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正義の条件  作者: ありと@
第2章『白い薔薇の少女』
76/85

50.奇跡とは苦難を乗り越えた賞賛である。(挿絵有)

本日は0時頃にも投稿しております。ご注意ください。



 瓦礫の海と化した大和町南区に瀬雅と魅甘が倒れていた。魔力切れを起こした怪人は動けない、人間の姿に戻った2人は助けが来るのを寝そべりながら待っているのだ。





「終わったな」



「うん」




「すっきりしたか?」




「……分からない。」







 魅甘は応える。遂に悲願であったシュルームへの復讐を果たした。しかし家族が生き返るわけでも周囲の人に忘れられた事実が戻るわけでもない。





「でも」



 魅甘は続ける。








「昨日の私より、今の私の方が幸せ……」







 瀬雅を見つめる魅甘。並んで横になっている少女の瞳に瀬雅は吸い込まれそうになった。




「……そっか。」

「うん。」





 沈黙。不思議と嫌ではない2人の沈黙。月は大分沈み、夜明けが近いことを知らせていた。思えば魅甘と東区で遊んでから一週間ほどしか経っていないのだ。そう言えばあの日はプラッディに絡まれて途中で終わったんだよな……瀬雅がふりかえっていると魅甘が口を開いた。





「デート、今度やり直してほしい……かも。」

「うん。……う゛ん゛?」




 同じことを考えていることに驚くと同時に、彼女もあれを"デ―ト"だと思っていたことを嬉しく思う。




「いや?」


「嫌じゃない!今度は最後までやりきろう!」



「ん。……今度は怪人が出ても負けない」



 慌てる瀬雅、魅甘は仲の良い者だけに見せるジョークで応えて見せる。"仲の良い者"なんて言葉がでるのもつい最近になってからだ。



「ぷ」


「ははは……」



 戦いが終わったばかりだというのにまた戦うのかと2人は寝そべったまま笑った。少しだけ和んだ瀬雅はもう一度口にする。




「終わったんだよな?」



 しかし魅甘の返答は先程とは異なっていた。



「……まだ終わってないかも」


「え?」


 180°変わった魅甘の意見に瀬雅は思わず聞き返す。魅甘は告げた。




「セガの目的はまだでしょ?」


「……ああ。」




 瀬雅の頭には10年前の出来事が蘇る。実験台として捕らわれていた自分を助け、自由をくれた短髪の女。ヒーローでなくても、大和町の住民なら知っているであろうあの人物は、今どこで何をしているのだろうか。彼女を探して、もし生きているのならば礼が言いたい。そして、自分と同じ状況(・・・・・・・)にあるであろう彼女を助けたい。



 それだけではなかった。瀬雅にはもう一つ、この戦いで明確になった目標がある。



「……今日決めた。俺は魅甘みたいな人を助けるために戦う。」








 他の怪人の魔力を混ぜられて、獣族の誇りを踏みにじられ、暴走したルミ・ティイケリ。


 人間でありながら強制的に怪人にされ、孤独な人生を歩んできた麦町魅甘。



 きっとこういった一連の事件には首謀者がいる。そして他の被害者も……。瀬雅の固有能力"正義の悪魔(ラグエル)"だけがこの呪いを解くことができる。瀬雅は魅甘を見て、それを役立てたいと強く願うようになっていた。



 瀬雅の気持ちがどこまで伝わったかはわからないが、魅甘はそんな彼を見て微笑んでいだ。



「私はセガを手伝うよ。そしていつか、全部が終わったらその時は――」



 瀬雅を見つめる彼女の表情はもはや人形などではない。確かな笑みであった。




「私を普通の女の子(・・・・・・)に戻してね。」



「ミカン……」




 それはつまり、人間の姿に戻るときは一緒に、ということだろう。魅甘のストレートな視線に瀬雅の顔が僅かに赤くなった。確かにそれはいい提案だ、いつか二人で人間に戻る。完全に人間に戻った魅甘がどんな表情をみせてくれるのか今から楽しみだ。



