それと、ああ、みんなにはこっちの方が重要なニュースかもしれないな。」



 一転。担任は不敵な笑みを浮かべると一端退室していった。教室内ではみんなが頭上に?を浮かべていたが、それはすぐに解決した。


 担任が戻ってくる。"白"を連れて。



「……麦町魅甘むぎまちみかんです。」


「「「「「おおおおおおおおおおおお!」」」」」



 担任に続いて入ってきたのは一言でいえば美少女であった。日本人らしい丸顔、横でまとめ肩程までの黒髪、そして真っ白な肌。


(人形、みたい……だな。)



 思わぬ転入生の登場に盛り上がるなか(特に男子)、瀬雅はその無表情さに注目していた。教卓の横に立つ麦町魅甘は確かに表情に乏しそうであり、容姿と相まって人形のよう、というのは的確な表現かもしれない。



「落ち着け、今日からみんなと一緒にヒーロー候補生になる麦町だ。麦町、席は――」


 言いかけた担任は目を見開く。


「しまった!席がねぇ!!」


「「「「「えええええええええええええ!」」」」」


 C組の生徒全員がズッコケた。


 若い教師特有のうっかりか。空席が1つもない教室からは笑いが起こる。特に鐸などは青髪を揺らしに揺らしての爆笑だった。


「よし、一回金堂が廊下に立って、そこに麦町が座れ!」


「なんでよ!?!!?」


 結局、とりあえず空き教室から持ってきて、窓際一番後ろ――瀬雅の真後ろの座席に落ち着くことになった。


―――――――――――――――――――――


――昼休み



「セガ、飯いこーぜ。」


「セガじゃねぇ、瀬雅だ。」


 いつもの掛け合いと共に学食へ赴く瀬雅と鐸。町の4分の1を占めている天野学園は、色々と超規模である。学食もその例外ではない。



 料理のプロ達が数十人単位で広大な食堂を担当する。もちろん、学食らしさや学生の食欲には考慮して定食や麺類、丼もの等が主体だ。一般的な学食の規模を広げたものと思っていい。



「今日は何食うかな。」


「セガはラーメンに七味だぱぁするのを控えた方がいいぜホントに。」


 廊下を歩く2人。校舎はL字型になっていて、学食と2-C組は階も距離も離れているので毎日利用するとなると地味な運動になる。規模故に走って行かずとも席が埋まる心配がないのは救いだが。


「ん?」


「どうしたセガ」


 ふと足を止める瀬雅。廊下の窓からL字型校舎の屋上の一部が見える。瀬雅の視線は、屋上に髪をなびかせる人形の姿を捉えていた。放っておけばいい、はずだったが瀬雅は何故か1人で佇む少女が気になった。


「あー……悪い、今日はパスだ。行っててくれ。」


「え?あ、オイ!」


 今しがた降りてきた階段を再び駆け上がっていく瀬雅。突然に呆然とすることしかできない鐸であった。

鐸は先ほどまで瀬雅が見ていた方向――窓の外から空を見上げ、鼻頭をポリポリと掻いた。


「ったくしょうがねぇなぁ……購買でもいくか。」


 1人で学食ランチというのも寂しかったので、併設されている購買部で手軽なサンドイッチを3つ(・・)買って戻ることにした。


―――――――――――――――――――――


――屋上


 6階立ての教室棟の屋上は学生の人気スポットだ。国立競技場がダース単位で建設できそうな広大な敷地を一望できる。しかし、今日は風がやや強めということもあり、人影は2つしかなかった。


 転入生麦町魅甘と、彼女に吸い寄せられるようにやってきた米村瀬雅である。


「よっ。」


 瀬雅が声をかけると、フェンス越しに風景を見ていた少女は瀬雅の方にゆっくり振り向いた。横で結んだ艶のある髪がふわりと流れる。


「…………前の、席の人。」


「米村瀬雅だ。」


「……セガ?」


「なんでやねん。」


 初の会話にして見事なツッコミを入れる瀬雅。魅甘は表情の変化はほとんどなく、しかし、瀬雅のことは一応クラスメイトとして認識していたようだ。


「メシ食わないのか?」


「……ちょっと、うるさくて……」


「あぁ~」


 4月上旬の転入生は話題になるのも早かったようで、休み時間の度に囲まれていた姿を思い出す瀬雅。魅甘のことは良く知らないが、明らかにワイワイムードを歓迎するようには見えなかった。


「あんたも呼ばれてきたのか?」


 瀬雅の問いに微かに頷く少女。


"スカウト"――理事長が各地から怪人と戦闘できる素質を持つ子どもを集めてくることはたまにある。瀬雅自身、普通校への進学を検討していた中学時代に天野学園からのお誘いが来たのだ。


 魅甘もスカウトで来たと肯定した。つまり、目の前の少女は少なくとも瀬雅と同等以上のポテンシャルを持っているということである。



「静かな昼食スポットたくさんあるんだぜ?この学園。必要とあらばいつでも聞いてくれ。」


「……トイレとか?」


「えっ」


 まさかの返しに困惑する瀬雅。便所飯――戦争が起こる前に一部の学校であったと言われる都市伝説だ。静かなお手洗いの個室から、「パリッ」という音が聞こえてくる――。明らかにコンビニおにぎり特有の海苔を噛むときの音――


 一昔前の七不思議の噂を思い出していた瀬雅だが、ふと魅甘をみると、少し、ほんの少しだけ口角を上げていた。その微笑みは、イタズラが成功した子どものようでもあった。


「なんか、意外だ。」


「……よろしく、セガ」


「セガじゃねぇ……もういいか。」


 自分を色々と問題のあるニックネームで呼ぶ者が増えてしまったことに嘆息しつつ、その後も瀬雅は天野学園のことを色々と紹介した。魅甘も頷いてそれを聞いていた。









 これが後に大和町を救うことになるヒーロー、米村瀬雅と麦町魅甘の出逢いであった。

誤字脱字等ありましたらご指摘いただけるとありがたいです。

次話投稿は明日14時です。もしよろしければ!

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