ドキッ!?怪人だらけの大運動会②
ただの運動会にはならない……?
――天野学園2-C
平穏を取り戻した大和町。そんな中天野学園2年廊下に掲示された運動会のルールは俺たちを震撼させた。
フリーパス――それは全校生徒の憧れ……普段利用している食堂はもちろん、何故かある温泉や映画館、トレーニングルームの上級設備等々学内にある中でも有償となっている施設を100回(100品)に限り無料で利用できる魅惑のパス。
特に生活費に喘ぐ学生にとっては学食が半年程無料になるというだけで生唾ものだ。費用とか大丈夫なのだろうか……
兎に角、そういった経緯があり俺たちC組のクラスメートは現在それはもう真剣に各人が参加する2種目を決めているのだ。
俺は魔力を使わないという条件下では身体能力の面で有利だ。なんせ怪人だからな……ということでそれを活かせる上に得点も大きいクラス対抗リレー、二人三脚リレーに出場することになった。
ミカンは○×クイズと借り物競争にでるようだ。彼女も植物族の怪人の体を持っているというのにな運動はからきしらしい。俺が怪人の姿にならないと魔力を練れないように、ミカンは人間の姿では身体能力が十分に発揮できないとのこと。だから金堂より脚が遅いのか……
「米村君はアンカーでしょ絶対!」
「いいや1走を務めるべき!」
と、俺の意見とは関係なしに委員長の石川さんともう一人の女子が争いが始まってしまっている。クラス対抗リレーは男女混合2×2名だ。普通に身体力テストのタイム順に4人をとった。幸い俺以外の3人も脚がかなり速い。中学時代陸上部出身の笠見を筆頭に短距離走の心得があるようだ。3人とも運動万能ってわけではないのだがやっぱりフォームとかがしっかりしてる人は速いんだな。
それだけにクラス対抗リレーは落とせない種目だ。俺も真剣に走順を考えねば。
「ちょ~~~~~~っとまったぁああああああ!!!!」
「「「「「「「「!」」」」」」」」
俺が話しに加わろうとしたその時、大きな声が教室に響き渡った。みんな五月蠅そうに声の主を振り向いている。うるさいからね、仕方ないね。
あ、五十嵐がちょっと目開けた。
「勝ちたい、その気持ちは分かる。だがタイム順だけでリレー選手を決めちまうってぇのはやっぱり納得いかねえ!!」
青髪を激しく揺らしながら熱弁するのは勿論金堂鐸。走順の話をしているというのに、そもそもメンバー選びからやり直せという金堂の意見には当然反論が上がる。
スポーツ刈りの笠見が立ち上がった。
「俺じゃ不満か鐸。米村程じゃあないが少しは自信あるんだぜ?」
メンバーにいちゃもんを付けられてちょっと不機嫌そうな笠見だが、一応金堂の言い分を聞こうという辺り優しいな。
「タイム以外にどんな人選があるっていうの?」
続いたのはややふくよかな女の子、山元さんだ。見た目に違わぬ大食い早食いは学食名物でもあり、離れた場所からブラックホールの如く食べ物を吸引するその秘儀はパン食い競争での活躍を期待されている。
そんな彼女の問いかけに金堂は人差し指をたてて振る。「チッチッチ」と言うのも忘れない。めっちゃむかつく。
「いいか、リレーは速さだけじゃあ勝てない。重要なのはバトンワーク、そしてチームワークだ。一番速いセガはいいとして、そのセガと最も信頼関係を築けている奴が組んだ方がいい。なあセガ!」
うわ、こっちに振ってきた。でもまあ確かにバトンの受け渡しは大事だ。落としてしまったりしたら一気に不利だからな。しかし俺と信頼関係が築けている奴か……ミカンは他の種目が決まってるしなあ。
ちらりと後ろを振り返るとミカンと目が合う。金堂の話を全く聴いていなかったのかぽけっとしていたが、小さく笑って俺に手をふった。真後ろの席という至近距離なのに、かわいい。
そんな俺の様子を見た金堂は不満気に喉を鳴らし、自分に親指を向けた。
