39.人間領拡大作戦――絶対強者vsリュウゼツラン④(終)
決着!
長くなってしまった。
「まさか"狂い月"ではなく"太陽"が釣れるとはな。」
「ほざけ」
鏡とリュウゼツランの戦いで荒れ果てた荒野。そこに降り立った五十嵐光は冷静にリュウゼツランに歩み寄った。
「なぜお前は俺や黒崎を待っていた?」
そして尋ねる。強者との闘いを求めるなら自分から戦乱に飛び込んでいけばいいだけだ。しかし、わざわざ灯と式乃を逃がして応援を呼ばせるとは何事か。
五十嵐の端末には、灯と合流した小隊から町外のヒーロー全体へ向けて連絡が来ていた。鏡が1人で戦っていることを知った五十嵐は一番近くにいるのが自分の小隊だと察し、大急ぎでやってきたと言う訳だ。
三大ヒーローの疾走には小隊の誰もついてこれずに、こうして1人になってしまったことはさておき。
リュウゼツランは尾をくねらせながら答えた。
「シュルームは貴様達三大ヒーローとぶつかるのを避けているようだが、我は貴様達は危険だと考えている。」
「……成程、だからバレないようにこんな町の外で始末しようってことか。」
どうやらシュルームの、植物族の行動と目の前のリュウゼツランの行動は目的を異にしているらしい。植物族も一枚岩ではないということか。
「お前はシュルームの"傘下"には入っていないのか?」
五十嵐は尋ねる。固有能力"胞子の軍勢"にかかっていれば意思とは関係なくシュルームの意に沿った行動を取るはず。つまりリュウゼツランは能力の影響を受けていない、ということになる。
しかし、五十嵐の問いに返ってきたのは極太の尻尾による薙ぎ払いであった。
「ッ!?"ブースト・モード"」
咄嗟に五十嵐は金色の魔力を放つ。オーラのように纏う黄金の魔力は彼自身は光源になったかのように明るくなり、すさまじいエネルギーの増幅を感じさせた。
そして全身に金色の魔力を纏ったまま尻尾を拳で迎撃しようとする五十嵐に――
「ダメぇッ!!」
鏡の悲鳴が響く。
「!」
五十嵐は瞬時に反応して回避に移ろうとするが、接触する面積の広さを重視した薙ぎはらいをよけ切ることができずに黄金のオーラを纏ったまま尻尾に吹き飛ばされてしまった。
「あ、ああ……!」
鏡は体を起こせないまま再び絶望に包まれた表情を作った。
鏡は五十嵐がエネルギーを増幅させる"能力"を使ったと判断した瞬間、叫んでいたのだ。リュウゼツランの固有能力がどんなものだったか。
"受けた固有能力の一切を無効化し、その能力の発動を封印する"
固有能力"凡夫で在れ"の脅威を身を以て知っていた鏡は五十嵐に能力を使って戦うのは危険だと伝えるべきであった、が遅かった。
恐らく、体に黄金のオーラを纏ったままリュウゼツランの尾に接したことで発動条件を満たしてしまった――いくら三大ヒーローとはいえ固有能力を封じられては勝機が薄いのではないか。
「ふ、ふふ……ふはははははははははははははははははははは!!!!!封じてやったぞ!貴様の能力は聞いたことがある。莫大なエネルギーをビームとして放つ究極の殲滅攻撃能力。だが予備動作として体にエネルギーを充填する必要がある。そこを狙ってしまえばこっちのものよ!!」
勝ち誇った笑いを浮かべるリュウゼツラン。瓦礫に埋もれた五十嵐は、起き上がることなく静かに呟いた。
「そうか、その能力があるからお前はシュルームの支配から逃れられたんだな。」
"胞子の軍勢"をリュウゼツランに仕掛けると逆に"凡夫で在れ"によって胞子の軍勢が無効化され、それどころか封印されてしまう。そうなればシュルームは2万の軍勢を率いることもできなくなってしまうのだ。
しかしリュウゼツランは心外だというように返す。
「逃れられた?違うな、シュルームとてまだまだ若い怪人に過ぎん。100年の時を生きる|我を恐れているのだ。」
それを裏付けるように、リュウゼツランは大きく尾を動かした。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――……
否、尾だけではない。その下、地面ごとが盛り上がっていき、大地が揺れる。葉が出ていた場所も、尾が出ていた場所もリュウゼツランの本体のごく一部に過ぎない。
地下からまず戦車のようなゴツゴツした塊が顔を出す。鏡はまさかと思ったが、続いて地下からせりあがる様子を見て、その物体が"足"であると確信した。
「そ、そんな……」
続いて足が、苔と蔓に包まれた胴体が、強靭な葉をいくつも生やした首が、そして――額に上位種の紋章を刻んだ龍の顔が。
「……緑龍――」
鏡は力なく呟く。
怪人の中で最も危険度が高いとされているのは"空想上の生物"である。本来の地球の歴史で神格化されたり、概念としてのみ存在した生物。
それらは実在する生物をモチーフにした怪人より、遥かに高い存在の格を持つ。龍種はその最も典型的な例であり、本州の大半が怪人領となるに至ったのも龍種達のせいであるといわれるほどだ。
目の前の怪人は、葉や蔓、木の根っこ等が複雑に絡まって30メートルを超える四足の首長龍の形を司っているのだ。鏡が叶うはずもない、"植物族の始祖"が相手では。
「確かにシュルームは強い。だが、奴は短絡的に過ぎる。我――始祖緑龍リュウゼツランは植物族の繁栄の為、貴様のような脅威を取り払うのだ。」
威厳を見せつけるかのように姿を現したリュウゼツランは、再び尻尾で五十嵐を蹂躙しにかかる。地面に体を埋めていたときとは違う、体の踏ん張りが効く状態での一撃は先程より強烈に見えた。
鏡は五十嵐の、全ヒーローの憧れである"三大ヒーロー"の一角が敗れる所を視界にいれることができず、思わず目を瞑ってしまった。
ドパァァアアアアアン!!!!!!!
