36.人間領拡大作戦――麦町魅甘vsシュルーム②
サブタイトルの話数がさりげなくずれてました汗、修正いたしました。ご迷惑をおかけします。
「――はっ!!」
「温いッ!!」
――大和町南区のとある場所、怪人の軍勢とヒーローが激しくぶつかり合っている中、この空間だけは2人の怪人の戦いの場となっていた。
片方は白い薔薇の怪人、麦町魅甘。体の各所に髪飾りを始めとした白い薔薇が付いていて、本人の病的な肌の白さと相まって儚げな印象を受ける。
しかし、その四肢は先端が怪人のとげとげしい装甲と化しており、尻尾には無数の蔦の尻尾。そして白いコートをたなびかせて身の丈より大きな鎌を振るう姿はまるで"死神"のようだった。
もう片方は植物族の事実上のリーダー、シュルーム。魅甘が繰り出す攻撃をその身で受け続けている。決して反応できていないわけではない。むしろ茸のような頭部から覗く顔は楽し気である。
魅甘が振るう鎌はシュルームに通らない。理屈は単純、シュルームが硬すぎるのだ。
鋼鉄に更に魔力を練り込んだ魔鋼、その装甲に包まれた防御を破るのは並大抵のことではできない。
「"消えゆく少女の成れの果て"――」
魅甘は自身の切り札でもある固有能力を発動する。忽ち魅甘の姿は世界から知覚できなくなる。
五感でどうこうとか、レーダーに映らないだとか、そういう次元ではなく、"麦町魅甘を認識できなくなる"――。隠蔽に特化したこの能力はシュルームが相手でも確かに通用していた。
が――
「!」
「いくら過程を認識できなくても……」
シュルームの首筋に鎌がめり込む。姿を消した魅甘が死角から放った全力の一撃は、装甲が比較的薄い首を後ろから落とすつもりであった。
しかし、両断するには至らず、逆に鎌が中途半端にシュルームに食い込み、動きをとめてしまう。
「攻撃が当たる瞬間は必ず俺に伝わる。大したことのない能力だなぁ!」
シュルームは嘲笑うかのように魅甘の鎌を掴んだ。もちろん認識されないという能力が貧弱な訳がない、これまでも多くのガザミの怪人を無傷で葬り続けてきたのだから。
シュルーム並の防御力を持つ怪人はそういない。故に魅甘とシュルームは、その戦闘スタイルにおいても相性が悪かったのだ。
「自身の能力を活かすには攻撃力が足りないようだな。」
シュルームは右手で鎌を掴んだまま振り返り、左手で拳をつくる。その腕が橙色に輝いているのを見た魅甘は本能的に危険を察知したが、僅かに遅かった。
「薔薇の鞭!!」
慌てて魅甘が腰から生える蔦のような尻尾をシュルームに打ち付ける。が、シュルームはそれを気にすることなく左腕を振るう。魔力でブーストをかけたその剛腕は、空気との摩擦なのか、何か別の熱なのか、発火して、隕石の如く魅甘の腹部へ吸い込まれた。
「火炎打拳!」
スガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン――――――――――――
大よそ拳から放たれたと思えない爆音が一帯に響いた。否、音だけではない。
衝撃は爆発そのもので、地面や周囲の建物の壁を抉った。
シュルームの周辺に小さなクレーターが出来上がる――当然そんなとてつもない攻撃を腹に受けた魅甘は……
「あ、がふ――!?」
数十メートル吹き飛んだ先で無残にも転がっていた。直撃の瞬間、鎌と尻尾を盾に回したことが功を奏し、体がはじけ飛ぶことはなかった、が逆に言えばかろうじて"生きているだけ"の状態だった。
腹部に激しい損傷を受け、特に内部のダメージが大きいのか、呼吸の度に血がせりあがってくる。怪人の姿となったことで防御力も大幅に上がっていたため、意識を飛ばすこともなく、ただただ苦痛の中に居たのだ。
「格の違いを思い知ったか女。」
「……どう、して……」
シュルームの問いに、しかし魅甘は疑問を浮かべていた。
――いくらなんでも差がありすぎる。
シュルームの戦闘能力は確かに想像以上であった。それでも、自分の力であればもう少し競ってもいいはずだ。