 だが、同時に瀬雅はこうも思ってしまうのだ。


 俺は怪人のときの薔薇の髪飾りもいいと思うんだけどな――




「え……?」






 なぜか今度は魅甘の顔が赤くなっていく。瀬雅は己の失態にすぐに思い当たった。



「え、口にだしてたか?」

「うん……」




 沈黙。今度は赤い顔を見合わせたままのやや気まずい沈黙だった。瀬雅は何か言わねばと焦る。




「あーまぁあれだな。これまでの分も自分のことを大事にしてやってくれ。」


「うん、前よりかは自分のことが嫌いじゃなくなったよ。」



 魅甘ははにかんで見せる。なんだこのかわいい生物は――まず浮かぶ感想がそんなことなあたり瀬雅も年頃の男の子なのだろう。


 魅甘は今後、自分が植物族であるということを受け入れていかなければならない。それは容易ではないだろう。だが彼女はきっとできる、瀬雅はそれを近くで見守っていくことを誓った。




「これからだな。」



「うん」



 漸く少しだけ動くようになった互いの手は自然とつながれていた。今日二度目の手は柔らかく、温かい。





―――――――――




 ほどなくして大和町内の植物族の怪人は鎮圧された。シュルームという統率者を失った下級怪人たちは散り散りに暴れるだけとなり、容易に撃退できた。



 更には天野学園第五席、金堂鏡の活躍。加えて突如現れた三大ヒーロー黒崎純子が気まぐれの嵐のように怪人を蹴散らして去っていたこと等が大きく作用し、あれだけ大和町を脅かしていた大軍はあっさりと殲滅されたのだ。



 加えて早朝には三大ヒーロー五十嵐光をはじめとする町外のヒーローたちが大和町に帰還した。旧新潟県までの怪人の撃退が完了し、人間領拡大作戦は無事達成された。広がった人間領はこれから防衛面を整えていくことになるとのことだ。



 このニュースは人々に安心をもたらした。同時に、若干名が還らぬ人となり、戦争以来初の大規模衝突として人々の記憶に刻まれることとなる。



――――――――――



 そして更に翌日、大和朝は特に損壊が酷かった南区を中心に復興が始まり、天野学園は再び日々の学園生活へと戻っていくのであった。












「おはようセガ。」


「おう、おはよう。」




 学園の端、やや坂を登ったところにある男子寮。若干遅刻気味で瀬雅が出ると玄関前では魅甘が待っていた。相変わらず表情のわかりづらい整った顔。白い肌にはシミやほくろがまるで見当たらず絵画から出てきたかのような美しさである。



 変わったのは、髪をサイドで縛る飾り気のなかったゴムが、白い薔薇の髪飾りになったことと。


 登校中の二人の距離だけだろう。






 うんざりするほど広い学園内の通学路を通り、これまたうんざりするほど大きい校舎にたどり着く。2-Cのドアの前に立つと、既にホームルームが始まっているようだった。





「本当に、もう一度やり直すんだな?」



「……うん。」





 瀬雅は尋ねる。魅甘の表情は沈んだような複雑なものだった。




 固有能力の呪いで周囲から忘れ去られた魅甘。呪いが消えた今でもそれは変わらない。



 魅甘が選んだのはもう一度この学園の、2-Cの一員として転入からやり直す。というものであった。




 前日のうちに学園長と担任の五十嵐だけには瀬雅から、「麦町魅甘という遠縁が転入したいと言っている」と話をしてある。



 転入し直す、という身勝手とも取れる行為を学園長は「好きにしなさい」と快く承諾してくれた。軽すぎないか?とも思ったが意味深な笑みを浮かべる年齢不詳の学園長の心の内はわからなかった。



