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正義の条件  作者: ありと@
第2章『白い薔薇の少女』
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23.白い薔薇の怪人

スマホ投稿だったので、色々読みづらい部分を修正しています!


 南区のビルの一室、満月が照らすその空間で2人は見つめ合っていた。瀬雅の頭は混乱でまともに機能していない。



 彼女はフード付きの白いコートを着ているが、その下には薔薇をモチーフにした丈の短いドレスと、刺々しい装甲が見えている。

 腰から生えた棘のついた尻尾と鋭く尖った指は、装甲なのか彼女自身の体なのかわからなかった。

 そして、普段の質素なヘアゴムの代わりに着いた白い薔薇。






―― "死神"の正体は、"白い薔薇の怪人"麦町魅甘であった。





 再び訪れた沈黙は、魅甘が切り出したことによって途切れた。





「……6歳のとき、私は怪人にされた。」


「お前も俺と同じ……?」


「ううん。私を怪人にしたのは植物族の長、上位種(ゼラ)シュルーム」


「シュルーム……」




 彼女も人間から怪人にされていた。瀬雅はその事実に驚きつつ、先ほどまでのガザミの怪人の持っていたカプセル状の薬が何なのか、なんとなく察しをつけた。



(タンポポは偵察用、ガザミはカプセルをつかって麦町みたいな怪人をつくりだすのが目的なのか……?)



「じゃあガザミの怪人を殺していたのも……」





 魅甘は手を翳す、するとなにもない空間に白い魔力が集まっていき、彼女の身の丈より大きい鎌が生まれた。骨でできているような白く無骨なその鎌は毒毒しく、瀬雅の背筋に冷や汗を流させた。



「死んで世界に還った怪人は、新たな魂を宿して生まれ変わる。」



 忌々しげに告げる魅甘。



「植物族は滅ぼす。生まれ変わることも許さない。」




 強い覚悟、復讐に囚われた目。手に握られた鎌は、怪人形態の瀬雅の翼のように魅甘の怪人としての身体の一部なのだろう。


 恐らく、あの鎌は魂にダメージを与えるものだ。ガザミの怪人の中身を殺す。そうすれば死体が消えることはない。




「あの家は……家族もその、シュルームに?」



  瀬雅は考える。これほどの憎悪は自分だけが酷い目に遭っただけではない、家族もきっと……いつしか護った魅甘しか住んでいない家を思い出した。しかし魅甘は答えない、寂しげな顔を浮かべるのみである。



 いずれにせよ魅甘の、そして"死神"の目的は分かった。彼女は人間に敵対することはない、むしろ味方だ。




「なあ麦町、俺と一緒に戦うんじゃダメだったのか?仮にお前が怪人でも力になってくれる奴はいる。俺だって、きっと五十嵐だって。」




 瀬雅は自分自身が怪人だ。五十嵐はその瀬雅の正体を知っても訓練してくれている。確かに怪人は人間に敵対している。だからといって行方不明になって1人で戦う必要があったのか。






 瀬雅の問いに対して魅甘の答えは。









 振り下ろされた鎌(・・・・・・・・)であった。




「!?む、麦町っ!」





  咄嗟のことだったが、半身になって躱すことに成功する。しかし動揺は死神の正体を知ったとき以上だった。




 鈍い破砕音と共にビルの床のタイルが弾ける。魅甘は地面から抜いた鎌を躊躇いなく横薙ぎに振るう。




「待て!俺は戦う気は……」



 ない、と言い切る前に鎌が瀬雅を襲う。立ちブリッジの要領で横薙ぎを回避する。



 魅甘は空を切った鎌をそのまま振り切る。この部屋はオフィスだったらしく、PCや机上の機器が派手に吹き飛んだ。そして遠心力で流れる体をそのまま回し蹴りに使って見せる。


