26.消えゆく少女
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大和町内外の調査作戦は数々の情報と三年生三名の失踪という結果に終わった。
様々な収穫はあったが、最も大きかったのは、ガザミの怪人が夜になると人を襲うということだ。しかし、昨夜の頻度で人が襲われていれば誰かが気づくし、行方不明者も多いはずだ。つまり、ガザミが人を襲う頻度を上げ始めたということだ。
そして、瀬雅が魅甘から持ち帰った上位種シュルームの情報や、町外に複数の上位種が現れたという情報、それらを総合して考えれば、近いうちに植物族との衝突がおこることは目に見えていた。
「だからって、日曜日にまで全校生徒が集められるあたりなぁ……」
瀬雅は愚痴りながら昇降口で履き替える。口調こそいつも通りだが、その顔は不満げだ。魅甘が瀬雅のもとを去ってから一晩、急がなければ魅甘は自身の固有能力の呪いによって存在を消していく。
本当なら今すぐに飛び出していきたいところだったが、命令系統の最上位である国の命令に背くことはできない。
場合によっては瀬雅の正体を知っている学園長や五十嵐を敵に回すことになるかもしれない。そうなった場合魅甘を助けに行くどころか瀬雅が日常に戻れることはなくなるだろう。
がんじがらめの状態で結局緊急の日曜日登校に応じるしかないのだ、文句の1つもいいたくなる。
――2-C
教室に行くと既にクラスメイトの大半が登校してきていた。突然の緊急登校に緊張する者、無関心な者、めんどくさそうな者、お祭り気分な者。
様々な顔が視界に入る、魅甘の事情を知っている瀬雅は、クラスメイトのそんな様子を少し薄情だと思った。
「おはよう米村。」
「……ああ、おはよう」
クラスメイトに声をかけられて返す。普段真っ先に声をかけてくる鐸はまだ登校していないようだ。姉が失踪しているのだ、無理もない。
ふと、窓際の自分の席に目が行く。自分の席の――1つ後ろは空席。
「麦町は来てないよな……当たり前……か。」
昨日までのことが悪夢で、今日何事もないように彼女が教室にいてくれたらどれだけよかっただろう。そんな考えからか、つい願望が零れてしまっていた。
そんな瀬雅の様子を近くに居たクラスメイトが訝しがる。瀬雅はその表情に嫌な予感を覚えた。
「米村?その麦町って、誰だ?」
「…………は?」
一瞬何を言われたのか分からなかった。それを理解したとき、瀬雅はその膂力で以てクラスメイトの胸ぐらを掴んでいた。
「笑えねぇぞ、そのギャグ。」
寝ていないせいか、くまのできた目でクラスメイトを睨み付ける。周囲のクラスメイト達がざわめき出す。朝から喧嘩なんて穏やかではないといった様子だ。
「ま、待てよ米村。本当に知らないぞそんな人。どっかで会ったか?」
「なんだとっ……!」
慌てたように瀬雅をなだめようとするクラスメイトの姿が瀬雅の心を逆撫でた。半ば反射的に殴ってしまいそうになったが、そこでようやく周囲の目線に気づいた。
「あ――――――――」
瀬雅は気づいた。気づいてしまった。
瀬雅の様子を本気で心配そうに、不思議そうに見つめるクラスメイト達の目線に。
『この力を使う度に私の存在は薄れていく。』
(そうか。)
瀬雅は力なく手を離す。
「悪い、寝ぼけてたみてーだ。」
「い、いや、そういうことならいいけどよ、なんか今日のお前怖いぞ?」
(そうか)
よろよろと自分の席に着く。
(もうこのクラスから魅甘はいなくなっちまったんだな。)
「……おはよう。」
瀬雅が教室内の空気を鎮まらせたことで、小さい挨拶はよく通った。鐸が登校してきたのだ。
トレードマークの青髪は乱れていて、その顔は一晩中泣いていたかのようにやつれて腫れていた。瀬雅以上に憔悴した姿に注目が集まる。
