22.大和町調査作戦――月夜に逢う(挿絵有)
2016/11/11 挿絵を追加しました!
「助かりました……ちょっと店の在庫の確認に出たらいきなり……」
男は信じられないといった表情のまま震えている。彼はよく見れば商店街のラーメン屋の店主だった。瀬雅も鐸も何度か寄ったことがある。
複数の怪人にまとわりつかれるなんて中々ない経験だ。下位種とはいえ魔力の使えない者にとっては猛獣に襲われるような感覚である。あと一歩遅ければどうなっていたかわからない。
「お怪我はありませんか?」
確認のために五十嵐が尋ねる。大丈夫そうでもあとから痛みやケガに気づくパターンもある。事故等に遭った人は興奮状態になって痛みに鈍感なのだ。
「大丈夫です……奴らに拘束されたと思ったら、"アレ"を飲まされそうになって……」
男が指さす先に落ちていたのはカプセルであった。市販のもののような二色のカプセル、なぜそんなものを怪人が?瀬雅は疑問に思ったが、拾ってよく見てみるとそこには紋章が刻まれていた。
「これは……植物族の……!」
そう、カプセルに彫られていたのは花弁を象った紋章――プラッディの顔に刻まれていたのと同じものであった。
「危険なことは間違いないな……そしてガザミ型の怪人の目的もなんとなく見えてきた。」
五十嵐が瀬雅からカプセルを受け取る。恐らくガザミの怪人はこの謎のカプセルを町内で人間に与えているのだろう。それも騒ぎにならない規模で。
「行方不明って……」
鐸が呟く。このカプセルが何なのかは分からないが、各ブロックから数名出ている行方不明者は少なくともこのカプセルを飲まされているだろう。
「俺はこのことを通信で報告する。金堂は今と同じように、襲われている人がいないかに絞って索敵してくれ。」
「は、はい!」
大役を任されてしまった鐸は上ずった返事をする。五十嵐が報告をいれた結果、すぐに情報の共有ができた東区は他のチームに任せ、南区で襲われている人間がいないかの調査に回ることになった。
「とにかくこの人の避難が先です。安全なところまで。」
ガザミが人間を襲うことが発覚した以上、住民の避難も考えなければいけない。とりあえず3人は東区の緊急時に使われるシェルターへ男を連れて行った。
――――――――――――――――――――――
――大和町外北部
瀬雅が町内で怪人から一般人を助けた頃、町外調査のチームも数名毎に同心円状に広がっていた。大和町の外は怪人が自由に往来する領域である。
特に大和町の周辺は植物族のテリトリーだという説が有力であった。
今回の調査作戦は、町内に大量発生している植物族が何か大規模な侵攻の前触れではないかという危惧から、植物族のテリトリーを探索することを主眼としている。
軍でも編成されていたらヒーローと植物族の正面衝突の準備を速やかにしなければならない。
そして、旧佐渡島の方向には天野学園次席の重鳴灯、第三席の紫芽式乃、第五席の金堂鏡、そして三大ヒーローの"狂い月"黒崎純子の4人が偵察を進めていた。
「あーめんどくせぇ……植物族がいても戦闘を避けろなんてキャラじゃねぇよぅ!」
第三席紫芽式乃が隠密行動に飽きたと地団駄を踏む。攻撃的なつり目は更に吊りあがり、活発さを思わせるハネたショートカットがブンブン振られた。
背が低い式乃はその短気な性格と相まって中学生に間違われることも多い(ただし間違った相手は無事では済まないが)
しかし、実力は本物で天野学園のナンバースリーを張っている程である。彼女をわがままをなだめられるのは
「ちょっと、大きい声を出さないで。」
「そうだ紫芽、落ち着け。」
彼女と同じ"6人の例外"に数えられている灯や鏡か
「ねぇねぇ、君たち大丈夫そうだからやっぱり大和町戻っていい?」
もっとわがままな大人だけである。
「く、黒崎先生?そんな勝手が許されると……」
