30.人間領拡大作戦――ヒーローvs2万の植物族①
前話の後書きに魅甘の能力についての補足を入れました。ストーリーの展開に影響はないですが、気になった方もいるかもしれないので一度見ていただけるとありがたいです。
深夜、住民のいない大和町。
天野学園の学生の誘導により、一般人の避難は既に完了している。今大和町の各地には500名程のヒーローが散らばっている。
主な構成は天野学園の卒業生でもある、平時は町の警護をしているヒーロー達。天野学園の3年生、2年生、1年生だ。
といっても1年生や2-C、2年整備課、2年医療課は既に避難誘導の仕事を終えて待機状態だ。加えて若干名の学園教師がいるが戦力の大半は大和町の外に進撃している為、戦力としてはやや寂しい。
3年の中でも現役のヒーローに勝ると言われている"6人の例外"は3名が町外で失踪中、2名は町外の侵攻に加わり、主席は学園の守護を担当している。
残された戦力で大和町の異常事態に対応しなくてはならない為、場は非常に緊張していた。
――幸か不幸か、大和町の異常はすぐに判明した――
「こ、こちら東区!植物族の大群が」
「西も同じだ!」
「南もだ!!くそっどうなってやがる!!」
「なんて数だ!すぐに交戦しろ!町がやばい!!!」
植物族の軍勢が侵攻を始めたのだ。その数は何と2万。非戦闘員まで数えても500人というヒーロー側にはシュルームが10年かけて用意した大群は絶望の極みであった。
「なんだよこれ……こんなんじゃ」
東区で待機していた青髪の少年、金堂鐸は戦慄する。目の前の光景が植物一色に埋め尽くされていたからだ。
鐸の独力では1対1の状況でガザミの怪人が倒せる、というのが限界だ。いや、2-Cや1年生の実力ではガザミの怪人一体ずつしか相手どれないのが普通だ。
誤解されがちだが、彼らの戦闘力はヒーローの基準で劣っているだけで、魔力親和性のない一般人とは比べ物にならないほどだ。
例えばそこらへんのボクサーでは、微弱な魔力を纏った鐸に傷1つ付けられない。身体能力ではボクサーが勝るであろうが。"魔力"というのはそういうものなのだ。
そんな彼らCクラスや、入学間もない1年生が1匹相手にできるかというレベルの怪人が大群で押し寄せている。
しかも大群の中にいるのはガザミの怪人だけではない。ドクダミ、ホオズキ、そして、スギのような大型の木の怪人などは明らかにガザミの怪人より格上だと思われた。
上位種がいないのが幸いだが、それでもそんな大群が2万。鐸は仮に鏡が帰ってきたとき、大和町自体が壊滅しているのではないかという想像に捕らわれた。
「そんなこと、絶対に嫌だ。」
鐸は震える体を無理やり押さえつける。しかしどうしたらいいのかが分からない。圧倒的な"数"の前では半端な個の力は何の意味も為さないと分かっているからだ。
10年前、当時のヒーロー達の努力も虚しく両親は命を散らした。その時の光景と目の前の大群が重なる。鐸が絶望に飲み込まれ、群がる怪人達も鐸を飲み込もうとしたときだった。
「あちょーーーー!!!!!」
軽快な叫びと共に鐸の周囲の怪人が吹き飛ぶ。栗色のふわふわな髪を2つに結わいている少女が鐸と怪人の間に割って入った。
「鐸くん鐸くんケガはない?」
「……あ、ありがとう助かった!」
猫のような釣り目にほんわかした雰囲気、アンバランスが同居している少女はカンフーのようなポーズをとって鐸と背中をくっつけた。
「共闘といこうじゃあありませんか鐸くん!」
「いや、でも足手まといに……」
「ならないよ。」
鐸の不安を遮って言う少女。鐸は振り返る。少女もまた鐸を見ていた。背中合わせになっていた為顔が近い。
「一緒に黒崎先生の訓練を受けてきたんだもん。コンビネーションはばっちり!」
そう、瀬雅と魅甘が五十嵐の訓練を受けていたように、鐸とこの少女もまた共に黒崎の訓練を受けていたのだ。少女の武術の動き、鐸の索敵能力は互いに知っている。
「それに……あたしの敵はみんな弱体化するんだから。」
「そうだったな。」
