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正義の条件  作者: ありと@
第2章『白い薔薇の少女』
43/85

20.さよなら

ブクマありがとうございます( ;∀;)

増えてると本当にうれしくてやる気でます!


「どういうことだよ、麦町!今まで何してたんだ!」



 学園の敷地内の男子寮の前、瀬雅の前に現れたのは艶のある黒髪を横でまとめた少女、麦町魅甘であった。現在行方不明だと思われている魅甘を前にして思わず瀬雅の口調も強くなってしまっていた。とにかく無事だったことに安堵しつつ寄ろうとする瀬雅に




「近寄らないで。」




 ピシャリ、冷たく言い放った魅甘。強い意志を感じさせるハッキリとした口調に思わず瀬雅は止まってしまう。



「どうしてだよ麦町。」


「……忠告。明日はどこにも行かないでほしい。」




 瀬雅の疑問には答えず用件を切り出してくる魅甘。その内容は明らかに明日何かあることを知っている口ぶりだった。



「……誰から聞いた?」





 瀬雅は思わず警戒する。大和町内外の調査作戦が明日の夜行われることは全校集会に居た生徒しか知らない。





 いや、瀬雅が作戦に加わる(・・・・・・・・・)ことを知っているのは会議に出席していた者だけである。


 無意識の内に半歩下がってしまった瀬雅を真っ直ぐ見つめ、魅甘はゆっくりと形のいい唇を開いた。




「……黒崎先生から、聞いた。」



「なっ!?」





 最も聞いてはいけない名前が出てしまった。行方不明だと思っていた魅甘、いや、実際今この時まで誰も魅甘を見つけられなかったのだから、行方不明だったのだ。しかし黒崎は魅甘とコンタクトを取っていた――自由に魅甘と接触できるのに、会議では何も言わなかった。


 もし魅甘と黒崎が接触できることを知っていたら、行方不明ではないと知っていたら瀬雅はこの作戦に参加しただろうか?その事実を隠したまま瀬雅に魅甘が行方不明だと知って作戦に加わろうとする瀬雅を後押ししたのも黒崎だ。一体何を企んでいるのか?


 大和町三大ヒーロー、それは大和町が平和である象徴でもある。その1人である黒崎純子を不信に思わなければならないことに瀬雅は恐ろしさを覚えた。



 そして、黒崎と作戦の情報を共有していたという目の前の少女――魅甘も一体何を考えているのか、瀬雅には見当がつかなかった。探していた人に疑いの目を向けている自分が一番信じられなかった。






「セガは、怪人は嫌い?」





 唐突な質問。意図が分からないが答えはすぐに喉を通ってくる。なにせ自分だって怪人の身体を持っているのだから。



「嫌いじゃ、ない。」

「なのに戦うの?」




 次の質問の意図は分かった。嫌いでもない怪人と戦うことになる作戦にどうして参加するのかと。




「護りたいものがあるから。それを傷つけるヤツとは戦う、怪人とか人間とか関係ない。」




 麦町、お前を――とは言えなかった。魅甘を護るためにコボルトと戦いプラッディと戦い今回の作戦に加わった。そんな自分が今は魅甘を前にしてその無表情を警戒してしまっている。



「……そう。」




 魅甘は瀬雅の答えに嬉しそうな、悲しそうな表情を浮かべた。



「セガは優しいんだね。」

「え?」



 突然褒められて呆けた声を出してしまう瀬雅、魅甘は独り言のように続ける。



「この町の人はみんな怪人を嫌ってる。大切な人を奪われたから。逆にルミは人間を嫌ってた、同じように人間に誇りを穢されたから。セガだってあの戦争の最中に居たのに、アナタは無条件な負の感情をもってない。」




 瞳にはどうして?と疑問が浮かんでいる。瀬雅は聖人でもなんでもないただの改造人間だ。大事な人を傷つけられれば怒るし、プラッディのような命を命とも思わないやり方に反吐がでることだってある。