「そうですよ先生!」
「ずるいぞセンセ!ウチだって我慢してるのに!」
三者三様の慌てぶりを見せる鏡達、特に次席の重鳴灯はがっしりした体格に180cmを超える身長の持ち主だ。かつてコボルトから瀬雅達を護った彼の堂々とした態度からは想像もつかない慌てぶりである。
「まぁまぁ、実際ここまでなにもないし歩いてるだけだし……ボクがいなくてもいいじゃん?」
町外は廃墟そのもので、瓦礫やひび割れた道に苔や蔦がついているような光景が広がっている。歩きにくい上に黒崎達は現在ただ探索しているだけである。町内の方がまだタンポポやガザミが居る分戦いになるのではないかと全員思っていた。
「ということで、ボクは先に帰りまっす♪」
決めたら即実行!と言わんばかりに黒崎は手を振ると空間を歪めはじめた、使用禁止のはずの固有能力だ。
「ちょっと先生!?」
鏡は青い顔をして黒崎に駆け寄ろうとする。こちらも普段は凛とした表情が似合うだけに取り乱した姿は珍しい。慌てたときの表情は弟に結構似ていることも知られていないのだ。
そんな鏡の慌てぶりもむなしく天邪鬼黒崎は歪んだ空間に体を滑り込ませる。
「まぁ、何もないだろうし何かあってもキミ達強いし。それに――」
黒崎は目を細める。あの三日月のような怪しく美しい微笑みだ。
「町の中の方が楽しいコトになるだろうし♪」
困惑する3人を置いて黒崎は空間の歪みの中に消えてしまうのであった。彼女の行方を知る術はもうない。
「あのセンセー能力制限とか守る気ないんだな……」
「そうね……報告しないとまずいのかしら……?」
「この理不尽さを正直に伝えないと俺たちの責任になるというのか……」
3人は後で責任が飛び火しないかヒヤヒヤだ、最初我儘をいっていた紫芽でさえ黒崎の身勝手さに唖然としている。
そのせいで彼女たちは気づいていなかったのだ。
廃墟の彼方に巨大なリュウゼツランの怪人が蠢き始めていたことに。
――――――――――――――――――――――
――大和町南区
大企業が本社を構えるこの南区では文字通りビルが林立していた。いつもはネオンのように輝く夜の電気も、事前の連絡でほとんどが真っ暗になっていた。
「おりゃあ!!」
瀬雅の声が暗いビル街に響く。案の定東区の商店街のように暗闇の中襲われている人がいたのだ。幸いガザミの怪人の戦闘力は瀬雅よりはるかに劣る。襲われかけていた若い女性を無事救出できた。
「あ、ありがとうございます、ありがとうございます。」
女性は長い髪と眼鏡で隠された顔をお辞儀で更に見えなくしている。
「結構外出してる人がいますね……」
「まぁ、禁止にするほどの権力はないからな。」
各ブロック長の指示は"今夜極力外出しないこと"であって外出禁止ではない為にこうして出てきてしまっている人がいるのだ。
「じゃあ、彼女も避難させる……待って、まただ!」
鐸が声を上げる。どうやら探知能力に新たに襲われている人が引っかかったようだ。
「またか!どこだ金堂!」
「避難場所の反対側だ……」
一般人である彼女を連れて戦うことはできない。かといって送り届けてからになると襲われている人が無事かわからない。
「……よし、ならば金堂と俺は彼女を連れて行く。米村、お前が先行しろ。」
「はい!」
戦闘力的に鐸には五十嵐がついていなければならない、自然と瀬雅が向かうことになった。決まると同時に瀬雅は駆け出す。鐸と五十嵐も救出した女を連れて反対方向へ走った。
―――――――――――――――――
1本の街灯が照らす狭い道、そこに男がうずくまっていた。彼は無事だったが震えている、無理もない。男の周りには切断されたガザミの怪人の死体が散乱していたのだから。
「大丈夫ですか!?」
「!?ひいいいいいいいいい!」
瀬雅が声をかけると男は跳ねるように驚き、更にうずくまってしまった。よほど恐ろしい目に遭ったのか?
