35.人間領拡大作戦――麦町魅甘vsシュルーム①
ルビをミスって「消えゆく少女の成れの果てジブル」になってました。
果てジブル……かっこいい。
――大和町南区
ビル街の中の喧噪を、シュルームは愉快そうに聞いていた。
「これならやがて"魔脈"を手に入れる事もできるだろうな。」
編み笠のような茸の頭、辻斬りのような和風な着物のような風貌、その隙間から除く鋼鉄の体。そして腰に引っ下げられた太刀。
シュルームはあちこちで自らが送り出した怪人達が各地で暴れていることに満足しながら歩いている。しかしシュルーム自身の周りは誰もいない。
2万の兵を自在に操るシュルームの固有能力"胞子の軍勢"は戦闘の密度も操作し、こうしてシュルームが1人で行動できる隙間を作り出す。
事前に放ったタンポポの怪人は見事に偵察の仕事を果たしてくれていた。何日も前から放っていたタンポポの怪人はシュルームの"目"だ。どんなヒーローがどこにいるのか、固有能力を持っているヒーローはどのくらいいるのか、防御が薄いのはどこか。
手に取るように分かる。あとは消耗させつつ自分の目的を果たすだけ――
――――――――――――――――――――――
「見つけた。」
少女は呟く。忘れもしないあの姿、自分を怪人に変え、呪いのような能力を芽生えさせた元凶。
自然、体より大きい鎌を持つ手に力が入る。
――一閃――――――
空気すら切り裂く鋭い横凪がシュルームの体に直撃した。
「ぬ!?」
「!?硬い……ッ」
互いに驚いたような声を上げる。シュルームにとっては完全な不意打ちをもらったことになる。白いコートをはためかせる白い薔薇の怪人、麦町魅甘はその固有能力"消えゆく少女の成れの果て"によって相手に知覚されなくなる。
故に植物族の事実上の長であってもその斬撃には反応できなかったのだ。最も、攻撃を食らってしまえば流石にその効果は切れる。シュルームの目には白い薔薇の髪飾りを付けた怪人が映っていた。
一方で魅甘は内心焦っていた。これ以上ないタイミングでの攻撃、初撃で暗殺を狙っていた魅甘はその攻撃がシュルームの鋼鉄の体を斬るに至らなかったことに動揺する。
(最大のチャンスが……)
だがしかし後悔している暇はない。目の前にいる上位種シュルームは間違いなく最恐の防御力を誇っていることが分かったからだ。
ただでさえ硬い鋼鉄に銀の魔力を練り込んで魔鋼とする。易々と抜ける装甲ではなさそうだった。次の一手を考える魅甘にシュルームは口を開いた。
「植物族……だな?お前のような怪人が俺の知らんところに居たとはな。」
「…………」
シュルームの言葉に唇を噛む。強すぎたのか、血の味が滲んできたがお構いなしだ。同時に血走った眼から惨めな自分とシュルームへの怒りに涙が溢れそうになるが、こちらはなんとか堪えた。
魅甘自身がそう仕向けたことだ。自分の能力――相手に知覚されなくなる能力はその反動として使うたびに自分の存在を薄れさせていく。
ここに到着するまでに幾度となく能力を使った奇襲を仕掛けてきた魅甘の存在は、限界まで薄まっていた。
10年前、自身を絶望のどん底に突き落としたシュルームも、魅甘のことを覚えていなかったのである。
分かっていたが悔しい。復讐を果たそうにも相手がそれを覚えていないだなんて。
「……私は人間。一緒にしないで。」
そう口にしたのはどうしてか。瀬雅の前では自身は怪人であると告白したというのに。しかしそれを聞いたシュルームは何かに納得したのか裂けた口に笑みを浮かべた。
「そうかそうか。"あの薬"で怪人になったのか。どちらにせよお前は既に植物族、俺の支配の及ぶ怪人だ!」
手を翳すシュルーム。10年前の繰り返しだ。
「"胞子の軍勢"!!」
