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正義の条件  作者: ありと@
第2章『白い薔薇の少女』
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49.夢見る少女の行く末は

ついに毎日投稿が途切れてしまいました…………研修…………

せめてもの言い訳→文章はいつもの倍です!

「お前は……」




 シュルームは振り返る。当然そこに立っていたのは白い薔薇の怪人だ。しかし、先ほどまでとは彼女の放つ気配が違っていたことはすぐに分かる。




「"胞子の軍勢(スポア・トゥループス)"」



 シュルームは先手をとって植物を強制支配する固有能力を使った。だがそれは魅甘が一瞬にして消えたことにより空ぶってしまう。



 認識できなる固有能力を使えばその間だけはシュルームもいかなる攻撃も与えることはできない。魅甘はその隙をついて瀬雅の傍まで移動してきたようだった。





「無事避難したできたみたいだな。」



「ん。完璧」


「そっか。」


 無表情のまま頷く魅甘。瀬雅は魅甘が住民を避難させに行ったことに気づいていたから1人でシュルームと相対していたのだ。



 瀬雅は集中する。4倍になった戦闘能力でさえシュルームには押される。魅甘が加わってもそれは同じかもしれない。



 魅甘はそんな瀬雅を見てか口を開いた。




「……セガ。」



「ん?」





「……お礼は後でいう。」




「おう。」




「今は、私を信じて。私はセガを護るから。」



「なら、俺はミカンを護る。」




「ん。」







 そのやりとりは何気ない会話のようにも、互いの信頼関係を改めて築こうとする挨拶にも見える。そして、その深い信頼関係の構築は、瀬雅の能力が更に一段階進化するのに必要な者であった。




「!」



 突然脈打つように瀬雅の魔力が跳ねる。




「う、ぉおおおおおおおおっ!!!!」



「セガ!?」




「だい、じょうぶだ。力が漲る!」




 瀬雅の体には温かい魔力が流れている。瀬雅の紅い魔力を、白い魔力が高めるような感覚。




「これは……そうか、"蹂躙の悪魔(バルバトス)"の能力は……」






――所有者の全ステータスを自軍(・・)の固有能力の合計数の二乗倍にする――




「私が加わったってこと?」



 頷く瀬雅。魅甘と瀬雅の間に信頼関係が生まれたことで、魅甘のもつ固有能力も蹂躙の悪魔にカウントされるようになったのだ。つまり瀬雅のステータスは4倍から固有能力3つの2乗――9倍にまで跳ね上がったことになる。





「まだ上がるのか……」




 それはこれまで敵わなかったシュルームが危機感を抱くのに十分なほどであった。




 瀬雅の魔力に充てられるだけで景色が赤一色に染まっていく。それは憤怒のようにも、情熱のようにも地獄のようにも見える光景であり、空間全体が悪魔に支配されたかのような圧力であった。



(ただ、消耗がやばいな)





 ノーリスクで出せる規模の能力ではない。魔力、体力が凄まじい勢いで消費されていくのが分かった。




「まず一発。」




 豪。



 瀬雅は地を蹴るとシュルームに肉薄した。風の音だけが伝うこれまでより静かな移動。しかしその速度はこれまでの比ではない。シュルームは突然眼前に現れた瀬雅の拳に反応しきれなかったのだから。




「グムッ!?」




 瀬雅の拳がシュルームの顔にめり込む。これまでとは比較にならない威力にシュルームは派手に吹き飛んでいった。



 確実なヒットの感触に瀬雅は思わず声を上げた。



「~~~~~~~~~~~っ気持ちいい!!!!」




 これまであまりの硬度で攻撃が通らずフラストレーションが溜まっていたようだ。とりあえず思い切り殴れてようやく戦えるだけの身体能力を身に付けたと実感した。




 ボッ――



「"|火炎打拳«カエンダケ》"!!」




 瓦礫が爆ぜてシュルームが飛び出してくる。その顔からは笑みは消え、代わりに瀬雅の拳の痕が残っていた。




 瀬雅は素早く魔力障壁を展開する。シュルームの火炎の拳は一瞬の抵抗のあと障壁を粉々にするが、すでにシュルームの背後に回り込んでいた瀬雅は最高の接近技である跳び後ろ回し蹴りでシュルームの背中を狙った。いつしかネズミの怪人相手に放ったその技は空気を切り裂くほどの威力となっている。