その瞬間、生物同士がぶつかったとは考えられないほどの轟音が響く。鏡は俯いて涙を流すしかない。自分が不甲斐ないせいなのか――
「ぐぬぅ!?!!?」
「……え?」
しかし、続くうめき声に思わず顔を挙げる。今苦しそうな声が聞こえなかったか?
リュウゼツランの
「何故だ!何故まだその輝きを放っている!」
鏡は言葉を失った。
瓦礫から立ち上がった五十嵐は依然と、いや、むしろ輝きを増した魔力を放っていた。そして何より、凶悪なあの尻尾が半ばから消し飛んでいたのだ。
五十嵐は裏拳を振り切ったようなポーズで立っている。つまり、五十嵐が拳を振るっただけで10メートルにも及ぶであろう尻尾が吹っ飛ばされたということになる。
「お前は3つ愚を犯した。」
五十嵐はゆっくりと告げる。
「まずは大和町の侵攻に加わらなかったこと。」
次の瞬間、その場から五十嵐の姿がかき消えた。
「ぐぅお!?」
鏡の目が再び五十嵐を捉えた時には、爆音とともに抉れた胴体を晒すリュウゼツランと、脚を振り切った五十嵐の姿。彼を包む光が更に強くなった。
「お前が街を攻めていればひょっとしたら勝ち目があったかもしれない。だがお前はシュルームと別行動を選んだ。そのせいで、大和町の猛者達が本気になる準備を与えてしまったな。お前らは誰も勝てないぞ。」
「ば、馬鹿な、マツボロスやシュルームが、貴様のいない大和町の有象無象に敗れるはずがあるまい!」
「お前の目測が今、説得力を持つのか?」
五十嵐は嘲るような顔を浮かべた。リュウゼツランはハッとする。絶対的な勝算を以て五十嵐に攻撃を仕掛けたはずの自分は、今蹂躙されている。もしかして植物族はとんでもない無謀な作戦を実行しているのではないのか。
「貴様がシュルームも屠るつもりか?」
「まさか。」
五十嵐は即答する。
「別のヒーローがその怪人も倒すさ。そいつに譲ることにした。」
頭に浮かぶのは決意に満ちたあの目。自身が鍛えてきたCクラスのヒーロー候補生。
「2つ目の愚は、俺のことをきちんと調べなかったことだな。そんなチンケな能力で俺を封じたつもりになっているなんて笑えもしない。」
再び五十嵐の姿がブレる。今度はどこに、傍から見ていることしかできない鏡だが、今度はリュウゼツランの体がバランスを崩したことで五十嵐が敵の足元にいるのを発見する。前足の一本を五十嵐が素手で斬ったのだ。
手刀を振り切ったような姿勢でとまる五十嵐の体は更にもう一段輝きを増した。最初は、淡く湧き上がる希望の象徴のような金色の残滓だったそれは、今や激しい魔力の放射と化していて、周囲だけが昼になってしまったかのような光量であった。
「いいか、これはただの"身体強化"だ。」
五十嵐は冷静に言い放つ。
「な、んだと?」
絶句するリュウゼツラン。それは鏡も同様であった。身体強化――魔力で身体能力をサポートする。魔力を扱えるものならだれでもやっていることだ。しかし身体強化は表皮に薄らと魔力光が乗るくらいだ。あんなにまばゆい光を放つヒーローなど五十嵐しかいない。一体どれだけの魔力を使っているというのか。
「早とちりだな。誰も俺が固有能力を持っているなんて言ってないだろうに。」
そう、五十嵐光は魔力を超常現象に昇華する術――"固有能力"を持たないヒーローなのだ。
もちろん壊れた性能を誇る"固有能力"は、それ自体を持っているヒーローの方が少なく、学園の教師や現役のヒーローの中にも固有能力を持っている者はほとんどいない。しかしながら、"6人の例外"を始めとした強者達はいずれもその地位に見合った強力な能力を備えている。
空間を支配する最恐の能力で三大ヒーローとなった黒崎が最もいい例だろう。
そんな中、五十嵐は己の魔力親和性と身体能力のみで最強の一角の座を掴み取った。細胞単位で自身をコントロールし、強制的に周囲の魔力を自分に取り込む"ブースト・モード"――身体強化の究極系であるこの技 で五十嵐は戦争を勝ち抜いてきたのだ。
「悪いな、ウォーミングアップに付き合ってもらって。」
にやりと挑発する五十嵐、奇しくもそれは先ほどリュウゼツランが鏡に放ったのと同じセリフであった。
「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なァ!!!!!」