 明らかに以前の魅甘とは別次元の身体能力だ、怪人の肉体がそれを可能にしているのだろう。




 一方の瀬雅は立ちブリッジからマカコに移行してそれを躱した。魅甘はその回避を予想していたように呟く。




「"薔薇の鞭(ファウルネス・ソーン)"」



 魔力で象られたトゲ付きの鞭が回避を終えたばかりの瀬雅を襲う。プラッディを苦しめたこの技も以前とはまるで違っていた。



 何せ数が桁違いなのだ。前は鞭のように手で振るわれていたが、今の魅甘は腰の下あたりから生えた無数の尻尾を鞭のように振り回していた。




「っ!"非常用魔力剣"!!」





 その威力を身を以て知っている瀬雅は、作戦開始時に使用許可を得ていた非常用魔力剣を振るう。

 事前にストックされていた五十嵐の金色の魔力が刃を形成し、鞭が接触する前に振り払う。刃を立てることにやや抵抗はあったが、あの棘が刺さると内側から爆発する痛みを味わうことになる。

 幸い、尻尾は魔力で出来ているようで痛みはなさそうだった。




「麦町!一体なんで」



 瀬雅は声を荒げる。今の数度のやり取りだけでハッキリと分かる。今の魅甘は強い、恐らくプラッディよりもずっと。



 更に強化されていると思われる並外れた魔力親和性に引き上げられた身体能力、これ以上回避するなら瀬雅も変身しなければならない。





 しかしそれはできなかった。怪人の姿でもって魅甘の前に立ち塞がること、これはつまり魅甘と本気で敵対するということ。そうしてしまうと、もう魅甘が戻って来てくれないような気がしたのだ。





 しばらく無言のままにらみ合う2人。何分か経ったのち、魅甘は構えを解いた。




「上位種シュルームの固有能力(M・アビリティ)は……"植物族を操る"こと。」



 植物族を操る……そう聞いた瀬雅は急に町内に発生したガザミやタンポポの怪人の姿を思い浮かべた。あれはそのシュルームという上位種の仕業なのか?

 だとすると人間を襲わせているのもそいつということになる。



 考え込む瀬雅に魅甘は目を合わせる。思わず引き込まれるような美しい目だった。自嘲するような僅かな笑みはどこか儚げで、麦町魅甘という人間の人生を想像させるものだった。










「……私も、植物族なんだよ?」









 分かるでしょ、と続きそうな台詞。それはつまり、自らもシュルームにいつ操られるか分からないということだ。



「だったら俺の固有能力で……」

「……だめ、私にはまだこの力が必要なの。」




 瀬雅の提案を途中で遮る魅甘。瀬雅の固有能力"正義の悪魔(ラグエル)"は、あらゆる呪縛を解除する。しかし、魅甘自身がそれを望まない限り効果がないのだ。





「シュルームは私が殺す。何としてでも。」




 決意を口にする魅甘、植物族のトップを倒すその為には、憎き植物族の身体だろうと必要なのだろう。

 瀬雅には彼女がどんな目に遭っていたかの全部は分からない。自らを生贄にしてまで復讐を果たそうとする魅甘。そんな彼女が瀬雅の助力を拒んでいる。






 そうである以上瀬雅には彼女を引き止めることも付いていく口上も思い浮かばなかった。



 瀬雅が黙り込んだのを見計らって、魅甘は話は終わりだとばかりに別れを告げた。





「この姿になって得た固有能力、"消えゆく少女(インビ)成れの果て(ジブル)"相手の認識から逃れる力。この力を使う度に私の存在は薄れていく。だから――」



――私を忘れて




「待て!」





 瀬雅が引き止めようとした時には既に魅甘の姿はなかった。たった今目の前にいたのに、これが彼女の固有能力なのだろう。まるで透明人間だ。





「俺は、お前を忘れたりしない!!助けに行くからな!」




 多分この場から既に離れて行っているであろう魅甘に聞こえるように出せる限りの大声を出した。その姿はまるで、さっきまで話していた魅甘の顔を思い出せない(・・・・・・)ことに焦っているようにも見えた。








 瀬雅の呼びかけに答える者はいない。月明かりに照らされたビルの一室に、白い魔力の残滓が輝いていた。







魅甘の固有能力名を追加しました!


ここまで読んでくださってありがとうございます!


次話投稿は明日の17時です!是非よろしくお願いします(OvO)

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