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正義の条件  作者: ありと@
第2章『白い薔薇の少女』
71/85

45.人間領拡大作戦――麦町魅甘vsシュルーム③(終)

昨日の日間ローファンタジーランキングでなんと68位を獲得することができました!!すごい!!


 これも評価&ブクマしてくださった方、いつも読んで下さる方々のおかげです、本当にありがとうございます( ;∀;)これからもよろしくお願い致します。





――大和町南区




 シュルームが自らの能力"胞子の軍勢"で植物族をコントロールして生み出したスペースで孤独な復讐は幕を閉じようとしていた。




 もし絶望に色があるのなら、この空間は今どれだけどす黒く映るのだろうか。

 家族を失い、自らは憎むべき植物族の姿にされ、呪いの力で周囲に忘れられていき、初めてできた居場所を守るため1人復讐を決意するも強大すぎる敵の力に及ばず。せめて巻き込まないようにとガザミを倒し続けても自分と同じように植物族となってしまった住民と相対する。



 魅甘は涙を堪えられなかった。寂しくても辛くてもいい。己を復讐の死神と化し、誰かを人知れず護って消えて行く。それでよかったのに



――全部、無駄だったなんて





「やれ。」



 無慈悲な号令と共に操られた植物族となってしまった元住民達は魅甘に襲いかかる。


 魅甘は全てを投げ出してしまいたかった。このまま静かに消えてしまいたいとさえ思った。




「たす、けて」

「ぐす。なんで私がこんな目に……」

「いやだ!いやだあああああああっ!!!」





 そんな魅甘の意識を呼び戻したのは怪人となってしまった彼らの悲痛な叫びであった。体中に葉が生えてしまった男。肌が木の皮のようにガサガサになってしまった女。泣きわめくことしかできない子ども。



 諦めるのはまだ早い、まだ自分ができることは残っている――魅甘は鎌を握ると消した。

 固有能力"消えゆく少女の成れの果て"の存在を削る力(・・・・・・)の副産物である魂を刈る鎌は精神を破壊してしまう。


 これを使う訳には行かない。徒手空拳と魔力攻撃のみで気絶させるしかない。流石に意識がなければシュルームの能力を聞き入れることも不可能だからだ。そして願わくば彼らが気絶している間に誰かがシュルームを倒してくれれば……


 既に自分が勝てるというビジョンはない。できることはせいぜい願うことだけだ。彼らが日常に戻れますように――





 魅甘は住民達の攻撃を避け続ける。振るわれる拳をくぐり、飛んでくる木の葉を避け、がむしゃらな突進をいなす。怪人の力を得たからといっても操られた素人と、死に物狂いで怪人の力のコントロールを習得し、ヒーロー候補生としても訓練を受けている魅甘とでは基礎が違いすぎる。魅甘が弱っているからとはいえ、他方向からの攻撃に反応することはなんとかできた。



「ごめんなさい。眠って……!」


 攻撃の合間を縫うように意識を刈り取れる最低限の力を込めて反撃しようとする。が、



「っひ!?お願い、殺さないで……」

「あ……」


 女は恐怖に染まった声をあげる。無理もない、戦ったこともない人間が怪人に拳を向けられているのだ。

彼らはミカンと同じ絶望を味わっている。


 しかし、彼らにとってはミカンはただの怪人にしか映っていないのだ。その現実を突きつけられたミカンは拳を下すのであった。




「んっ!ぐううッ」



 されるがままに殴られ蹴られる魅甘。操られた素人とて直撃をもらえば痛い。シュルームとの戦いで既に傷ついた体はすぐに限界を迎え、立つことすらできなくなる。




(……ここまで……か)




 意外なほど冷静に自らの限界を受け入れる魅甘。後悔と無念と虚しさと・・・・・・負の感情だけが粘つくように心を埋める。




(こんな時、彼ならどうしたんだろう……)





