43.人間領拡大作戦――米村瀬雅vsマツボロス④(終)
長くなってしまいました!
「がっは!!!」
肺の中の空気が全部出されてしまうかのような感覚と共に瀬雅は吹き飛んだ。マツボロスの能力に気を取られすぎて、マツボロス本体からの攻撃をモロに受けてしまったのだ。
「"Pine squall"」
更に、距離が空いたことでマツボックリの爆弾が降り注ぐ。空中で踏ん張りようがない瀬雅はその嵐のような爆発に捕らわれてしまった。
「うがっぎッ!!」
苦悶の表情を浮かべる瀬雅、だがしかし転んだらタダで起き上がるわけにはいかない。歯を食いしばると落ちてくるマツカサを受け止める。着弾時に爆発することが分かっているのなら、着弾したと認識されないほど繊細に、包み込むように受け流してやればよい。瀬雅は複数のマツカサが爆発する前にタックルで姿勢が崩れているマツボロスに投げ返してやった。
もともと得意としていたカウンター。鐸と行ったビル内での訓練を反省し、力加減というものを更に細かくできるようになった瀬雅は、ついに魔力攻撃にさえカウンターをこなし始めたのだ。
「ぐぉ!?」
まさか自身の攻撃が向きを変えて飛んでくるとは思わなかったのか、被弾したマツボロスは声を上げる。だが、瀬雅の目はそんなマツボロスではなく、魔力の流れを感じることに集中していた。
僅か一瞬だが、マツボロスの胸部に爆風が当たったとき、彼の魔力制御が乱れたのだ。マツボロスの胸部の装甲の奥、鈍く輝く球体。瀬雅はあそこが魔力を循環させている部位なのだろうとアタリをつけた。
そんな様子を見たマツボロスは「バレちゃあしかたねぇ」といいつつも自身の胸に手を当てた。
「お前が想像した通りだ。俺の固有能力"自律魔力制御"の核はここにある。」
「アンフィニ……」
肉体の一部に創り出した核に魔力の制御を委ねることで、本来霧散するはずの魔力をも循環させる。更に、魔力操作を核自身のキャパシティは純粋に戦闘に回すことができる。
その力は正に無限に戦い続けるバトルマシーンを連想させた。しかしそれは同時に、魔力制御をしている核がそのまま弱点となるということだ。そこを破壊されれば魔力の制御ができなくなり、たちまち行動不能に陥る。
「自分の弱点を晒すなんて余裕だな。」
瀬雅は問いかける。マツボロスが自分から胸部に核があると晒すメリットはない。しかしマツボロスは不敵に笑った。
「余裕!?違うぜ。俺はな、気持ちのいい勝負がしてえんだ。こざかしい策とか、奇襲とかそんなんやってもやられても全然滾らねぇ!」
爛々と戦意に満ち溢れた単眼に何も返す言葉がなくなってしまう。瀬雅も真っ直ぐ、ただ真っ直ぐぶつかってくるマツボロスの戦いの在り方には敬意を覚えてしまってすらいた。
「アンタとの闘いは楽しみたかったよ。」
そう言って構え直す瀬雅。確かにマツボロスの戦い方は気持ちのいい戦いだ。次にどんな技がでてくるのか、どこまで真っ直ぐ戦い続けるのか気になる。しかし、瀬雅はこの戦闘で終わってはいけない。
「麦町……」
今まさにどこかで消えかかっている仲間の為に。瀬雅は立ちふさがるものの一切を悪魔の姿で退けると決めたのだ。
「……いいなぁその眼。俺と同じ、前だけを見てる奴の眼だ。」
そんな瀬雅を見たマツボロスも楽し気に構える。2人の戦いはまだ始まったばかりだった。
―――――――――――――――――
――――――――――――――
「はあああああ!」
「うおおおおりゃあああ!」
