24.大和町調査作戦――月夜に泣く
前話に魅甘の固有能力名を記載しました!
魅甘の回想的なお話です。
過去の話になる部分を***マークで区切っています。
誰もいない南区の空に1人の少女が現れる。"消えゆく少女の成れの果て"。認識されない、相手の前から予備動作なしに消えるという強力な固有能力にはデメリットがあった。
使用する度に"麦町魅甘が存在したという事実"――つまり彼女の存在そのものが消えていくのである。
それは関わったすべての人がいつかは魅甘を忘れてしまうということを意味していた。麦町魅甘という概念そのものに干渉するこの呪いのような能力は、写真や音声記録に収めていようと対処が不可能なのだ。
『俺は、お前を忘れたりしない!!助けに行くからな!』
先程聞こえた瀬雅の言葉は深く魅甘の心に刺さった。
「セガは……優しいね。」
ビル街の屋根を飛び移りながら1人呟く。
瀬雅はどこまでも本気だろう。事情を知った瀬雅は、何をしてでも再び魅甘の前に現れる。そんな予感がした。
彼は植物族の身体を持っている魅甘にも、きっと変わらず接してくれるだろう。これからも護ると言って戦って――傷ついていくだろう。
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――魅甘の心の中には、過去の情景が広がっていた。
麦町魅甘の半生はとても寂しいものであった。
最初から無表情な人間だった訳ではない。昔は魅甘なりに明るく振舞っていたし、友達もいた。
でも、例外なく周囲に忘れられていくのだ。そしてついに友達も先生もが魅甘を忘れてしまい、魅甘は転校をよぎなくされた。
『ん?ああ、麦町今日は来てたのか』
『え、あ、ああ分かるよ魅甘ちゃんでしょ!忘れてないって!』
『この席って誰か座ってたっけ?』
『んーどうだったっけか……?』
こんな言葉を何度聞いたか分からない。
最初は悪質ないじめだと思って憤慨したりもしたが、何度か繰り返すうちに皆本当に魅甘を忘れて行っているのだと悟った。
自分の固有能力に気づいたのはいつだったろうか。無意識のうちに発動されていた固有能力は、"魅甘のことを周りが忘れていく"という形の呪いとなって蝕んだ。
今日知り合った人、長い付き合いの友人、家族を亡くした魅甘に親身になって接してくれた先生。
明日になったら忘れられているかもしれない。そんな考えが脳を支配すると、自然と人と深く関わることを避けるようになっていた。
自分の固有能力を自覚してからは、必死に魔力親和性――操作精度を高めることに時間を費やした。成長に伴ってある程度伸びていく身体能力と違い、魔力親和性を鍛えるのは容易ではなかった。自分が操作できる限界を超え続ける。それは暴発の危険と常に隣り合わせにあった。
『あぅっ……!』
手元で制御しきれなくなった魔力球が弾けて魅甘に逆流する。まだ小学生だった魅甘の身体は簡単に宙を舞った。打撲、擦り傷、魔力の逆流による中身の損傷。幼い魅甘は血をこぼしながらも立ち上がる。
――――――
――
『うっ!』
限界まで数を増やした魔力球の嵐。制御を謝りいくつもの魔力が自分にぶつかる。中学生になるころには既にイメージ通りに魔力を動かせるようになっていた。それでも彼女は更に練度を上げるため、努力を続けた。
服の下には痣や生傷が絶えない。彼女の背中を見たものはそれが歴戦の兵士だといっても信じてしまうだろう。
特訓に費やした月日は彼女と周囲の人間の温度差を生み出した。既に1人、麦町魅甘は孤独の中でも己の魔力と向き合い続けた。
もう友達なんていないのに、誰もが自分を素通りするのに、なんで自分はまだ固有能力の制御なんてものを続けているんだろう。
何度目かの転校の後、能力を制御できるようになった頃には魅甘の目は光を宿していなかった。
自分が持つ魔力は戦争の最中にもたらされた怪人の力。
魔力親和性を磨けば磨くほどに能力は伸び、自分が怪人である自覚が強くなっていた。
時が経つにつれて孤独であることの諦めと共に自分の人生を滅茶苦茶にした植物族への憎悪が無限に湧き上がってくる。あいつらだけは許さない。いつしか復讐のために己の力を磨くようになっていた。
周囲に馴染むことを諦めたある日、1人の女性から声をかけられた。
『ウチに来てみない?貴女と合う子も貴女を分かってくれる人もきっと見つかるわ』
綺麗な人だった。一言で表すなら天使――私の何がわかるんだ、知ったような口を訊くな。絶望と諦めの中にいた魅甘だがそんな言葉は不思議と出なかった。
そして"学園長"と名乗る女に言われるまま天野学園に転入し、米村瀬雅に出会った。
転入初日はいつも騒がしい。どうせすぐに興味を失うのに、最初だけ好奇心で転入生を囲む。彼らは悪くない、穢れた能力を宿している自分が悪いのだ。
人の輪に入ることを諦めた魅甘に、瀬雅の方から踏み込んで来た。