事実、持ち前の魔力親和性と怪人の身体能力を両立する魅甘は"6人の例外"にも劣らない戦闘能力を有しているはずだった。本来ならば。
魅甘の疑惑に応えるように、シュルームは話を始めた。
「この世界の生物の強さはほぼ"魔力"によって決まると言っていい。身体能力でさえ魔力で補助すれば軽く限界を超えられる。」
魅甘は何も言わない、呼吸ですらやっとなのだ。この衝撃で鎌を手放さなかっただけでも大した物だろう。
「例えば、お前達人間が移動に使う自動車、あれはタンクに空気中の魔力を溜めて、その動力で走っている。当然、タンクの容量を超えて貯蔵することはできない。」
シュルームは口元に笑みを浮かべている。
「では、我々生物は――?原理は同じだ、空気中の魔力を溜める。怪人は血液分の容量を魔力のタンクに当てている為人間より魔力量が多い。だが、その要領とて、町全体の電力を供給している魔力タンクに比べれば微々たるものだろう。」
そう、魔力は空気中から体内に取り込まれる。発散した魔力は基本的に空気中に還るため、循環し続けるのだ。当然体がでかい生物は魔力庫として有利だ。
「だが、三大ヒーローや俺はそんな巨体は持ち合わせていない。お前もだ。この身に収まる魔力等本来小さいものであるはずだ。なのにどうして人間や怪人は大規模な魔力を行使できる?」
単純に体の容積分の魔力では自動車を数キロ走らせることすら難しいだろう。では、生物は体だけではない、どこかに魔力をため込んでいることになる。それがなんなのか、ここまでの話で魅甘は既に感づいていた。シュルームはそれを裏付けるように正解を口にする。
「生物は"存在"そのものに魔力を取り込むんだ。この世界が認めたその生き物の存在価値。そいつがどの程度世界にとって大きな存在かが魔力を溜め込む器の大きさとなる。」
世界自身が生きる者を見定めて、一度に溜めて置ける魔力の器の大きさを決定する。言い換えれば、魂の格付けとでも言うべきか。魅甘は自分の策の愚を悟る。
「お前は俺の能力を破ったつもりでいただろうが、この世界から見たお前の"存在"を削るってのは、自ら最大魔力量を減らしているようなものだったんだよ。」
だから――魅甘は歯を食いしばる。魅甘の能力はすべてにおいて以前より弱くなっていっていたのだ。自ら存在を薄めていくことによって世界の強制力が魅甘の魔力量を削って行く。
だがしかし、そうしなければ、植物族である魅甘はシュルームの"胞子の軍勢"の支配を食らってしまう。
詰み――そう、魅甘の孤独な復讐は最初から詰んでいたのだ。
「そんな……」
魅甘は再び絶望に落とされる、漸く一矢報いる機会を得たというのに、これでは無様を晒しに来ただけではないか。地面に転がってシュルームを楽しませる滑稽な自分が惨めになる。
シュルームはその様子を楽し気に見ていたが、またいいことを思いついたかのように笑みを深めた。
「折角だ、お前の同胞を紹介してやろう。来い。」
その合図で建物の影から、魅甘を囲むように4人の男女が現れた。どの人物も植物的な特徴を持っている。ある者は体中に葉が付き、ある者は体色が木の皮のようになっている。とても美しい姿とは言えない怪人達は、それでも紋章こそないものの上位種に迫る実力を感じさせた。
「上手く適合できたと思っていたが、見比べるとお前ほどではないな。全く、お前を勢力に加えたかったものだ。」
過去に魅甘に薬を与えたことを覚えていないシュルームは平気でそんなことを言う。しかし、魅甘にとっては現れた怪人達はそれどころではない衝撃であった。
「あ……そんな……」
その怪人達の表情。男女問わず苦し気に、悔し気に涙を浮かべている。1人はまだ小さい男の子であった。
10年前自分が浮かべていた表情と同じだ。絶望のどん底にいたと思っていた魅甘は更にその下を味わうこととなった。
その4人は魅甘と同じく、強制的に怪人にされてしまった大和町の住民達だろうから。
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