双方激しい攻防が続く。マツボロスは胸部の核を燃料無限のジェットエンジンとし、爆発的な推進力に変える。近距離戦は激しい突撃で、遠距離は降り注ぐマツカサによって制圧していく。暴力の化身という言葉が似合う彼の戦闘スタイルは周囲の建物を壊して毀して。ここが娯楽施設立ち並ぶ西区だと気づけないほどに葉かいの限りを尽くした。
瀬雅はそんな嵐のようなマツボロスの攻撃を凌ぎ、躱し、ときには押し返す。正面衝突では分が悪いが、攻撃前後の隙を絶妙についた全力の攻撃はマツボロスを吹き飛ばすにまで至っている。
「ハハハハハハッハ!!楽しいなぁ!!これぞ戦い!これぞ"生"!!」
愉快そうに腕を薙ぎ払うマツボロス。
「ハァ…お前のッ生は、はぁッ、戦いだけなのかっつーの!」
死にもの狂いで返す瀬雅。相手の動きを見切った動きが要求される瀬雅の戦い方は尋常ではない集中力を必要とする。そして、以前より膂力が上がっているのを実感しつつ、吹き飛ばせるといっても明確な決定打になるわけではない。
ゴツゴツとした鎧は相当に硬く、魔力の通った四肢での攻撃ですらかけることすらない。ここにきて尚パワー不足だった。
純粋な破壊力。それこそ目の前のマツボロスのようにブーストをかけられたら。そんな悩みは戦闘中にしていいはずもなく。
「せやぁあああ!!」
「ぐはッ」
躱し損ねたマツボロスの突進が瀬雅にぶち当たる。衝撃を受け流す暇もなく、目まぐるしく変わる景色のなか飛ばされて壁を何枚か破ったあとに建物の外壁に体をめり込ませてなんとか静止した。
「うが……い、ってえ」
ただの体当たりでこの威力だ。否、純粋に速度と威力を追求したからこそこの威力なのだろう。瀬雅は立ち上がろうにも力が上手く入らず、追撃を警戒することしかできない。だが、距離を空けると必ず襲って来ていたマツカサ爆弾が降ってこない。代わりに飛んできたのは呆れたようなマツボロスの声だった。
「ったく。舐めやがって!隠してんじゃねぇ!!お前も持ってんだろ?固有能力をよ!」
瀬雅は唇を噛む。確かに瀬雅は固有能力を持っている。だが"正義の悪魔"はあらゆる呪いを解く力、直接戦闘に使用できる能力ではないのだ。
「いや、それ以前に」
瀬雅は薄ら気づいていた。恐らくこの能力は与えられたもの。瀬雅自身の能力ではないということ。どちらにせよ、この状況をひっくり返せる手段を瀬雅は持ち合わせていないのだ。
壁にもたれたまま腐る瀬雅。歩み寄ってきたマツボロスは、そんな瀬雅に舌打ちをし、怪人らしい実に嫌な笑みを作った。
「どのみち俺に勝てないお前じゃぁシュルーム様に勝てる訳もない。何か目的があるみたいだが、ここで負けてお前は終わりだ。何も救えやしない。」
「……なん、だと?」
あからさまな挑発だったが、瀬雅にとっては効果覿面であった。ここで勝たなければ後はない。今度の今度こそ魅甘は人知れず消えていくだろう。
瀬雅は思う。強く思う。忘れてしまわぬように。
黒い髪、光があまりささない瞳、白い肌、花びらのような唇。
強い魔力、瀬雅の為に上位種相手に大立ち回りをした胆力、時折見せた優しい笑顔。
1人戦うことを決意した強く悲しい心、理不尽にまみれた生き様、望まぬ怪人の姿。死神の鎌
――美しい薔薇の花。白い薔薇の少女――麦町魅甘。
「……自分に誓ったんだ。あと一度だけ、魅甘を救えるチャンスがあるのなら。」
力が足りない?ひねり出せ
「もう一度だけ、笑ったアイツの顔が見られるのなら。」
避けきれない?跳ね飛ばせ
「俺は、悪魔にだってなってやる。」
打開できる能力がない?
