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正義の条件  作者: ありと@
第2章『白い薔薇の少女』
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48.植物族の目的

遅くになってしまいごめんなさい:;(∩´﹏`∩);:




 深夜のビル街。暗いはずのその町は激しさを増す2人の魔力で鈍く輝いていた。紅の魔力を惜しみなく放つのは悪魔の怪人米村瀬雅。



 彼は魔力量や魔力親和性――魔力をどのくらい巧みに操ることができるか――においては並程度のものしか持ち合わせていない。魔力量は以前より増しているきがするが、そもそも怪人の姿を晒さなければ魔力を使うこと自体できない。




 しかしそのハンデの代わりに瀬雅は怪人の身体能力と、人前で魔力が使えないことから磨かざるを得なかった戦闘技術を得た。



 放たれた拳を避けて関節を決めにいったり、斬撃の通りが悪いとみるや接触の際は掌底を相手に押し付けたりと瀬雅の猛攻は止まらない。瀬雅の攻撃がシュルームに当たる度に鈍銀の魔力に覆われた鋼鉄の体は鉄板を殴りつけたような鐘を打つような音が響きわたる。




「ふん!」



「魔力球――魔力球――」



「!」



 ダメージは薄いものの、鈍い衝撃は体表の硬度ではしのぎ切れず、距離を取ろうと左腕を振るうシュルーム。左腕は鋼鉄の体とは別の生き物のように毒々しい橙色だ。


 瀬雅は火炎打拳の予備動作を見るとすかさず自らその場を離れ追撃に転ずるシュルームを魔力球で牽制した。




 卓越した戦闘技術、そしてマツボロス戦で盗んだ苦手とする中距離以上の牽制の仕方。魔力攻撃を主体とするのではなく、攻撃の合間に差し込むように放たれる魔力攻撃は瀬雅にアドバンテージをもたらす。




 しかし相手は植物族の長、牽制に放たれた魔力球に一発目はひるむものの、二発目を無視して反撃に転じてきた。




「――閉じろ」




 ブオオオオンン――……



 シュルームが手を翳すと、瀬雅の周囲を銀色の魔力が覆った。




「!――結界?いや、違うな」




 結界はもっと広範囲だ。瀬雅を覆う立方体の空間は一辺が6メートルほど、しかも発動主であるシュルームはその中にいない。結界は術者を中心に展開されるものであるから、これは瀬雅を閉じ込めるだけの技ということになる。




「人間風に言ったら"魔力檻"か?ククク」



 出来上がった空間をシュルームは満足げに眺める。銀色の壁は魔力故に半透明で、瀬雅は内側からシュルームが茸の笠の下で笑っているのを見ていた。



「この――ッ!」



 怪人化した拳で壁を殴りつけるが破壊するには至らない。防御術である魔力壁と原理は同じようだった。相手の攻撃を防ぐだけでなく、こんな使い方もあるんだな……瀬雅はそんな感想を抱いていた。




「言っただろう、技をみせてやると。遊べ――"胞子空間(スマッシュ・ルーム)"」




 シュルームが告げた瞬間、閉じ込められた空間の壁から5つの魔力球が生み出された。瀬雅の拳ほどの大きさであるその魔力球は瀬雅に打ち出される。




「おっと」



 瀬雅はそれを当然のように避けた、すると




 ガイイン――



「!?なっ」



 避けた先で魔力球が壁で跳弾し再び瀬雅に襲い掛かる。



「スカッシュかよっ!!」



 跳弾した5つの魔力球は複雑な軌道を描いて空間内を飛び回る。瀬雅の反射神経をもってしてもこれを見切るのは不可能に近かった。



「ぐっあ!」


 内の1つを受けた瞬間体がもぎ取られるかのような衝撃が走る。拳サイズにどれだけの魔力を圧縮しているのか計り知れない威力を秘めているようだ。しかも




「速く、なって!る!!」



 避けながら驚愕の表情を浮かべる瀬雅。緩み(・・)を持った魔力の外壁がトランポリンのように魔力球を跳ね返すことで跳弾する毎に速度が上がっていっているのだ。




「ククク、それは音速で打ち出される胞子に準えた俺の技だ。流石にそこまで速度はないが、時間の問題かもな。」




 ……本当にいやらしい性格をしてやがる。瀬雅は内心舌打ちしながら能力の開放を決意する。本来ならば奇襲に使う予定だったが、そうもいっていられないようだ。




「――"蹂躙の悪魔(バルバトス)"」




 途端に瀬雅の全能力が膨れ上がる。自軍が持っている固有能力の数の2乗まで能力を高める反則技。先ほどまでとは格が違う存在と化した瀬雅は拳に魔力を込めると飛来する4つの魔力球を自身を閉じ込める障壁ごと叩き割った。