「だーかーら!俺!この金堂鐸を入れてくれ!」
「「「「「は?」」」」」
……なんだそういうことか。リレーとはこの手のイベントの花形。注目を浴びたいのね、鐸くん。
「で、お前50m走のタイムは?」
「きゅ、9秒2……」
「「「「「「「「「座れ!!!!!!!」」」」」」」」」
「はい。」
結局俺はアンカ―を務めることになった。このクラス、チームワークは大丈夫かもしれない。
「今年は行けるよねきっと」
委員長の石川さんが眼鏡の位置を直しながら興奮したように言う。2つのおさげがビョンビョン揺れている
俺も、競技決めをしている内に意外とこのクラスは戦えるのではないかと思うようになった。Cクラスとは能力の平均値が高くない者が基本的に集まる。
俺のように身体能力だけが突出していても魔力が0だと平均は下がるし(事実ではないが)ミカンは俺をひっくり返したようなステータスを持っている。
流石に俺たちは極端な例として、要はこのクラスには一点突出型が多いのだ。現に委員長は参謀としての能力は一流。天野学園伝統の"総力戦"では大将として活躍できそうだ。
金堂みたいにツッコミだけ長けている奴もいるが……
「へっくしょん」
うるさい
「へっくしょん」
うるさい
例えば綱引きは腕力、姿勢、タイミング等が重要だからクラス間での差は付きにくく大縄跳びも余程苦手でなければ回し手と跳ぶ側の配置を詰めればいい。
金堂とミカンだけ誰かが抱っこして跳べば誰も引っかからないだろう。回し手の勝負だ。
「……セガ失礼なこと考えてる?」
ごめん
借り物競争や仮装レースは引き運も絡むだろうし二人三脚はコンビネーションだ。
各競技をよく見るといくらヒーロー候補生としての能力が優れていてもそれがどうしようもないほどのハンデにはならないものが巧みに選ばれている。
加えてクラスの士気が異様に高い。というのも、先の植物族の戦いで俺やミカンが上位種を倒した、というのが広まっているようだ。
流石に詳細は伏せられていたが、俺はマツボロスを倒しシュルームを相手にしているし、ミカンはシュルームを倒す前にもガザミの怪人を山のように倒している。
俺らの正体についてはぼかしたまま怪人を倒した噂だけが広まっているのだ。つまりみんなは俺たちに期待している。実際ミカンは変身してなくても魔力を放てるしな……
そんなこんなで種目決めは進行していく。きっと勝てる。いや、ミカンの居場所になったこのクラスで勝ちたい。そう思っている。
うーん……でもなんか起こりそうなんだよなぁ。
企画が黒崎先生というのがどうにも引っかかる。
俺らが上位種を倒したという噂だが、ミカンがシュルームを倒した時、目撃者はいなかった。
万が一見ているものがいたとしたら、南区の一画を吹き飛ばしたあの攻撃に巻き込まれて……いや、やめておこう。
つまり俺らの正体をぼかしながらも上位種を倒したなんて噂が流れているならそれは誰かのデタラメか
空間を超えて戦況を観察できるような能力者だけだ。
気に留めておこう。
―――――――――――――――――――――
――大和町西区留置所
瀬雅達が種目決めをしている頃、彼女の姿は西区にあった。
「相変わらず殺風景だねぇ。」
表向きは犯罪者を拘束しておく施設なだけあってその外観は物々しい。
無骨な煉瓦を重ねたような建物は内側の監獄を予測できるだろうし、有刺鉄線つきのフェンスなんてカラスやコウモリが出そうなほど不気味だ。
だが彼女は悠々とその施設へ入っていく。見張りの元軍人は彼女を見た瞬間に背筋を伸ばして敬礼する。
彼女はこの施設の地下を知っている者だ。外観からは想像もつかないホテル調の地下には表には出せない、捕獲された怪人のうち敵意が無い者を留め置く場所なのだ。
赤をベースとした洒落た刺繍の入ったカーペットを彼女は歩く。そして迷わず一室へと向かっていき、ドアを開けた。
