44.人間領拡大作戦――ヒーローvs2万の植物族②(終)
長くなっちゃうよお……!
――大和町北区天野学園内
大和町内では混沌とした激戦が続いていた。何せ植物族の大軍は2万、それに対し町内のヒーローは数百人。それも学園の生徒や卒業後ヒーローとして活動している者が殆どである。ハッキリ言ってしまえば戦力が足りていない。
学園の3年生以上であれば実践経験もあり実力は保障されているが、何せ町を覆い尽くさんとする統率された怪人の群れだ。複数の上位種が入り乱れた戦争と比較しても数だけでいうならば劣っていない未曽有の危機、そんな状況下でヒーロー達が勝利するには強力な固有能力を持つ"6人の例外"、戦争を生き残ったヒーロー――現在の学園教師達、そして3大ヒーローの五十嵐と黒崎。彼らの存在が不可欠だろう。
しかし彼らの参加はかなり厳しい状態にある。
"6人の例外"の内4人が町外で人間領拡大作戦に参加し交戦中。鏡の行方は不明だが無事は確認しているとのこと。五十嵐や学園教師の大半も同様に進撃中。そして肝心な黒崎はどこにいるのかすら分からない。
「酷い有様ですわね……」
そんな大和町内で唯一怪人が入り込んでいない地区があった。そう、天野学園である。
天野学園には現在、黙視できる程の濃密な結界が展開されていた。白金に輝くその結界は何人たりとも侵入を許さない。
今もまた結界にはへばりつくように植物族の大軍が押し寄せていた。学園周辺だけで五千はいよう大軍が叩いても魔力で攻撃してもビクともしない結界を張った本人は、校舎の中、3年生の教室の窓からその光景を眺めていた。
「町の結界が抜かれたのは心外ですけど、この学園にはガザミ一匹通しませんわ。」
窓に手を添えた少女は1人呟く。白金に輝く髪を上品に結わいた姿は美しく。身に纏う制服姿ですら気品を感じさせた。彼女こそが"6人の例外"でただ一人町内に残っている天野学園主席その人なのである。
彼女の能力はずば抜けていた。『主席』ということはもちろん最広範囲殲滅能力の紫炎を操る第三席よりも、重力を支配する次席よりも彼女は強いのだ。
そんな彼女がどうして校内にとどまっているのか。それは彼女の能力の性質にあった。
「わたくしが出られればいいのですが……ここを――"魔脈"を離れるわけには行けないし……」
範囲内を外界と隔絶する結界を展開する防御能力――主席はこの能力を大和町の守護に当てているのだ。
大和町には常に彼女の展開するドーム状の結界が張ってある。怪人領に囲まれた大和町が、高い外壁等を作らずに栄えられているのは彼女の能力によるものだと言っていい。
しかしそのドームがどうしてか抜かれてしまい、ルミをはじめとする獣族や、植物族の大軍の侵入を許してしまっていた。ルミ達は転移結晶というレアアイテムを使った為だが、今回はよく分からない。転移結晶のほとんどは人間領側が確保している。2万の大軍が結界内に出てくるほどの転移結晶を用意することなど不可能。
兎に角、彼女は万が一の為にドームに加えて"学園"という範囲に絞って更に高密度な結界を張っているのだ。厳密には更に3段階結界を同時展開している他、魔力壁と同じ要領で自在のサイズ、数の結界を出すこともできる。
大和町の4分の1を占める学園の土地に張られた結界は怪人の侵入を許さない。というよりは物理的、魔力的な干渉を受けない能力なのだ。
故に彼女は負けない。故に彼女は学園首席。能力のすさまじさでいえば黒崎の空間支配能力にすら届くであろう強大さなのだ。――最も黒崎の能力はこの結界すら飛び越えられるのだが――
彼女が結界を張っている限り学園の安全は保障されている。しかし同時に彼女は学園内から動くことができないのである。
「おねがい。誰か町を護って――わたくしは学園を護る!」
主席の願いは誰にも届かない。この教室には彼女しかいない――はずだった。
「あまり無理はするなよ。」
