42.人間領拡大作戦――米村瀬雅vsマツボロス③
漸く瀬雅です。
――大和町西区中心部
ヒーロー達が撤退した西区。怪人達はそのヒーロー達を追いかけて行った為、西区に人影はほとんどない。
しかし、静かかというと全くそんなことはなく、むしろ激しい爆発音が響き渡っていた。
「食らえ!"Pine squall"」
全身を硬い甲殻で覆ったマツカサの怪人が叫ぶと、はるか上空からマツボックリを模した魔力爆弾が降り注ぐ。それはさながら、パイナップルの愛称で呼ばれる手榴弾のようでもあった。
「はああああああああああ!!」
戦争を経験した学園教師や現役のヒーロー達でも相殺することができなかった魔力の豪雨。だが黒髪のヒーロー候補生は、人の姿では魔力すら練れない欠陥品とまで評される彼はそもそも相殺することなど考えていない。
爆弾が爆発する前に次の隙間へ――それは単純な理屈だ。爆発に巻き込まれない位置に自分の体を滑り込ませる。そんな芸当はもちろん並の者にはできない。しかし彼は、米村瀬雅はもちろん並の者ではない。ことスピードにおいては圧倒的な戦闘能力を持つ"6人の例外"にも劣っていない。
爆発する前に次の隙間へ。爆発する前に次の隙間へ。爆発する前に次の隙間へ。単純だがそれは徐々に次への間隔が短くなっていく、まるで複雑なパズルゲームをやっているような感覚。
絶妙な体裁きで移動する瀬雅は、体がブレて見えるほどの速度でマツカサの豪雨を切り抜けた。とそこに。
「面白ぇ!!」
「うお!?」
マツボロスは強敵が現れたことに感激しながらも飛び出してくる。彼のいた地面は大きく抉れ、ズドン――という発射音が聞こえてきそうな程、鋭く、速く突撃してきた。
「――"変身"!!」
流石に回避はしきれないと踏んだ瀬雅は早くも切り札である怪人の姿へと変わる。赤い全身。鋭い角、紅の二枚羽、攻撃的な細長い尻尾。――かつて謎の組織により強引に与えられた悪魔の姿。
この姿になることで米村瀬雅は魔力を行使し、本来の戦闘能力を引き出すことができる。むしろ、人間の姿で魔力を練ってしまうと強制的にこの姿になってしまう為、怪人であることを隠してヒーロー候補生をするには魔力を使えないと言う他ないのだ。
「な、何!?」
何よりも一瞬にして怪人の姿になったことによって相手への動揺を誘うことができる。マツボロスはヒーローだと思っていた敵が悍ましい悪魔の姿になったことで少なからず勢いを弱めた。
「魔力爪!!」
これを好機と見た瀬雅は手の甲、指の付け根からかぎ爪のような魔力を形づくってマツボロスの突進と組み合った。マツボロスは推進力を腕に載せた一撃、速度は威力。とてつもない衝撃が瀬雅に加わる。だが
(――力が漲ってくる……?)
瀬雅は一歩も引かない。以前の瀬雅なら間違いなく押されてカウンターを試みるか吹き飛ばされるかしていたであろう。瀬雅は薄らと感じていた。新たな力の片鱗を――。
「オラッ!」
溢れる力で強引に組み合っていた腕を伸ばし、マツボロスを押し返す。数歩後退し、構え直したマツボロスは、力負けしたことに目を見開いていた。
「すげぇなお前……!」
その声は喜色に包まれていた。「今度はどうだ!」再び足元のアスファルトを飛び散らせて飛び出すマツボロス。あまりのスピードに瀬雅は組み合うことを躊躇う。さっきは変身によって多少減速を促すことができたのだ。
「ぐっ!」
大きく飛びのく瀬雅。しかしそこに再び上空からのマツカサの爆撃が降り注ぐ。変身によって更に上がった身体能力で再び回避を試みるが
「らああああいぁあああああ!!!」
マツボロスが拳にブゥウウウンと鈍い魔力を宿し、それを放ってくる。ヒーローが用いる魔力球のような攻撃だ。それが丁度瀬雅の避けた先の隙間を埋めるように着弾する。瀬雅は再び別の隙間を探すが大きくテンポを乱され、数発爆発の余波をもらってしまった。
凄まじい弾幕の中目を開けているのもやっとだった瀬雅は上空に薄く魔力壁を一瞬だけ貼ると強引に魔力の奔流の範囲から離脱した。
「はぁ、はぁ。……」
「もらったあぁあああ!!」
「グッああああ!!」
当然のように爆撃の範囲から逃れた瀬雅にマツボロスの突進が襲い掛かる。これまで相手してきたどの怪人よりも激しい超攻撃型の連撃にたまらずうめき声を上げて吹き飛ぶ瀬雅。更に追い打ちをかけるように魔力の雨を降らせるマツボロス。瀬雅は吹き飛ばされる勢いをそのまま利用して大きく距離を取ってその範囲から逃れた。
どうやら魔力爆弾はマツボロスの任意の箇所に降らせることができるようだが、その範囲は半径10mほど。その範囲より大きく距離をとった瀬雅は漸く息を整えに入った。
僅か一瞬で地面は更にめくれ上がり、災害の後のようだ。瀬雅の消耗もかつてない程激しい。爆発を避けると簡単には言うが、余波にもダメージがある以上最低限の動きだけでは躱せない。回避を得意とする瀬雅とはそもそも相性が良くない。
仮にこれが斬撃や銃撃だったら回避無双なのだろうが……。瀬雅はそんなことより更に厄介な問題について考えていた。
(一体いつ溜めてんだあれ……?)
上空から降り注ぐ魔力爆弾を放つのは紛れもなくマツボロスだ。しかし、地形が変わるほどの範囲攻撃にも関わらずノータイムで降らせることができるはずがない。それこそ無限に降る雨のように、いや、雨とて限りはあるはずだ。瀬雅はあのマツカサの雨のからくりを解き明かすことが先決だと判断した。
――――――
――――
その後も同様の攻防が繰り返された。なんとか一瞬の隙に魔力爪の攻撃を通していく瀬雅だが、装甲を薄く裂くだけで決定打には至らない。
直線攻撃のスピードが速すぎるのだ。突撃してくるマツボロスには瀬雅の反応速度をもってしてもカウンターを返すことができない。まるでジェットエンジンのようだ。だが決定的に違うのはエンジンのように燃料が尽きる様子はない。さながら永久機関のよう――
「まてよ?循環しているのか?」
閃く瀬雅、マツカサは魔力の爆弾だ。では爆発した後その魔力はどこに行くのか。瀬雅は魔力の流れに意識を向ける。例えば魔力球は着弾した後、空気に溶け込むように霧散していく。ところがどうだ。爆発したマツカサの魔力が再び上空に戻っていく様子が感じ取れた。
「分かったぞ……!」
「何よそ見してん、だ!!!!」
瀬雅がマツボロスの能力に気づくのと、マツボロスのタックルが瀬雅に直撃するのは全く同時であった。
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次話は明日15時です!