植物族の身体を支配する能力。対象が植物だけというのはやや限定的であるが、その分強制力は強い。シュルームを植物族の長足らしめた最大の能力を受けた魅甘は――
「"百花繚乱"」
「何ッ!?」
全力の攻撃で以て答えた。無数の薔薇の花びらのような魔力の嵐、棘付きの無数の尾を用いた"薔薇の鞭"、大鎌を振るった事によって発生した真空波、魅甘が持てる最大の攻撃手段が、油断していたシュルームに直撃し、その体を吹き飛ばした。
更に、食い込んだ薔薇の鞭はその棘の1つ1つが小爆弾だ。微かについた体表の傷を抉るようにその全てが炸裂した。
「ぬおおおっ!?」
爆煙の中からくぐもった声が聞こえる。どうやら今度はダメージが通ったようだ。
「はあっはあっはあっ…………はっ」
全力の魔力行使に肩で息をする魅甘。
「……どういうことだ?俺の能力が効かないはずが……」
若干動揺したシュルームの声、確かに植物族の体になってしまった魅甘はシュルームの支配に捕らわれるはずだった。だが、魅甘は大鎌を突きつけてきっぱりと言い放つ。
「あなたを殺す。……そのために私は己の存在を薄めてきた。あなたの能力が私を植物族だと認識できなくなるほどに。」
「存在の力を代償に……」
魅甘が1人で戦い、消えていくことを選んだ理由。それは透明になって奇襲をかけることが目的ではない。シュルームの固有能力の対象から外れるほど己の存在を空っぽにすることであった。
限界まで"存在"そのものを失った魅甘のことを、どうやらシュルームの固有能力は植物族の怪人だと認識できないようだった。
植物族である限り魅甘がシュルームに勝つことはできない。支配の力に屈するから。だからこそ魅甘は自分の呪いを逆手にとって、"胞子の軍勢"への対抗策を用意したのだった。命がけで。
「……あなたの固有能力は私に効かない。死んでもらう。」
冷たく言う魅甘に対し、シュルームは俯いて肩を震わせていた。絶対だと思っていた支配の力を破られて激怒しているのかと思った。都合が良い。冷静な判断力を失えば勝ち目が見えるかもしれない。
しかしシュルームの震えは決して怒りなどではなかった。
「ハ――――ッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!!!!」
それは嗤いだった。俯いていた顔が一転、夜空を見あげる。魅甘を見下し、自身の絶対的優位は覆らない。そんな余裕を感じさせる不快な笑い声。
「な、なにが可笑しい!」
思わず魅甘も声を荒げていた。しかし返ってくるのは笑い声。魅甘は自身に渦巻くどす黒い感情を意思のちからでなんとか抑え込む。握られた大鎌が怪人となった魅甘の握力でミシミシと音を立てた。
やがて笑い終えたシュルームは、息ができないと言わんばかりに愉快そうに口を開いた。その口からでてくるのは紛れもない余裕。
「俺の固有能力を封じたくらいで勝ったつもりか!?笑わせるな!牙を失ったところで象に芋虫が勝てる物か!」
自らを芋虫と比喩された魅甘はこめかみをひくつかせる。どれだけ自分の神経を逆撫ですることに長けているんだろう。
「それに、存在の力を代償に……ククク――まさか"自ら弱くなる"なんてな。」
「……どういう意味」
シュルームの言葉に怪訝な顔をする魅甘。シュルームは愉快そうに、しかし狂気に満ちた笑顔で構えを取った。植物族最大の上位種の臨戦態勢だ。
「お前は"魔力"のことをなにも分かっていない。いいだろう、植物族上位種、鋼鉄茸が哀れなお前の遊び相手になってやる。」
白い薔薇の怪人と鋼鉄茸の絶望的な戦いが幕を開けた。
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