「!――外東先生……」
背後からの声に主席が振り向くと、長身の男が立っていた。痩せた長身の教師はこんな時だというのに白衣に身を包んでいる。
「"魔脈"を護るのは私の仕事でもある。全部1人で抱え込まなくてもいい。」
諭すように気遣う外東と呼ばれた教師。その顔にはしかし表情がない。
「分かっています。わたくしはただ、この力が一番役立つ場所にいるだけですから。」
主席は再び窓の外に眼を向ける。背後の気配はため息の後遠のいていった。
――――――――――――――――――――
――大和町東区
所変わって東区。駅前商店街を中心として様々な店が立ち並ぶ賑やかなこの地区はあいも変わらず賑やかであった。
ただし賑やかしているのは人間ではなく植物族の大軍だが。
「せやぁああああああ!!」
誰かの声と爆音が響き怪人が吹き飛んでいく。東区には町内に残っていた学園の教師達が若干名だが合流していた。指揮能力のある実力者がいることで膨大な数の怪人と拮抗状態を築いていた。
個々の力は実戦が初めてである2年生でも対応可能なレベルな為、落ち着いて攻撃をしていけば怪人はみるみるその数を減らしていく。いくら大量とはいえ無限ではない以上いつかは鎮圧できる。
しかし、ヒーロー側の魔力とて有限。一切無駄撃ちは許されない。学園教師の的確な指示に加え綿密な魔力配分をしなければいけない。それは初めて大規模な集団戦に挑む多くの生徒たちに要求するには酷であった。
「ちっくしょう、いくらなんでも多すぎだろっ!!」
青髪の少年、金堂鐸は怪人の海に飲まれそうになりながらもなんとか無事でいた。悪態をつきながらも迫り来るガザミを蹴飛ばす。瀬雅と行ったビル内での訓練は身動きが取りにくいこの状況で意外にも役立っている。
魔力総量がCクラスの水準から見ても低い鐸は、ハンデをペース配分で補う。常に残量を確認しつつ、今そうしたように時には単純な体術のみで距離をとって自然回復を待ったりもした。
だが彼がこの怪人の海の中で無事でいられるのは背中を預けた彼女の存在が最も大きいだろう。
「あちょーー!!!」
魔力を掌に宿し、拳法で怪人を吹き飛ばしていく。彼女の流麗かつ豪快な動きにあわせてふわふわのツインテールが激しく揺れ動く。それは3年生と比べても遜色のない戦いっぷりだった。
「すげぇな坂月さんは……」
自分がチマチマと戦っている一方で自由に暴れ回る結の姿に思わず苦笑いが溢れる鐸。2-Aでもトップクラスの実力を持つ坂月結がいることを頼もしく思うと同時に少しだけ羨ましくも思った。
「うわ!?」
女々しい考えに囚われているといつの間にかガザミやホオズキの怪人が肉薄していた。
「鐸くん!?」
結はいち早くそれに気づいて目を閉じる。彼女が集中した途端に鐸の周囲の怪人が遅くなる。
「助かった!」
鐸は明らかに弱った植物族を押しのけて包囲から抜ける。結の持つ敵を弱体化させる能力は単純だが強力だ。集中する必要がある点、未だ固有能力として発現しているわけでは無いようだが……
窮地を脱した鐸だったが、包囲網を抜けるように動いたことで結との距離が空いてしまった。怪人の大軍はすかさず隙間を埋めるように雪崩れ込み2人を分断してしまった。
「ヤバ……」
鐸は焦る。互いの背中を預けた状態だからこそなんとかなっていたのだ、分断させられて数に物を言わせた各個撃破を狙ってこられたらひとたまりも無い。
そしてシュルームによって統一させられた大軍は、正に鐸が想定した通りに最悪の陣形をとって攻めて来るのである。
動揺している暇はない。鐸の周囲からホオズキの怪人が飛びかかってくる。鐸は対処しようと最小限の魔力球を生み出して迎撃した。
が、冷静で無い時には想定外の事態が付き纏うものである。ホオズキの怪人は鐸の魔力攻撃を喰らうと共に爆発したのだ。
「!?!!?うぎゃっ!?」