 五十嵐はただ頷いていた。言葉はなかったが、瀬雅の頼みということと、学園長の許可を得ているということで何か思うことがあったのだろうか。



 兎に角今日は、魅甘がもう一度1から人間関係をやり直す場なのだ。




 魅甘は既にクラスのみんなを知っている。だがクラスのみんなは魅甘のことを覚えていない。その事実はわかっていても魅甘の顔を暗くするのだ。



 瀬雅がかける言葉を探しているうちに教室のドアが内側から開く。




「来てるな、入れ。」




 金髪の不良――ではなく担任の五十嵐が促すと魅甘は一つ深呼吸をして教室へと踏み出す。瀬雅は黙ってそれを見守ることにした。























「セガアアアアアアアアアアアアアアアアア、麦町さああああああああああああああああん!!!!!!!」





「うるせ!って"麦町さん"?」



 二人の姿を見るや否や青髪が飛び込んでくる。咄嗟に蹴ったあとで瀬雅は違和感に気付いた。



「金堂、お前ミカンがわかるのか?」




「いてて、なぜ蹴ったことがなかったカンジで会話が進むんだ……ん?ミカン(・・・)?あーーー!お前いつから名前で呼ぶように!爆発しろ!爆発しろ!」




「まじでうるさいなコイツ……南区でしてきたよ爆発。え?ちょっと待て、どういうことだ?」




 まくしたてる鐸に混乱する瀬雅。鐸は魅甘のことを忘れていない?魅甘のほうを向くと、その目は限界を超えるほどに見開かれていた。形容しがたい彼女の表情の原因は、教室の中を見るとすぐに分かった。






「もー心配したよ麦町さん。」

「どこいってたの?」

「なんかサイドテールの子に弟が助けられたって言ってたぞ。麦町さんじゃね?」

「ええ!?それすごくね?」

「おはよー!」

「朝から二人で登校とかアツアツだな。」

「ずっと体調悪かったのか?」

――――――――――


―――――



――










「……奇跡だ。」







 魅甘はその光景に唖然とする。この場の誰もが彼女を覚えている。それどころか彼女を心配している。







 それは世界からのささやかな贈り物。






 固有能力が変質したことで魅甘を忘れていた人たちが、本来魅甘にとるはず(・・・・・・・・・)だった態度で接する。




「麦町、米村。とっとと席につけ。」




 五十嵐は教壇の上でけだるそうに出席簿をめくっている。がその口には僅かな笑み。




 瀬雅が学園長や五十嵐に話をしたときから既に五十嵐はこうなることがわかっていたのだ。五十嵐も魅甘のことを忘れていなかったことになっているのだから。





「ミカン……」




 瀬雅はその光景に感動した。10年間孤独であった彼女が、やっと本来の居場所を取り戻した。魅甘この光景を奇跡と零したが瀬雅はそうは思わない。



 これは恐らく、これまで魅甘が乗り切った苦難へのご褒美なのだ。温かい光景瀬雅は自然と笑顔になっていた。







 いつしか魅甘の顔には大粒の滴が伝っていた。それは今まで見たどんな涙よりも大きな涙。そして――






「…………おはよう、みんなっ!」






 それは今まで見たどんな笑顔よりも美しい飛び切りの笑顔。








 柔らかな朝の陽ざしが同じく柔らかいC組の談笑を照らす。

 こうして白い薔薇の少女の孤独な戦いはひとまずの決着を迎えたのだった。

挿絵(By みてみん)

ここまで読んで下さってありがとうございます!これにて2章完結です。



魅甘が晴れてヒロインになりました(?)




以下お知らせです。


 プロットのストックが尽きました……ここまでハイペースで投稿してきたと自負しておりますが、3章の開始までしばしお時間をいただければと思います。申し訳ない。



 そのしばしの時間は何をするかというと、ここまでの文章の手直し、挿絵の追加、各章のあらすじの追加、3章のプロットを練る等々をしていきます。したがって3章開始までに間が空きますが、その間も何かしらの更新はありますので是非ご覧いただければと思います。



 更新があった場合は活動報告と、この話の前書き(ページ上部)にてお知らせしたいと思います。



 そして、3章の前に番外編を書きたいと思います。仮にも学園タグがついている作品……2章の舞台は5月でした。番外編は5月下旬から6月のお話です。この時期のイベントと言えば……ね





 最後に、繰り返しになりますがここまで読んで下さってありがとうございます。以降の展開がよりよいものになるようにご意見ご感想、ご要望、こんなキャラ、怪人はどうだ等々のご意見を頂けると非常にありがたいです。どうかよろしくお願いします:;(∩´﹏`∩);:


 とりあえず次回の更新は金曜日……

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