――――ドゴオオオオオオオァアアアアアアア




「何ッ!?」




 流石に4倍ほどまで戦闘力を上げた瀬雅には驚いたのかシュルームに隙が生まれる。




「うおおおおおおおおおおおお!!!」



 瀬雅は勢いのままシュルームに突貫した。銅鑼を思い切り叩いたような音が鳴り響きシュルームが飛んでいく。



「ぐぅお!」

「いっつつ――ちょっとは応えただろ!」



 ビルにめり込んだシュルームは呻き声を上げる、一方で鋼鉄の体にぶち当たった瀬雅も骨がイカれたかのような鈍痛に襲われている。豆腐を地面に叩きつけるようなものだ。瀬雅の怪人の体が豆腐より頑丈でよかった。




「……確かに、マツボロスでは相手にならなかったかもしれないな。」




 だがシュルームは立ち上がる。その表情を喜びに震わせて――




―――――――――――――――――――――







――大和町南区を5人の集団が走っていた。性格には1人の怪人が4人の人間を連れて。




 少女は走る。"存在を削る力"を根拠に生まれた鎌は呪いと共に失われている。彼女は素手で障害となる植物族の怪人達をなぎ倒していく。




 後ろを歩く者達は彼女の背中を追って走るのみ、言葉はない。しかし彼らはしっかりと見ていた。



 その少女が美しい薔薇の怪人であること。



 その少女が自分達を安全な場所へ誘導してくれていること。




 その少女の体が時折消え、現れたときには周囲の怪人を蹴散らしていること。





 その少女が現れる度に白い魔力が輝きに満ち、彼女の力となっていること。





 すでにシュルームの戦いからは遠く離れ、時折襲ってくる植物族も全滅させている。非常時に住民が避難することになっている南区のシェルターの近くまでやってきたとき、少女――麦町魅甘は足を止めた。




「……ここまでくれば大丈夫。すぐに学園の人が来てくれる。」




 魅甘はシェルターまでは行くことができない。まだ怪人の姿のままであるし、為すべきことが残っているからだ。





「おねえちゃんは?」



 4人の住民の内1人、小さな男の子が不安げに聞いてくる。外見こそ怪人だが魅甘が危害を加えるどころか守ってくれたことは彼にも十分に伝わっていた。



「……私には――やることがあるの。」



 魅甘は柔らかい微笑みを浮かべながら告げる。それは美しく、強い顔だった。人の気配がした。恐らく物音を聞きつけたシェルターの見張りだろう。学園の生徒である彼らに任せておけば後は問題ない。魅甘は踵を返し、辿ってきた道を行こうとする。すると背中に声がかかった。





「まってください……もしかして、あなたも我々と同じ――人間なのでは?」






 尋ねたのは妙齢の女性。ここまでほとんど口を聞かなかった彼女だが、魅甘の事情を薄々知っていたようだった。彼女は思う。もし目の前の白い薔薇の少女も強制的に怪人にされたのだとしたら。自分達は操られたとはいえ少女を手にかけようとし、少女が手を上げれば恐怖の表情を浮かべて、悍ましいものを見る目で少女を見てしまった。


 結果自分達は助かり、助けた少女は戦火に戻ろうとしている。こんな悲しいことがあってたまるか。妙齢の女性は、魅甘が背を向けたまま何も言わないのを肯定と受け取ったのか、確認のためにもう一度聞いた。





「あなたは――人間なんですね?……」







 魅甘はゆっくりと振り返る――住民4人は思わず目を見開いてしまった。





 振り返った彼女は笑顔だったからだ。口元に笑みをたたえ、しかし眉は上がって瞳は凛々しく燃えている。薔薇の髪飾りで横にまとめられた艶のある黒髪が彼女の決意を示すようになびいていた。





「……私は人間じゃないです。」




「え――」



 驚く住民を前に魅甘は不敵な笑みを浮かべて言ってみせた。



「だって私は、ヒーロー(怪人)ですから。」



「あ……」





 答えには十分だった。彼女の瞳には正義が宿っていた。その引き締まった表情を最後に、彼女の姿は再び見えなくなる。



 シェルターの見張りをしていたヒーロー達が彼らを保護したのはすぐ後であった。





――――――――――――――――――――






「まじかよ……」




 再び舞台は怪物2人の戦いに戻る。



 苦笑いを零すしかないのは瀬雅であった。魅甘やマツボロスの話から推測していたシュルーム像は大きく間違っていた。そのことが瀬雅の傷だらけの体から窺えた。




(まさか、"蹂躙の悪魔(バルバトス)"使っても凌ぐのがやっとなんてな……)