しかし、鐸はそんなクラスメイト達にかまわず、まっすぐ、ゆっくりと悔しそうな顔を浮かべて瀬雅の元へ歩いてきた。
「……よ。」
「セガ……、俺、なんにもできねぇ。」
「…………俺もだ。」
そのやりとりだけで大体互いの言いたいことが分かった。昨晩感じた無力、せめて複数の上位種を同時に相手できる程の強さがあれば、こんなことにはならなかったかもしれない。
しかし鐸は、昨日のことだけではないと言った。
「どういうことだ?」
聞き返す瀬雅。鐸は黙って瀬雅の後ろの席へ、机を一撫でした。そして歯を食いしばり、目をぎゅっと閉じる。
「思い出せないんだ。お前が大切にしているあの子が、ここに誰が座っていたのかが――ッ」
「金堂……」
今にも涙を零しそうな様子の鐸。鐸は微かに覚えていたのだ。ここに誰かが確かに居たということを。姉のことで頭がいっぱいなのかと思っていたが、共に過ごした仲間のことを忘れていくことにも心を痛めていたのだ。
思い出せもしない少女のために流す涙を見て、瀬雅の視界も自然と滲んでいく。
「……十分だ、十分だよ。」
―――――――――――――――――――――――
生徒が揃い、体育館へ移動すると学園長からの説明があった。
想像以上に悪い事態になっていること、数名の生徒が行方不明になり、上位種が攻め込んでくる可能性がある他、ガザミの怪人が人を襲うようになっていること。
これらを重視した国が、植物族と交戦する準備をせよとの命令を下した。
昨夜の作戦に参加した生徒はガザミの退治を担当し、他の生徒は町中の生徒を各ブロックのシェルターまで避難させよとのことだった。
生徒達に訪れる不安、緊張。戦火の恐怖を思い出す者も多いのだろう。解散となり、そのまま体育館でクラス毎集まり、具体的な動きが指示される。
五十嵐も2-Cの面々に南ブロックのシェルターの位置、誘導の手順を説明していく。魅甘を除く全員にきちんと役割が用意されていた。
「先生、俺は……!」
そう、全員分、瀬雅と鐸もこの避難誘導の組に入っていた。
「お前達は戦闘には参加させられない。」
「ど、どうして!」
反射的に鐸の口をついたセリフだったが、本当はそんなことは分かり切っている。
「お前らは今回私情を挟まずに行動できないだろう。それに、複数の上位種が居るんだ。危険にはさらせない。」
鐸の目から光が消えそうになる、不安なのだろう。
そんな鐸の様子を察してか、五十嵐が力強く鐸の肩に手を置いた。
「大丈夫だ、お前の姉も、重鳴も、紫芽も俺が助けてくる。お前はお前のできることをするんだ。」
「先生……」
感極まったような顔をする鐸。一方で瀬雅は不安に包まれた。ひょっとすると五十嵐ですら……
「五十嵐先生、その、麦町は……?」
恐る恐る尋ねる瀬雅。五十嵐の肩ピクリと震える。もしやと思ったが、五十嵐の返答は瀬雅の想像とは違うものだった。
――悪い方向で
「国からの指示だ。"死神"の討伐命令がでた。」
「!?な、なんでだよ!」
思わず大声を出してしまう瀬雅。その声に体育館に集まっていた他のクラスの面々が瀬雅の方を向く。瀬雅はその内の1人――2-Aが集まっている場所からの視線と目が合った。
褐色の肌に長い髪を三つ編みにまとめた女性。年齢よりずっと若く見える幼い顔立ちに浮かべられた三日月のように口が歪められている。
なんて恐ろしい顔で笑っているのだろう。背筋が凍るような思いをする瀬雅の耳もとで、五十嵐が憎憎しげに囁いた。
「昨日アイツが――黒崎が報告したんだ。"死神は危険な怪人だ"ってな。」
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次話は明日15時です!