 しかし流石は植物族の長、左拳を振り抜いた勢いのまま半回転し、瀬雅の脚を火炎打拳で殴りつけることで相殺を狙った。




「~~~~ッ!!!」




 両者の違いから瀬雅の脚が当然勝り、シュルームは大きく身をのけぞらせる。先ほどと違い吹き飛ばないあたり相殺が効いていると言えるだろう。それどころか瀬雅の右足には確かに火炎打拳のダメージが入っていた。





「舐めんなッ!防御力も9倍だ!!」




 瀬雅は痛みを無視して仰け反ったシュルームのみぞおちを穿つ。




「ごはぁっ」



 体内の空気を絞り出すようにスクリューパンチはシュルームの体を今度こそ浮かせた。たまらず飛んだシュルームはすぐに両足をついて地面を抉るような跡を残しながら数メートル後退した。




「見事だ。」




 シュルームは再び笑みを浮かべる。嘲りではなく、マツボロスと同じような、戦いを好む者の顔。



「植物族ってのは名前に似合わず凶暴なのが多いな」



 瀬雅はシュルームを押しているにも関わらず、むしろ相手を昂らせているという感覚に頭痛を覚えた。



「いいだろう。お前のその桁外れなパワーとスピードに敬意を表して俺の武器を見せてやる。」



 シュルームは笑みを消す。瀬雅とて忘れた訳ではない。シュルームの腰にある禍々しい装飾の施された白い太刀。それを引き抜くということはいよいよ本気になったということだ。




毒蔓ノ剣(ドクツルタケ)――」




 それは美しい剣であった。




 白銀の刀身はどこまでも澄み渡り、シュレームの魔鋼の体をそのまま研磨したかのような鋭さを持っていた。



 だが対照的にその剣から溢れ出す死の香りは人生で見たどんな劇薬より強烈な毒の気配。




「触った瞬間終わるってか……」



 瀬雅の体にぶわっと汗が噴き出す。いくら防御力が上がっても毒に犯されればひとたまりも無い。




 ビュンと空を斬って構えるシュルーム。風圧でアスファルトが溶ける。余波を受けることさえ許されないようだった。




「行くぞ」




 短く告げたシュルームは思い切り踏み込んだ。右手に握られた毒の刀を瀬雅は大きく避ける。毒という未体験の攻撃に慎重にならざるを得ない。



「ふっ」



 避けた先には燃え盛る左拳が振るわれる。後隙を狙われる形になった瀬雅は上昇した筋力で強引にそれをキャンセルして飛びのく、怪人じみた動きだ。



 そこから激しい攻防が始まった。刀が振るわれ、避け、拳を避け、食らい、やり返し、離れて、撃ち合う。思えば武器を使う怪人との経験も乏しい瀬雅と攻撃のレパートリーを増やした以上の強さを見せるシュルーム。




 やはり触れたら終わりというのは厳しいものがある。が、それ以上にシュルーム本来の戦闘スタイルは右手で剣術を使い、その他で格闘技を用いるというものだったのだ。非常にやりづらく、地面はグジュグジュに変形し、腐食に耐えきれなくなったビルが倒壊し始める。




「うおおお!?」



「これも避けるか!ではこれはどうだ!」




 シュルームは楽しむように攻撃を続ける。その攻撃は永遠に続くかのように思われたがここで瀬雅に救いの手が入る。





「!?」



 突然シュルームの体が吹き飛ぶ。ダメージは少ないが確かに効いているそんな一撃が不意打ちとなり瀬雅とシュルームを遠ざけた。




「魔力球」




 更に追撃が決まる。離れたシュルームに吹雪のような魔力球の群れが襲い掛かる。圧倒的な弾幕がシュルームに襲い掛かり、周囲の建物や設置物が破壊されることも厭わない爆心地をつくりだす。この吹雪には見覚えがある。