 そう。固有能力(M・アビリティ)によって4倍にまで引き上げられたパワーを以てしても尚、鋼鉄茸シュルームは瀬雅を追い詰めていた。






「久方ぶりにいい戦いだ。俺はこういう戦いを求めていた。」




 シュルームは左拳を振るう。何の工夫もないただのパンチ、しかし赤熱した拳の軌道は業火となって瀬雅の接近を許さない。そしてただの挙動が膨大な魔力を通わせた肉体によって致命傷になり得るのだ。



 距離を置いて魔力攻撃を仕掛ければ"胞子空間(スマッシュルーム)"で余計に押し込まれる事実。唯一速度で上回る瀬雅は結局以前と変わらず速度と技術で捌きつつ反撃を狙う戦法になっていた。




「なぁ、さっきも聞いたがあんたの目的は一体なんだってんだ?」



「ふむ?」



 瀬雅の実力を認めたのだろうか、シュルームは今度は切り捨てず話に応じた。




「アンタはこんなに強い。なのに軍隊を集めて大和町を攻めさせる。その必要があったのか?」




 速い話、マツボロスとシュルームが居ればこの町の大半のヒーローは及ばないだろう。五十嵐の話によれば町外にも最低2体の上位種が居る。大軍がなくとも町の襲撃は成るはずなのだ。



 瀬雅の疑問にシュルームは目的を話すことにしたようだった。



「俺の目的は、"魔脈"を押さえ、全怪人を支配することだ。」





「なっ!?支配――……いや、"魔脈"だって?」




 シュルームの野望を知り驚愕する瀬雅だが、その前に聞き慣れない単語があったことに反応した。




「知らぬか。まぁいい、教えてやろう。この世界に魔力が満ちたのは約100年前、言い換えれば怪人の歴史は僅か100年ほどということになる。」




 瀬雅は無言で耳を傾ける。実際、幻と言われている龍なども100年の時しか生きていないのだから。




「しかしこの国では怪人は瞬く間に長い歴史を持つ人間領の半分以上を支配した。なぜここまで強力な勢力が突然現れた?」




「……それが、"魔脈"ってのと関係してるのか?」




 然り――シュルームは肯定する。



「現在残っている人間領は例外なくその"魔脈"のある土地だ。人間は怪人をこれ以上成長させないように魔脈を押さえているのだ。――魔力が湧き出るそのゲートをな。」




「!」




 大気中に魔力が満ちる――その発生源が魔脈。



「魔脈に陣取ってより強力な怪人軍団を作り出す――?」




「察しが良いな。部下に欲しいくらいだ。」




 シュルームは嗤うが瀬雅は冷や汗を垂らすのみ。




 実は大和町の内外では魔力濃度が違うことも、ヒーローが町外で実力を発揮しきれないことも以前からしられていたことだ。考えればすぐにわかる――そもそも大和町が魔力の発生源だったわけだ。




「だから怪人は現人間領を襲うのか――」




「そうだ、そしてヒーローは人間領を護る。」




 

 シュルームの行動になんとなく納得がいった。要は、完全に大和町から人間をたたき出した上で魔脈を獲らないと意味がないのだ。




「追い出した人間達はどうするつもりだ?」




 瀬雅は聴く。シュルームは怪人を統べることを目的としている。ならば魔脈とやらを押さえることができれば人間は眼中にないのではないか。シュルームの答えは――









「お前自身がよく知っているだろう。」







――いやらしい嗤いだった。









「やっぱアンタはここで倒れてもらう。」







 瀬雅は目つきを鋭くして対面するシュルームをにらむ。シュルームの答えはつまり、瀬雅や魅甘のような怪人を量産していくということ。魅甘が背負ってきた悲しみを他の誰にもさせるわけにはいかない。






「さっきまでと何が違う?お前1人で俺には勝てんぞ。」






 シュルームは言うが、瀬雅は構わずに魔力を全開にした。紅い魔力が稲光のように輝き周囲を揺らす。






俺一人じゃ(・・・・・)ね。」





 瀬雅の視線はいつの間にかシュルームの更に後方に向けられていた。








「……あなたの思い通りにはさせない!」






 いつの間にか戻ってきて、シュルームの目的を聞いていた白い薔薇の少女へと。

ここまで読んで下さってありがとうございます!


明日も夜になってしまいます……。年内の研修はそれで最後なのでなんとか!



果たして次話で決着はつくのか?(白目)

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