デタラメに攻撃を繰り出すリュウゼツラン。残りの尾や、脚、首から鬣のように生えたブレードのような葉、牙。そのどれもが必殺の威力を持ち、空爆のように地面に降り注ぐ。
「きゃあっ!」
地形をまるで変えてしまいかねないその暴撃に鏡も巻き込まれそうになる。が
「そして三つ目の愚は――俺の前で生徒を愚弄したことだ。」
いつの間にか鏡の前に立ちふさがっていた五十嵐は、リュウゼツランの攻撃を全て両拳ではじいて見せた。
「すごい……」
小学生並の感想しか出てこなくなってしまった鏡。超巨大な怪人を1人の人間が圧倒している。特撮ものの映画ですらなかなかないシチュエーションにひたすら鳥肌を立てていた。
「クソッならばこれでどうだぁああああああああああああああああああああ!!!!!」
追い詰められたリュウゼツランは、開いた口に魔力を収束させていく。龍種最大の攻撃、咆撃。しかもその魔力の量は観たこともない程強大であり、あんなものを放たれたら地形どころか地図が変わるかもしれない。そう思わせるほどの迫力であった。
「"バースト・モード"」
五十嵐はしかし動じることなく、負けじと輝く全身の魔力を前に突き出した両腕に収束させていく。キュイイイイイイイイイインと魔力が限界を超えて圧縮されていくのが見ていてわかった。
「消し飛べ人間!!!"緑龍の咆撃"!!!!!!!」
「――"閃光"。」
衝突する深緑と黄金。
その拮抗は激しい地鳴りを起こし、漏れ出た魔力に触れただけでも消し飛んでしまいそうな迫力であった。
「ぐ、ううううううああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
しばらくの拮抗は、黄金の光線が威力をましていったことで破られ、徐々にリュウゼツランへと2つの魔力が迫っていき、そしてついに緑龍は消滅した。
あまりの攻撃に、リュウゼツランが消え去ってからも地響きが続いている。鏡は恐怖すら覚えた。同じ人間でありながら、しかも固有能力もなしにこれほどの戦闘能力を有している。平時は戦闘制限がついている五十嵐だが、魔力を行使するとここまでになるのか。
改めて規格外の存在を目にした鏡は、兎に角礼を言わねばと思い咄嗟に立ち上がった。
「あ、の!五十嵐先生。ありがとうございま……あれ?立てる……?」
後から自分の行動に違和感を覚えた。ついさっきまで立てないほど疲弊していたのではないのか?自分の体内を慌てて探ってみると、魔力がかなり回復しているようだった。だから無意識で発動している身体強化によって疲弊した体を動かせているのだ。
「まぁ、それは俺の戦闘のおまけだと思ってくれ。」
五十嵐はどこか気まずそうに頬を掻く。あれだけの魔力行使が流石に効いたのか、若干息を切らしている。
「おまけ?……あ!」
聞いたことがある。"五十嵐の魔力光線は、近くに居る者の魔力を回復させる。"それこそが真の"太陽の由来"なのだと。
一体どこまで規格外なのだと目を輝かせる鏡に、しかし五十嵐は真剣な顔で告げた。
「金堂、街は今大量の怪人に襲われている。」
「ッ!?大和町が……」
そうだ、自分がここで戦っているうちに、植物族が町に攻め込んでしまったのか。鏡はとても穏やかではいられなかった。なぜなら
「鐸は、弟は無事なんですか!?」
詰め寄る鏡、たった一人の肉親である弟が気になって仕方がないのだ。
「分からん。」
五十嵐は苦い顔で応える。五十嵐は連絡こそ受けているものの、町外で怪人と戦う小隊だ。大和町の内部で誰が何をしているかを詳しく知ることはできない。だから――
「俺はこのまま人間領拡大作戦を続行する。一日戦い続けたお前はどうする?金堂鏡。」
五十嵐は尋ねた。普通、生徒をいたわるなら問答無用で休ませるはずだ。魔力で身体強化したところで、肉体的、精神的疲労が消える訳ではない、むしろ負担を上乗せするだけだ。だが、五十嵐はあえて鏡に選択させた。
「大和町に戻って、怪人達を鎮圧します。」
彼女もまた、ヒーローなのだから。
ここまで読んで下さってありがとうございます!
漸く五十嵐の実力が描けました。
次話も明日15時です!是非!