『静かな昼食スポットたくさんあるんだぜ?この学園。必要とあらばいつでも聞いてくれ。』
不思議な少年だった。出会って間もないのにいきなり屋上まで来て絡んでくる。
どうせ忘れるのに……
そう思って軽口を叩いてみると、瀬雅は微笑みで返してきた。
胸が一杯になった。自分はこんなにも、他人との会話を望んでいたのだ。
瀬雅は鐸と会話をしている時もきっかけがあれば必ず混ぜてくれた。毒舌を吐くことくらいでしかコミュニケーションをとれない自分に嫌気がさしたが、鐸も魅甘のイヤミに全力でツっこんでくれる。
諦めていた日常。魅甘は忘れられたくないと思った。
獣族が街に出没するようになり、瀬雅と共に行動することになった。
いろんな話をした、これまでの人生の話だ。どんな学校で、どんな話をしてきたか。瀬雅は暗いわけでもなく、切れ長の目に高めの鼻。細めの身体だがあの運動神経をみるに相当な密度の筋肉を持っている。魅甘から見ても整った外見をしているのに、鐸や自分以外とはあまり関わろうとしない。
瀬雅の話を聴いていても、必ず空白の期間が存在する。懐かしむような、後悔しているような表情から伏せておきたい過去があるんだと察した。だから魅甘も自分の身体のこと、能力のことを伏せて自分の呪いを"影が薄い"とだけ話した。
獣族との戦闘になったとき、自分の家を瀬雅は護ってくれた。魅甘自身が変身して戦おうと考えた時には既にコボルトは引いていた。
そして、上位種ルミ・ティイケリとの闘いで、魅甘は瀬雅の秘密を知った。
米村瀬雅は自分と同じ怪人の身体を持つ人間だと知った。
護るべき人間の手によって怪人にされたという瀬雅は、それでも"ヒーロー"であった。
ルミ・ティイケリを救って見せたころには、米村瀬雅という存在が眩しく映るようになっていた。
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『俺は、お前を忘れたりしない!!助けに行くからな!』
ビルの上を渡りながら、白い薔薇の怪人はこれまでの記憶をひとしきり振り返った。米村瀬雅は魅甘の中で大きい存在となっていた。
東区で過ごした半日は楽しかった。人形のような無表情で固まった顔がほぐれだしたのはきっと、瀬雅のおかげだ。
きっと彼は求めれば理想的な結果を返してくれる。ルミ・ティイケリを倒すのではなく、救ったように。実際、正体を明かした魅甘に困惑していたものの、力になろうとしてくれていた。瀬雅は本当に優しい人間だ。
「でも、できれば…………」
魅甘の目に大粒の涙が浮かんだ。無表情、人形のようと評される顔がくしゃりと歪む。
「セガには、見られたくっ、なかったなぁ……」
視界が霞み、溜めきれなくなった涙がボロボロとこぼれだした。
走り続けることができなくなり、適当なビルの屋上で立ち止まった。
最も忌むべき、根絶やしにしてやりたいと思っている植物族。自分自身が穢れた身になり果ててしまっているということ。
別に誰に忘れられても構わない、正体がばれたって構わない。植物族への復讐を果たして最後に自分も死ぬ。
己の過去を悔い、家族への墓参りにもいけない魅甘はそう決めていた。
しかし、瀬雅はそんな自分に希望を見せてくれた。
そんな瀬雅に、自分自身の最も穢れている部分をみせることがどうしても嫌だった。
だからプラッディ戦でも遂に変身することができなかった。そして瀬雅は生死を彷徨った。植物族が再び動きだしていると知ったとき、魅甘は決意をあらたにした。
"もう誰も巻き込まない。自分の命1つで植物族に復讐を果たしてやる。"
固有能力をつかった死角からの奇襲。当然使うたびに誰かの記憶から魅甘が消えていく。
瀬雅に、新たにできた居場所に忘れられていくのは辛かったが、死なれてしまうよりはるかにマシだ。
ならばせめて
「"人間"のまま……忘れて欲しかった……っ」
しゃがみこんで膝を抱える、震える肩を月明りがよく照らす。
どのくらいそうしていただろうか。実際は数分もたっていないだろうが、魅甘の頭の中は様々な記憶がごちゃ混ぜにぶちまけられて感覚を鈍らせていた。
しばらくの後、魅甘は静かに立ち上がる。その顔に涙はない。
後悔してももうどうしようもない。戻れないところまで来ているのだ。
魅甘は身の丈程もある鎌を再び握り直し、夜空をかけ始めた。どんなに辛くとも、悔いが残ろうとも、既にやることは1つだけ。
植物族のトップである上位種シュルーム。尋常ならざる戦闘能力に、魅甘にとって絶望的な固有能力。
そんな不利な相手への勝ち筋は、能力を使い続けて己の存在を限界まで薄めることしかないのだから。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
次話投稿は明日15時です!ぜひ(#^.^#)




