38.人間領拡大作戦――絶対強者vsリュウゼツラン③(挿絵有)
④へのつなぎを考えてちょっと短めです
「きゃ、ああああああああああああっ!?」
突然襲った背後からの衝撃に鏡は為す術もなく吹き飛ばされた。尋常ではない一撃に薙ぎ払われ、体が錐もみしながら飛んでいく、そのまま地面に叩きつけられるがなんとか受け身を取った。そこに鋭利な瓦礫がおちていなかったのが幸いだろう。
「な、なに!?」
鏡の頭は混乱する。視界に入っていたリュウゼツランの残骸は動いていなかったはずだ。にもかかわらず背後から襲われた。その正体を見ようと目を向けると、そこには地面から極太の鞭のような何かが生えて揺れていた。
先ほどまで相対していたリュウゼツランの生えた場所から10メートル以上離れた場所に生えたそれは、葉のように鋭利ではなく、しなやかでありながら強靭な筋肉によって動いているであろうことがうかがえる。
「あれは……尻尾?」
そう、例えるならばそれは尻尾のようであった。しかし大木程の円周をもったそれを尻尾と断ずるのは難しいが。
「我に尾を使わせるとは見上げたものだ。」
新手の可能性も考えていたがそれは否定される。リュウゼツランの声が地面から響く、やはりあの尻尾も奴の肉体の一部なのだ。
「一体、地面の下はどうなってるっていうの……?」
鏡は寒気を感じた。もし葉が出ていた部分と尻尾が地下で繋がっているのだとしたらその全長は少なく見積もっても20メートルを超える。本体の一部ですら抑え込み切れていないというのにだ。
「あなた、本当にただの植物族なの?」
紋章こそないが、薄々リュウゼツランが上位種であることは察しが付く。しかし、植物族の長と言われても納得のいくレベルだった。
「肩書なんぞに価値はない。いくぞ人間。」
返ってきたのは戦闘続行の合図。ギリギリと引き絞った尻尾がロケットのように鏡に突きを放つ。
ギュンッ――と加速するその尾の速度は先程の葉とは比べ物にならず、鏡には反応しきれない速度であった。
突き――目的地までを最短で貫くそれは振り回す攻撃より圧倒的に速い。リュウゼツランもまた、鏡の剣技を目の当たりにして攻撃方法を変えてきたと言う訳だ。
「グうううウッあっ!!?」
体さばきと刀の鎬を使って突きを流そうと試みる鏡。しかしあまりの勢いに体が仰け反ってしまう、剣道は例え防御の際でも前傾姿勢であることが望ましい。重心が後ろに乗っていることは死に体と同義であり、反撃に移れないだけでなく相手の連撃にも対応できないからだ。
仰け反った姿勢では上手く衝撃を逃せず、なんとか突きの軌道は直撃を免れたものの再び姿勢を崩してしまう。
そしてついに倒れ込んだ鏡の左手から刀が放り出されてしまった。丸一日に及ぶ戦闘は通常人間には不可能だ。鏡は既に気力で立っていたにすぎなかった。
武器すら失い、体を起こすのも億劫になってしまった鏡。ここまでか――
「ふむ、なかなか楽しませてもらったぞ。ウォーミングアップに付き合ってくれて助かった。」
――なんだと?
鏡は倒れたまま震える。これだけ全力を尽くして戦った。疲労で死んでもおかしくない、それを"ウォーミングアップ"だと?
悔しかった、涙さえ溢れた。左手に力を籠めるが僅かに土を握るだけ、限界だ。
ここまでコケにされて、私は結局あの怪人を本気にさせることすらできなかった。固有能力を封じられているなんて言い訳は鏡にはない。悔しさがすべての感情を凌駕し、怒りすら沸かない。
「やはり待っていても期待できぬ、出歩くとするか。」
そして恐れていた事態、リュウゼツランが移動しようとしている。いけない。学園第五席の自分がまるで敵わない相手、そして固有能力を封じる能力、危なすぎる。場合によっては主席や最恐の能力者である黒崎先生ですら敗れるかもしれない。
足止めすら果たせないことに、死んでしまいたい程の情けなさが鏡を襲う。プライドを失った少女はひたすらに涙を流して懇願するのみであった。
「お願い、町にはいかないで……」
「……見損なったな。」
リュウゼツランの尻尾は興を削がれたかのようにゆっくりと揺れていた。鏡に反論の余地はない。心が折れかけていた。
「こんな状況でも助けに来なかった仲間を恨むがいい。」
そう吐き捨てるリュウゼツラン。鏡は何も言わずに嗚咽する。絶望、ここでもその二文字が空間を支配しようとしていたその時――
「そいつは悪かったな。」
声がかかる。
「……まさか、お前の方が釣れるとはな。」
リュウゼツランの声に喜色が混じる。
駆けつけた増援はたったの1人、しかしそれは大和町で間違いなく最強の一角であり。間違いなく最も信頼を寄せられているヒーローの象徴。
「よくも生徒を虚仮にしてくれたな。」
男は金髪を風になびかせながらもリュウゼツランの尾を睨み付ける。作戦行動中だと言うのに、動きやすさのみを重視した安物のジャージに包まれた風貌からは到底緊張感など感じられない。
しかし、その眼光にリュウゼツランは久方ぶりの脅威を感じていた。
そして、鏡は涙でくしゃくしゃになった顔をあげ、縋るように現れた本物のヒーローを見ていた。
「"太陽"――」
戦場に立つだけで周囲に希望を感じさせるその姿、人々は彼を、三大ヒーロー五十嵐光を"太陽"と呼んだのだ。
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