鐸は自分達を囲む怪人達に目をやる。森のように凄まじい数だ。しかし背中に少しだけ預けられている体重が不思議と先ほどまでの恐怖を和らげているようだった。
「そうだよ、な。いつまでも姉ちゃんの背中を見てるだけじゃだめなんだ。」
鐸は拳を握る。ここが戦争のトラウマを乗り越える場面だ。
「よし!力を貸してくれ!!」
「まかせて!こう見えてもこの坂月結は、鏡先輩の後輩で――」
少女の拳が淡く光る、桃色の魔力だ。少女がそのまま腰を入れて拳を目にもとまらぬ速度で突き出す、正拳突きだ。すると拳から砲弾のように桃色の魔力球が飛び出し、大群に穴を開けた。
「2-Aじゃ一番強いんだから!」
少女の攻撃を皮切りに、東区のヒーロー達と怪人の大軍は乱戦を始めた。
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――大和町南区
「――ふッ!」
巨大な鎌が振るわれる。視界に入った植物族たちが一瞬で両断された。
怪人達には彼女の姿が見えない。"消えゆく少女の成れの果て"。相手の知覚能力の一切を無視する固有能力。
白い薔薇の怪人、麦町魅甘の攻撃は常に死角からの一撃となる。
不便な点を挙げるとすれば、時間経過で効果が切れることと、使う度に魅甘自身の存在が消えていくことだろうか。
植物族の大軍が広がっていくのを見ていた魅甘は、能力の範囲からして植物族を全方位に操ることのできる街の中心近くにシュルームが居るとアタリを付けていた。
だからこうして町内の怪人を斬りながらも、ヒーロー達の目に触れぬようにシュルームを探して走っている。
だというのに、魅甘の目の前の空間が揺らめきだした。
「大分弱ってるみたいだね~ホントに大丈夫?」
軽い口調と共に空間の揺らぎから現れた"狂い月"黒崎純子。なぜか彼女には魅甘の所在が分かるようだ。
「……私を覚えてるんですか。」
無表情のまま尋ねる魅甘。瀬雅と別れてから大分能力を使ってきた。てっきりもう自分を覚えている者などいないと思っていたのだ。
「忘れるわけないじゃん。キミみたいな子をさ♪」
「……そう。」
「仮にも教師だよ?ボクは。」
「……だったら戦闘に加わったらいい。」
楽し気に語る黒崎に魅甘は若干の不機嫌さを滲ませて答える。魅甘にとっても2万もの大軍は流石に予想外であった。町への被害がどのくらいになるのか分からないが、黒崎が加わればその被害は最小限になるだろう。
「まぁ、本当に危なくなったらキミ以外の子は助けてあげるよ。失踪した三人もね。ま、大丈夫だと思うけど。」
「……ありがとうございます。」
「ううん~がんばってね~♪」
そんなやりとりのあと、魅甘は走り出した。大軍を操っているシュルームを倒すことでこの統率は崩れる、それが先決だ。
1人になった黒崎は愉快そうに歩き出す。その行先は誰にも分からない。
「そう、麦町魅甘。キミ以外はボクが見守っててあげよう♪」
声に出してみるとなかなかに冷たく寂しい台詞だと思った。
「キミの覚悟を邪魔するほど無粋じゃないし♪」
己の存在をかけてシュルームと刺し違える。ヒーローとして見上げた覚悟だ。気分屋の黒崎も彼女の生き様を見届けたくなった。そんな黒崎の真意を魅甘は読み取っただろうか。きっと先ほどのお礼の言葉から、多少は伝わったはずだと黒崎は勝手に解釈した。
「それにヤバくなったとしても……」
黒崎はずっと遠くを見る。魔力で補強した気力が十キロ以上離れた光景を映し出す。
豆粒のように小さいが、走る少年の姿が確かに見えた。
「助けてくれる"仲間"がちゃんといるみたいだしね♪」
満足気に頷くと黒崎は空間の揺らぎの中に再び消えていった。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
2章も終盤です。実は1章からちょくちょく出ていた坂月結ちゃん。ようやく名前登場です。
挿絵が後々追加されます。
めまぐるしく場面が切り替わるので、2章終了あたりでまとめて読んでいただくのがいいかもしれません……。
次話も15時です!