 自らの死を予感したときにそんな考えが浮かんだのはなぜだろうか。





『諦めるな!!ルミ・ティイケリ!!』





 たったひと月前に目にした奇跡。呪いによって暴力の化身と化した怪人ルミ・ティイケリを救って見せた正義の紅い悪魔の姿。




――自分のことも彼は救ってくれるかもしれない。




 瀬雅の能力の眼にした時、なによりもまずそんな考えが浮かんだ。希望に満ちた心はすぐに自分自身の心の声に打ち消されたのだ。




――自分のことばかりだな。麦町魅甘。




 体が震えてしまった。絶望を味わって、復讐を誓って生きてきた。しかし瀬雅やルミのように同じ境遇の者も居るということを知った。





 黒い魔力の暴走に蝕まれながらも自らと仲間の誇りを支えに10年間耐え続けたルミ。


 悍ましい悪魔の姿になっても尚、周囲の存在に、時には怪人にさえ幸福になって欲しいと願う瀬雅。





 魅甘は自分が猥小な存在に思えて仕方なかった。同じ境遇でありながらも自分は浅ましい。そんな考えが常につきまとい、プラッディ戦での悲劇が起こった。自分の本性を隠したが為に瀬雅は傷ついてしまった。




 今全部を投げ出したら傷ついた瀬雅はどうなってしまうのか。







 考えたくもなかった。





「私も……あんな風に。」




 思ったのはそんな願い。今、目の前に昔の自分がいる。彼らも平穏な生活から急に怪人にされて絶望のどん底にいる。そんな彼らの前で自分が瀬雅のように希望を与えられる存在であれたなら……


 それは小さな夢。たった今生まれたヒーローとしての目標。けれども確かな"勇気の証"





「……ん。」




 痛む体を強引に魔力で強化して立ち上がる。不思議な感覚だった、限界を迎えて尚、体に力が漲ってくる。




「ほう、この状況で"称号"を得たのか。」




 遠くで戦い(リンチ)をみていたシュルームが関心したように言った。称号とは世界が贈る賞賛――存在の格付けに他ならない。



 称号を得るということは存在の器を成長させるということ。つまりその生物の魔力量を引き上げることを意味する。





「まだ……私は戦える。」




 消えゆくだけだった白い薔薇の怪人は、人々の希望になることを夢見る白い薔薇の少女になったのだ。確かに漲る力を瞳にも宿し、怪人化してしまった住民たちに向かい合う。




「信じて。私があなた達を護るから……」



「キミは――」

「もしかしてアナタも私と同じ、なの?」

「助けて……」





 魅甘の強い意志は怪人化した住民達の目にも希望を与える。自分達はまだ助かるんだ――――









「いいや、お前は何も護れない。"胞子の軍勢"」









「あ――」







 失念していた。








「しまっ…………」










 "存在の力が上がる"というのが何を意味しているのか。






「結局お前は詰んでいたってことだな。」



 楽し気に言うシュルーム、植物族である魅甘がシュルームの植物族強制支配から逃れていたのは自らの存在を薄めていたからに他ならない。自らの存在が強くなった今、彼女はあっさりとシュルームの固有能力に捕らわれてしまったのだ。




「そん、な……」




 結局夢は夢。何にもできないまま、だれも救えないまま終わるんだ。





「お前は危険だ。惜しいがここで死んでもらうぞ、自分で命を絶て(・・・・・・・)





 あまりにも惨い命令。魅甘の家族をそうしたように、あくまでも自分の手を使わずに、あくまでも魅甘を絶望させつづけるのだ。魅甘の手はシュルームの命令のままに鎌を出現させる。



 そして跪いてその鋭い刃を白く細い喉に這わせる。



 魅甘は自分にゆっくりと向かってくる鎌から目を逸らす。怪人化した住民たちが呆然とこちらを見ていた。





「……ごめんね」





 一体何に対しての謝罪だったのか。彼らだろうか、自分の家族だろうか、それとも――











「謝ることはないんだけどな。」




 懐かしいような声がした。


 それは自分に勇気と希望を与えてくれるヒーローの声。



 顔を前に向けると、白い無骨な大鎌に優しく手が添えられていた。





 明らかに人間のものではない赤く鋭い爪。それでもその手は魅甘を諭すように優しく置かれていた。




「あ、……ああ……」




 魅甘の眼に何度目かの涙が浮かんだ。その手を付け根にむけてなぞるように目線を上げていく、赤い皮膚に覆われた腕、紅の翼。鋭い牙、尖った耳。雄々しい二本の角――





――そして優しい赤い瞳。






「頑張ったな。」




 微笑む悪魔に魅甘の心臓が跳ねたような気がした。





「セガ……」

研修から帰ってきたらものすごい熱と頭痛で、今にも倒れそうです苦笑


それでもランキングのことや、ブクマが増えていることへの喜びでなんとか毎日更新を絶やさずに済みました。皆さまに支えられて活動できるんだなぁと改めて実感した次第です。ありがとうございます( ;∀;)



ついに瀬雅と魅甘が合流。2章最終決戦へ。

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