「ミカン!」





「任せて」




 魅甘は短く答えると再び見えなくなる、固有能力を使い認識から外れたのだ。




「……どこまでもチンケな能力だ。」



「人のこと言える能力かよ!」



 忌々しげに起き上がるシュルームにとびかかる。毒蔓ノ剣に注意しながら凄まじい殴り合いに応じる。瀬雅は刀を避け、必要とあらば火炎打拳を受けることも躊躇しない。




 ただ殴り、殴られる。シンプルな戦いが南区に重火器の打ち合いのような音を鳴らし続ける。こうなると大きな回避動作を必要とする瀬雅は不利だが……





「食らえ――グッ!!!」




 シュルームが瀬雅の隙を突こうとすると魅甘が死角から的確にサポートする。前はヒットの瞬間を逆に狙われたが今は違う。ヒットの瞬間に反撃を許さないほどの威力で以て相手の反撃を潰せれば、安全且つ一方的に攻撃を押し付けられる。今シュルームが大きく姿勢を崩したように。




「そっくり返すぞ――悪魔の掌(ディアボロスハンド)



 瀬雅は拳に集中させた魔力をそのまま叩き込む。悪魔の体と9倍になった圧倒的な膂力がシュルームの体をくの字に曲がらせる。吹き飛ばない分衝撃すべてがシュルームの体の内部に吸い込まれた。




「がは!くそ!」




 悪態をつきながら再び毒の剣を振るうシュルーム、瀬雅は当然それを避け、火炎打拳が瀬雅を襲う。そのタイミングで再び透明になった魅甘の奇襲が――





「同じ手が通用すると思うなよ!"射阿雨毒ノ太刀(シャグマアミガサタケ)"」

「!?魔力壁、魔力壁、魔力壁!!!」





 五月雨のような剣戟が魅甘に襲い掛かる。魅甘は三重に展開した魔力障壁で辛くもそれを防ぎ後退する。



 ズザザザザザザザ、と地面を足の裏で掻きながら下がる時も魅甘は断続的に能力を発動しているのか、姿が現れたり消えたりしていた。それは点滅する光のようにも見えるし、小距離の瞬間移動にも見える。




(細かく能力を使うと消耗が激しくないのか?)



 瀬雅は疑問に思いながらも魅甘の不意打ちに対応したシュルームを睨む。何てやつだ




「俺の死角に攻撃を繰り出してくる。ならここぞというタイミングで自身の死角に攻撃を出しておけばいい。」





 置き攻めに毒の剣が使われればたまったものではない。




「おっらああああああ!」




 再び同じやり取りが繰り返される。瀬雅は上がったステータスで強引に殴り蹴り魔力を飛ばす。魅甘は点滅しながらシュルームの隙を取り、必要とあらば魔力の吹雪で追撃する。シュルームは剣、拳、胞子空間を駆使してそれに応じる。




 3人の戦いを例えば学園の教師が見た場合、とても割って入ろうとする次元ではないと判断されるだろう。



 怪人としては比較的小型である3人、だが周囲の高いビルを吹き飛ばしながら派手に地形を変えていくその戦いぶりは正に地獄絵図であり、遠くで終わった五十嵐とリュウゼツランの戦いより更に南区は荒れていった。







「うおおおおおおおお!!!!!!」

「やあ!はああっ!たあ!!!!」




「ぐあ、ぬうう……オオオオオオオ!」






 3人ともがゲリラ豪雨の中にいるような衝撃に耐えながら格闘戦に応じる。いつの間にか近距離攻撃のみの戦いになっていた。毒の剣をふらせないようにと瀬雅が超近距離戦を仕掛けたのだ。食らうことを前提とした激しい乱打戦。2体1で均衡していたそれは、あるときを境に崩れ始める。







「やああああああ!」





 1秒毎に、一度拳を振るうごとにどんどん魅甘のパワーが上がっているのだ。





「なんだ!?お前はなぜ強くなる!?」





 2人の爆撃のような攻めに同じ場所にとどまっていられなくなったシュルームは魅甘へ叫ぶ。消えそうな程弱っていた少女が悪魔と同じくらいの強力な攻撃をかましてくるのだ。




「おらぁ!!」

「せい!!!」


「ぐううあ!!!!!」




 瀬雅と魅甘の息の合った蹴りがシュルームを飛ばす。林立していたビルは見渡す限り瓦礫と変貌していた。






「ミカン、それ……」




 驚いたのは瀬雅も同様だ。まさか魅甘が格闘戦においてここまでやるなんて。立ち昇る白い魔力は爛々と輝いていて、強い存在感を放っていた。





「"夢見る少女の行く末(インビジブル)"――能力を使う度に存在の力が強くなっていく(・・・・・・・)