――――――もう一つ覚醒しろ
「|"蹂躙の悪魔«バルバトス》"!!!!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「な、これは!?」
瀬雅の周囲を渦巻く赤い魔力が途端に膨れ上がる。大地を震撼させるその呻りは先ほどまで背中を預けていた建物を粉々にしてしまった。あまりの魔力の急上昇にマツボロスは驚く。
能力の発言――世界と本人のみが実感する覚醒の予感。瀬雅はここにきて目覚めた能力の使い方を本能で知る。それは瀬雅が最も望んでいた力。
「4倍か。」
己の魔力を探りつつ呟く瀬雅。マツボロスは能力を開放した瀬雅の変貌ぶりに牽制の意味を込めてマツカサの嵐をぶつけた。
「流石に聞いてねえぞ!完全にステータス上昇に特化した能力……食らえ!!」
瀬雅は迫り来る爆弾を見上げる。先ほどまで対処に困っていた攻撃だ。
「見える……!」
次の瞬間、瀬雅の四肢は見えなくなった。
「!?グオああああああああッ!?!!!?」
やっているのはさっきと同じ。爆発する前に敵に投げ返す。だが今度は瀬雅に直撃しそうな数個なんてものではない。
飛来する全ての爆弾を受け流してマツボロスにぶつけたのだ。
自慢の装甲も、地形を変えるほどの爆発には流石に耐えきれないのか、ひび割れて行く。そして瀬雅は膨大な魔力を拳に集める。
「ありがとな。アンタのおかげで少し強くなったみたいだ。お礼といっちゃあなんだが、まっすぐぶつかってやる……!」
「っは!調子にのるな!突進は俺の十八番だ。」
マツボロスは煙を立ち昇らせながら構える。圧倒的な力の奔流を前に、それでも躊躇わずにこれまでで最高のタックルをぶつけていく。マツボロスの頭には既にそれしかない。
そんな2人が地を蹴ったのは全く同時であった。
「はあああああああああああああああああ!!!」
「うおおおおおおおおおおおお!!!!」
周囲に人がいたならば、踏切りの際の地面の破壊音だけで竦んでしまうであろう互いの攻撃。接触するのは一瞬。音すら遅れてやってくるその衝突に敗れたのは――
「……ったくなぁにが"ちょっと強くなった"……」
――胸を貫かれ、全身から魔力を吹き出しながら崩れ落ちるマツボロスだった。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァ……」
あまりの消耗に思わず膝に手をつく瀬雅。だが土壇場になって発現した新たな能力"蹂躙の悪魔"は確かに消耗に見合う絶大な破壊力を発揮した。
「……お前の能力、そりゃあ一体なんだ。」
魔力の制御を失い行動不能に陥ったマツボロスは悔し気に聞いてくる。敗北したというのにまるで試合に負けた青年のように純粋な悔しがり方であった。瀬雅はやや毒気を抜かれつつも応えることにする。
「"蹂躙の悪魔"――所有者の全ステータスを自軍の固有能力の合計数の二乗倍にする……。」
言っている瀬雅もよく分からなかったが、そう直感できたのだから仕方ない。現在瀬雅が持っている固有能力は"正義の悪魔"と"蹂躙の悪魔"の2つということになる。したがって最高火力は2の二乗――4倍になるということだ。瀬雅がパワーが前より上がっている?と感じていたのはこの能力の覚醒の予兆だったのかもしれない。
「んだそのチート……」
「魔力を無限に使えるヤツに言われたくないぞ……」
互いに言い合う。敵同士なのにいつもの軽口を叩いてしまう瀬雅。出会い方がちがければ意気投合していたかもしれない。
「……マツボロス。俺の勝ちだ。親玉の居場所を教えてくれ。」
瀬雅は真剣な顔つきに戻ると尋ねた。それが目的で戦っていたのだから。マツボロスは南を指して見せる。
「南区に恐らく安全地帯をつくってる。あの方も俺と同じだ。飢えて渇いてる。願わくばお前の拳で……」
マツボロスは最後まで言わなかった。瀬雅も何も言わずに南に向かうことにした。恐らく彼はもう暴れることはない。瀬雅という強敵がいると知ったからだ。近いうちにまた出会う。そんな予感がしていた。
「待ってろよ麦町……!」
駆けだす瀬雅。シュルームの元には魅甘がいる。何故か確信できた。
深夜に溶け込む紅の悪魔、その姿は先ほどよりも強く見えた。
なんというご都合主義……
ご意見ご感想は上記以外のものでお待ちしております!(笑)
↓ランキングクリックにご協力ください!




