32.人間領拡大作戦――米村瀬雅vsマツボロス①(挿絵有)
サブタイトルは『まつぼっくりは降ってくる』と迷いました。
――大和町西区中心部
娯楽施設が集まってできている西区。避難誘導が済んだ今、ゲームの筐体や店の光はなくなり、普段から考えられないほどの暗闇が西区を支配していた。
しかし閑散としているかというとそうではない。
「うおおおおおおおおおおお!」
「隊列組み直せ!囲まれるな!!」
むしろ西区は今混乱の中にあった。原因はもちろん押し寄せる植物族の大軍。シュルームがこの日のために用意していた2万の軍勢だ。
南区から四方に散ったその大群はここ、隣接した西区にも例外なく押し寄せていた。
一体一体は熟練のヒーロー達からすれば脅威にはならない、しかしこの場にいるのは大部分が学園生徒やOBOGだ。そのあまりの数を前に、魔力壁を展開して押しとどめ、零れた怪人を少しずつ削ることしか有効打が取れずにいた。
「なんでこんなに統率が取れてんだ!」
「ヒーロー顔負けだろこんなの……ッ」
怪人の方の連携の練度が以上に高い。魔力壁に阻まれた怪人は暴れるわけでもなく、数人で組んで障壁を一点突破する。攻撃は単騎ではせず、数体がまとまって波状攻撃を仕掛けてくる。
その精度の高さが独力では大したことのない怪人を数段厄介にさせていた。これは当然訓練によるものではなく、上位種シュルームの固有能力"胞子の軍勢"による完全支配によるものだ。
これは、対象の体をシュルームの命令に最善な形で実行させる能力。2万の軍勢は『ヒーローを撃破せよ』という命令を最も可能性の高い行動で実現しようとする。
結果、連携という概念が生まれているのだ。支配された怪人の意志は関係ない、しかし、もとより自我に乏しい植物族の下位種族であれば命令に逆らうこともない。実に合理的な軍だ。
経験の浅いヒーロー候補生が何人か怪人の波に飲まれてしまう。一応防御手段を持っているため最悪の事態はないが、このまま時間が経てばそれも分からない。兎に角乱戦にならないよう、ヒーロー側と植物族が正面衝突するように隊列を組む。四方を囲まれては終わりだ。
「そこ!代わります。」
ヒーロー側からビームのような魔力が広がる。魔力光線が通った跡は怪人が吹き飛んで一瞬だけ開けたが、すぐに圧倒的な数が隙間を埋め尽くしてしまう。
それでも怪人が何十も倒されたことに場が盛り上がる。
「私が撃ちますから、あなた達は防御を固めて!」
素早く支持を出す眼鏡の女性は学園の教師だ。戦争による活躍で危険因子と恐れられるほどの能力とみなされ、平時の戦闘を制限されているヒーロー。
今回降りた戦闘許可によって、彼女は町に残っていざという事態に備えていたのだ。
「こんなことになるならもっとこっちに先生がいれば……」
眼鏡の教師は嘆く。そもそも町内がこんなに手薄なのも、国が人間領を広げる作戦を平行しようとしたからだ。
嘆息しながらも彼女の手は怪人に向けて光線を打ち出し続けている。怪人側に僅かな混乱が生まれているようだ。
――"魔力砲"考案者は彼女ではないが、魔力を圧縮し、開放するというシンプルな技だ。故に強い。どれだけの魔力を圧縮するか、そこにどれだけ魔力を込めるかのみで威力を調整できるが、彼女のしているように怪人を蹂躙する威力を実現するには馬鹿みたいな魔力を必要とする。
並のヒーローでは彼女のように片手間に連発できる技ではない。それだけ眼鏡の教師の戦闘力が高いことを証明していた。
「……しかし、キリがないわね。」
彼女が魔力砲を放つ度に怪人の道が割れるが、すぐにそれは埋まってしまう。流石の数だ。永遠に繰り返せばいつかは終わるだろうが、残念ながら彼女の魔力は無限ではないし、何より防御魔法を貼っている後衛達の方が先に魔力切れを起こしそうだ。
「なにか、1つ転機があれば!」
そう願い、両手からひと際威力を挙げた光線を放つ。
殲滅ではなく、拡散率を挙げた広範囲攻撃。怪人達を消耗させて混乱させることを狙った一手だった。
しかしそれは空中から飛来した謎の魔力塊によって遮られる。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド――
ゲリラ豪雨かと思えるほどの魔力が突然空から降り注ぐ。
広範囲に放った光線がかき消えてしまうほどの密度に眼鏡の教師は眼を見開く。
「これは……まつぼっくり?」
雨のような、いや、拳ほどもある雹のような魔力塊は、よく見ると1つ1つが茶色くてゴツゴツしている。それはマツカサのような形にも見えた。
「ご名答。」
そして、マツカサの雨とも空襲ともいえる砲火に追随するように、上空からそれは降ってきた。地面が轟音を立てて陥没する。凄まじい質量だ。
「な、一体何なの?」
その場に居る全員が落ちてきたそれに注目する。怪人達すら萎縮して動きを止めている。
それは最初、何なのか判断に困るような容姿であった。ヒト型、そこまで大きくはない体。しかし、頭が巨大なマツカサの形だ。
だがその体はトゲトゲしい鎧に包まれている。そう、鎧のはずなのだ。なぜ戸惑うかと言えば、その鎧が到底生物的ではなかったからだ。
見るからに凶悪な形をしている鎧の隙間に、ところどころスパークのように走る紫電と、ぼんやりと淡い緑に輝く装甲。
まるで機械兵器とかサイボーグだとか、そんなものを想像させる姿に一瞬怪人なのか、否、生物なのかを疑ったのだ。
しかし目を凝らすと腰部分の装甲には植物族の紋章が刻まれている。
「上位種……!」
「退屈凌ぎに出てきちまったぁ……。俺は"マツボロス"。オマエ中々強そうだな。相手しろや。」
頭部のマツカサから除く不気味な単眼が戦闘意欲にギラついている。
戦争も経験し、数々の困難を乗り越えてきた眼鏡の教師は確信した。目の前の怪人は間違えなく上位種でもヤバい部類だと。
拮抗するヒーロー達と怪人の大軍の衝突は、上位種マツボロスの登場により次の場面に移ろうとしていた。
ごめんなさい、マツボロスくんの挿絵に時間がかかってしまいました( ;∀;)
瀬雅登場まで行かなかったし……
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次話投稿は明日15時です!是非!