 魅甘は変質した己の能力を告げる。そのあまりの効果に瀬雅は一瞬ポカンとし、苦笑いした。要は透明になる能力を使用する度に魅甘は強くなっていくのだ。細かく能力を使用したり、現れていたりしたのは短時間で強くなるため――




「なんだそのチート」



「2つ能力持ってるセガに言われたくない。」



「まぁそうだな。……行けるか?」




「……うん。」





 言外にトドメは魅甘が付けろと言う瀬雅。そう、魅甘の復讐はまだ終わっていないのだ。








「くそがくそがくそが!!!!!」




 瓦礫からはい出たシュルームは刺突の構えを見せ、全魔力を開放させる、一撃で決めるつもりだ。銀の魔力が爆発的に飛び出し、ロケットのように凄まじい踏切で大砲より速く飛び出すシュルーム。



 体全体がまるで剣になったかのようなスピードで離れていた距離を真っ直ぐに一瞬で詰めてくる。







白い薔薇弓(ホープローズ・ボウ)――」






 魅甘は冷静に自身の武器を取り出す――美しい薔薇の装飾であった。





 大鎌の代わりに彼女の半生と、その覚悟を表現したような白弓が彼女の手に握られる。遠距離攻撃――彼女が最も得意とする間合い(レンジ)だ。




 本来の力を以て魅甘は最恐の植物族を屠る。




「セガ……あなたの魔力を貸して」





 魅甘が手を差し伸べる。




「全部使え。」




 瀬雅はその手を握る。互いに硬い肌、怪人としての初めての握手はとても無骨で暖かい。重なった手から瀬雅の魔力が渦巻いていく。9倍になったそれはもはや竜巻といっていいほどの魔力の奔流を見せた。






「全部、全部だ。俺の全部をやる。ミカンも全部でぶつかってくれ」



「……うん。」




 瀬雅の魔力はやがて魅甘の手の上で形を作っていく。



 それは一本の紅い矢。



 瀬雅のすべての魔力をつぎこんだそれは悪魔のような禍々しい意匠でありながら、ルビーのように澄んでいた。




 魔力切れを起こした瀬雅は人間の姿に戻りその場に座り込んでしまう。マツボロスとの闘いも経た瀬雅はもう動けそうにない。




 魅甘は受け取った紅い矢を白弓に番える。繊細な装飾が行き届いた弓と禍々しい矢のアンバランスさが異彩を放っていた。







「"天命穿つ紅蓮の薔薇(クリムゾン・アロー)"」







 瀬雅のすべてが詰まった矢を限界まで引き、魅甘のすべてを込めて放つ――




 真っ直ぐ飛び出した希望の矢は、1つの斬撃と化したシュルームと交わった。












ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン――――――――――――――――――――…………………………












「グヌ―――――――ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」




 目を開けていられないほどの爆発が発生する。それは魔力光のぶつかり合い。数キロ先まで飲み込む程の大爆撃、シュルームの太刀からも同様の大爆発が発生する。







 シュルームのすべてが詰まった剣との競り合い。その拮抗はしかし、意外にも一瞬だった。





 シュルームは独りだった。





 大軍を率いてもそれらを信頼していなかった。マツボロスのように自らを慕う者に応えてやらなかった。






 故に瀬雅と魅甘の絆に押される。





 そして何より、"全部"が詰まった攻撃同士のぶつかり合いなのだ。"全部"により己のすべてを託した者が勝つのは当然。10年前、シュルームという怪人に怪人にされ、家族を失い。呪いのような能力を発現し、独り生きてきた。そして瀬雅と出会い、強い心を手にしてこの場に立っている。




 魅甘の人生すべてと、それを支えることを決意した瀬雅の心がその攻撃には詰まっていた。












 シュルームはその身を紅白の魔力によって貫かれ、ついに動きを止めたのであった。

ついに決着!次話で2章完結となります。

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