予期していなかった衝撃に思わず尻餅をついてしまう。平時であれば想定外の事態が起きたとしても対応できる余裕を持って動くべきである。
「ぐああああああ!」
鐸はそのままスギの怪人の枝に薙ぎ払われて更に孤立する。そうだ、この戦いには最初から余裕なんてなかったのだ。いくら個々の力が勝っていても圧倒的な数の前には無意味。
鐸は数十のスギの怪人がその巨体を叩きつけようと迫っている様子を見て、己の無力を知る。
(姉ちゃん…………)
自分がもっと強ければ、こいつらを蹴散らして姉の安否を確認できたかもしれない。
それ以前に、自分が強ければ戦争で両親を失うこともなかったかもしれない。
「俺が弱いから、か。」
呟いたその言葉に悔しさが溢れた。だが同時に納得したような気分にもなれた気がして、死を受け入れようと、鐸はゆっくり目を閉じたのだった。
――――――――――――――――――――
――少女は疾る。僅かに回復した魔力を躊躇わずに脚力の強化に回し、人間にはおおよそ出すことのできないピッチとストライドで大和町を駆ける。
植物の形を模した雑魚がまとわりつくように立ちふさがるが、それらのすべてを1太刀のもとに斬りすてる。それは彼女本来の鋭く速い太刀筋とはかけ離れた強引な剣。
「邪魔よ。」
先ほど助けた2年生に聞いた情報を頼りに最短距離を真っ直ぐ進む。時間はない、消耗を気にしている余裕はない。
彼女は失う訳にはいかない。たった一人の肉親を失わない為だけに疾走する。助けたい、それだけを胸に――
そして、町中を埋め尽くす怪人の中によく目立つ青髪を見つけた時、彼女のリミッターは外れる。
魔力切れになることも構わずに、全力で固有能力を発動する。天野学園第五席に数えられる尋常ならざる能力を――
「氷地獄!!!」
瞬間、視界に入るすべての怪人が動きを止めた。
―――――――――――――――――――
鐸は突然感じた寒気に震えて跳び起きる
「こ、これって……」
一面はスケートリンクのような氷に染まっていた。
建物すら巨大な氷塊と見紛うような極寒。もちろん今は冬ではない。鐸が周囲を見渡すと、すべての怪人が氷人形と化してしまったことに、ヒーロー候補生やヒーロー達は呆然としている。
しかし鐸はこの能力を知っていた。戸惑いが徐々に喜色に変わっていく。
「鐸、無事?」
「姉ちゃん……!」
全力で能力を使ったためかフラフラとした足取りで近寄ってくる鏡に鐸は駆け寄る。鏡が行方不明になったと聞いてから鐸は不安定だった。無事そうな姉を見て安心しきった鐸とリュウゼツランとの闘いから大和町まで駆け戻ってきた鏡は同時に膝から崩れ落ちた。
「は、ははは……」
「ふふっ」
どちらからか分からないがそんな笑いが零れた。あれほど喧噪につつまれていた東区は凍土の静寂に包まれてしまった。しばらくすると現実に戻ったヒーロー達が喜びの声を上げ始めた。
一面の怪人の海は金堂鏡の固有能力"絶対零度"によって半数以上が一気に鎮圧された。威力の点では式乃の紫炎に劣るが、恐るべきは"味方を巻き込まない"という打ち分け能力である。
危ないところを姉に救われた鐸は冷静さを取り戻したことによって自分の弱さ、不甲斐なさに俯く。そんな弟の様子を見た鏡は諭すようにいった。
「鐸、私は3年間で自分のステータスをほぼ極めたつもりよ。」
顔を上げる鐸。実際、固有能力のコントロール、身体能力共に姉はとてつもない。それに比べて自分は……
「でも鐸、あなたにはまだ1年残っている。」
姉の言葉は厳しく、優しい。鐸は気づいた、腐っている場合じゃない。
「俺……強くなるよ……。」
拳を握りしめる鐸、一面の凍土の中にいる2人の青髪はとても絵になっていた。
こうして、鏡の登場をきっかけに、東区の形成は逆転していったのであった。
ここまで読んで下さってありがとうございます!
明日は研修なので夜中の更新になるかもです:;(∩´﹏`∩);:
いよいよvsシュルーム