「大丈夫です、天野学園の作戦行動であなたを救出しにきました。」
「天野学園の……?よ、よかった……」
瀬雅が生徒手帳を翳しながらやさしく語り掛けると男はようやく表情を和らげた。ヒーローを養成する天野学園の肩書きはこういう時非常に役に立つ。
「この死体は……いったいなにがあったんです?」
瀬雅は幾分か落ち着いた男に問いかける。"怪人の死体"は瀬雅が倒しても決して残らない。人を襲うガザミを誰かが更に襲ったのだ。その想像の答え合わせのように男は呟いた。
「あれは……死神だ。あんなおぞましい鎌、見たことない。……助かりはしたがあんなものを目の前で振り回されて……魂を削られた気分だ。」
「死神……」
会議で言われていたように白いコートを着た"死神"が怪人の死体を作り出している張本人で間違いなさそうだ。
「そいつはどこに?」
「ついさっき、あっちに――」
男が指さす方向は暗いビル街だ。しかし、瀬雅の並外れた視力はその中で建物の上を渡る白い人影を見つけていた。
「あいつが"死神"――」
遠くに走り去る白い影を見た瀬雅は一瞬の迷いの後、追いかけることにした。幸い他のグループのヒーロー達が駆けつけたところだったので男を預ける。
ヒーロー達に説明を求められたが、そんな時間はない。あの"死神"の目的はなんなのか、自分たちにとって敵になるのかを確かめなければ。
瀬雅は瞬時に跳び上がる。回り道をしている時間はない、持ち前の身体能力を駆使して塀を駆け上がり低い建物から少し高い建物へ、そして更に高いところへ――
屋根の上を跳び、走って白いフードつきコートを着た何者かを最短距離で追いかける。途中でフードが瀬雅を振り返った、ばれた。
前を行く死神は、鎌をどこかへ霧散させると加速した。忍びのように空を駆ける2人。満月がやけに鮮明にその様子を照らしていた。
流石は瀬雅というべきか、スピードは互角であったが、ルートの選択が瀬雅の方が上手く、まっすぐに進むことで距離を詰めていく。
死神は逃げられないと悟ったのか、はたまた誘導していたのか。ふいに道路に降りると暗い色のビルに入っていった。
「待てこのッ!」
瀬雅も数秒遅れてビルに入る。思ったより中が真っ暗で脚を鈍らせているうちに、ガザミの怪人が瀬雅にとびかかってきた。
「おらッ!!」
拳を振るってガザミを倒す。瀬雅の中ではガザミは人間を襲う危険な怪人という認識だ、遠慮はない。怪人は壁に叩きつけられると霧散して消えた。
「暗いな……、でも上に向かうしか。」
鐸と行った建物の中での訓練を思い出す。力はこめすぎずに速く鋭く、階段を駆け上がって気配を探る。
鐸程の精度はないが、死神がいるかいないかを確認し更に上へ。
途中ガザミの怪人が幾度となく襲ってきたが、小刻みな攻撃で的確に倒し、霧散させる。同じくらい怪人の死体も散らばっていたがそれは回避した。
そして、何階まで登ったか分からなくなったころに、月明りがよく入ってくる部屋にそれを見た。
白いフ―ドに覆われた"死神"が窓を開けて月を見ていた。遠目からでは分からなかったが、コートの下には鎧のような物を身に付けているのか、ところどころが不自然に膨らんでいた。そして、腰より下、コートの裾から尻尾のような何かが沢山伸びていた。
「いや、あれは――植物?」
尻尾のようなそれはところどころに棘のついた蔦のようにも見えた。怪人――異形の姿が瀬雅の警鐘を鳴らす、瀬雅は確信した。間違いなくこいつがガザミの死体を量産していた張本人だと。
入口からその背中を見つけた瀬雅は弾む心臓を落ち着かせ静かに問いかけた。
「お前は一体……何者だ?」
「……分からない。」
「っ!」
綺麗な声だった。聞く者に安らぎを与えるような高く優しく、寂し気な声。瀬雅の問いに答えた"死神"がゆっくりと振り返る。満月がつくる逆光でフードの下の顔がよく見えないが、正面からだとコートの下のシルエットから女性らしいことが分かった。
「う、そ……だよな?」
ガンガンと瀬雅の脳が脈打つ。死神は窓枠に腰掛けるとゆっくりと、ゆっくりとフードを脱いだ。
瀬雅は震える。
「な……な……。」
言葉が出ない、脚が動かない。これは恐怖でも武者震いでもない。
コートが風に僅かになびく。フードの下から出てきた薔薇の髪飾りでまとめられた髪もふわりとなびいた。
瀬雅の視界から色が抜け落ちる。月明りと"死神"のギラつく目だけが輝いて見えた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
硬直する瀬雅と無言の"死神"続く静寂に瀬雅の頬を冷や汗が伝う。やがてそれがポタリと音をたてて落ちた時――
ゆっくり、優しく、しかし責めるような口調で"死神"が語り掛けてきた。
「寮に居てって言ったのに……セガ。」
ここまで読んで下さってありがとうございます!
伏線をひろっていくぞー!
次話は明日15時です!是非(^^♪