「やっほーこの前ぶり♪」
いきなりやってきて大人がする挨拶ではない。部屋の中で紅茶を飲んでいた彼女は慌てて立ち上がった。
「く、狂い月……!」
「そんな硬い呼び方やだよルミちゃん。」
「……とにかく入れ。」
ぶっきらぼうに中へ案内するのは目を疑うほどの美少女、雪のような白い肌に絹のような銀髪。エメラルドの眼などは人間離れした美しさだ。
それもそのはず、ルミ・ティイケリは獣族の上位種、怪人なのだから。
「紅茶でいいだろうか」
「や。紅茶苦手」
「……オレンジジュース」
「飲む飲む〜♪」
ため息をつきながらも来客をもてなすルミ。思えばここに来るのはどれも変な話を持ってくる奴ばかりだ。
今回もそう、前回からルミは彼女のお誘いを受けていた。
「で、考えてくれた?」
「いきなりだな……世間話を楽しんだりはしないのか?」
「まぁ今日はちょっと急いでてね。」
「というと?」
聞き返すルミに彼女ら答える。長い三つ編みが茶目っ気に揺れる。
「今2-Aの授業抜けてきてるんだよねぇ」
「……オマエはよく教師が勤まってるな」
呆れて皮肉すら出てこない。目の前の女、黒崎純子はA組が運動会の種目決めをしているのをいいことにこっそり抜けてきたらしい。
「んで?協力してくれるの?」
丸テーブルに両肘を付き、手を組んで顎を乗せた黒崎がルミに再度尋ねる。ルミはまた溜息をつくと鋭い顔を作った。
「本気か?」
「じょーだんでこんなトコこないよ。」
「……怪人を傘下に加えるなんて正気の沙汰とは思えんが」
ルミは険しい顔を作る。黒崎は目を細めた、狂い月の目だ。
「誰でもいいわけじゃない。キミは安全だ。もう1人いいのが見つかったんだけど、そっちは快諾してくれたよ?」
ルミは考える。確かに自分は既に人間を進んで害そうなんて思っていない。もし目の前の三大ヒーローに敵意を向けようものならタダでは済まないだろう。
タダでやられるつもりもないが。
しかし、黒崎が持ってきたのはルミにとっても悪い話ではなかった。
「ここにいる以上、ワタシが何かできる訳でもないが。」
黒崎の答えは決まっている。
「もちろんそれはいーよ。でもキミには優秀な部下たちがいるじゃない。今もさ」
ルミの頬を冷や汗が伝う。
ルミとその配下だけに許されている転移結晶による移動。ルミ自身はそれを使う気はないが、彼女の下に付いているネズミやコボルトの怪人達は諜報として現在も動いている。
黒崎は暗にルミの部下の命は手のひらの上だ、と言っているのだ。
「その配下のお力だけでもちょーーーっと貸してくれれば楽しいことができるんだよねぇ。米村くんも喜ぶと思うよ。」
米村瀬雅――その名を出されると弱い。暴走した自分を救ってくれた彼には恩義を感じている。黒崎の傘下に入ることが、黒崎の勢力を拡大することが瀬雅の役に立つとは思えないが、断る理由も特にない。
「わかった。オマエの口車に乗らせてもらう。」
「ありがと♪話の分かる子は好きだなぁ」
「子ども扱いはやめろ。人間でいったら高齢者だ。」
「は?なのにそのお肌?」
急に黒崎の機嫌が悪くなる。どうやら気にしているのか?
「あ、いや、そ、そうだ。学園に戻らなくていいのか?」
「そだった。んぐんぐ。じゃあね!」
咄嗟の話題転換だったが、黒崎はオレンジジュースを飲み干して慌ただしく去ろうとする。
そのまま見送ってもよかったが、ルミは1つ気になって尋ねた。
「あの子は……麦町魅甘はどうしてる?」
黒崎は振り返ってニヒルな笑みをつくった。
「とっても元気そうだよ♪」
「そうか。ならいい。」
ルミは黒崎を見送ってドアを閉めた。
「………………よかったな。」
安堵の微笑みを浮かべながら。
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