 しかし個人に対して怒りや嫌悪感を覚えても、それが怪人全体とか、人間不信とか、無差別に負の感情が湧き上がってくることはなかった。



「アナタは優しい、でも私は違う。セガのいうことは分かる。でも植物族は別、あいつらを見るだけで無条件に心が黒くなる。」




 魅甘は身震いをする。何かを思い出しているのだろう。




「一体何があったんだ?」



 瀬雅が怪人の身体だと知っても態度1つ変えなかった魅甘、連休のお出かけで色んな表情を見せてくれた魅甘。そんな魅甘がここまで嫌悪感を表すなんてただ事ではない。しかし魅甘は瀬雅の質問には答えてくれなかった。




「私のことは忘れてほしい。」


「そ、そんなことできるわけないだろ!」



 反射的に答える。ハッキリ言って瀬雅の心の中の魅甘は一ヶ月前よりずっと大きくなっていた。人形を思わせる無表情な転入生。そんな彼女の新しい一面を知る度に楽しさ、護ってやりたい、背中を護ってもらいたい。そう思うようになっていたのだ。


 時間こそ短かったが、天野学園の一ヶ月はそれほどに濃密であった。



「でも、プラッディと戦った日より、薄くなってるでしょ?」

「!」



 瀬雅は何も言えなくなる。プラッディ戦で互いに命を懸けて護りあった仲だ、魅甘のことを最高のパートナーだと今でも思っている。



 しかし、作戦行動に加わることになったとき。鐸と、魅甘以外のパートナーと組むことになったとき、瀬雅は一瞬でも魅甘のことを考えただろうか。



 答えは分からない。いや、分からなくなってしまっていた。魅甘はそんな瀬雅に続けた。



「もし、時間がたって、セガの心から麦町魅甘が消えてしまっても、それはセガのせいじゃないから。」

「そんな!そんなこと言うな!!俺は違うぞ。お前を空気のように思ってきた人たちとは違う!   俺は麦町魅甘を忘れたりしない!」







 自分に言い聞かせるように怒鳴る瀬雅。行方不明になった魅甘を心配するクラスメイトは非常に少なくなっていた。いつの間にか空気のように気にもとめられなくなっていく、魅甘が言っていたことだ。

 自分は違う。魅甘がどんな人生を、どんな苦労を歩んできたのかは知らないが共に過ごした時間を忘れることなんてあるものか。そんな瀬雅の決意を聞いた魅甘は






「……あり、がと」

「麦町……」




 泣いていた。



 今まで瀬雅が見たことのない笑顔で。


 今まで瀬雅が見たことのない赤い頬で。


 今まで瀬雅が見たことのない涙で。


 彼女の顔は一杯だった。ひどく悲しい笑顔を前に瀬雅は再び何度目か言葉を失ってしまった。






「……セガ、明日は寮に居て。」



 やがて魅甘はもう一度用件を告げる。明日の作戦に参加するなと言っているのだ。



「でも」

「私が植物族もなんとかする。みんなも護る。大丈夫、私はセガを護るから……。」




 何度か聞いた台詞だ。

「だから明日は寮に居て。お願い。」


「麦町、お前は一体何をするつもりなんだ。」





 瀬雅の問いに魅甘は涙を制服の袖で拭い、また溢れた涙を反対の袖で拭い、すぐに一杯になってしまう目じりを何度も何度も拭い、最後に答えた。















「植物族を消して、私も消えるよ。」














「むぎ……まち?」












    「――さよなら。」
















「麦町!!!!!!!!」




 手を伸ばし、去ろうとする魅甘の肩を強引に掴もうとする瀬雅。全く意味が分からない、こんなさよならがあってたまるものか。





 しかし瀬雅の伸ばした手は、魅甘の肩に触れることなく空を切った。






「え――」






 風が吹いた。寮の付近は林だ、春の温かい風が木々を躍らせた。葉が擦れる音の中、寮の前で1人立ち尽くす瀬雅。




 目の前にいたはずの魅甘が、瞬きもしていないのにいつの間にか消えていた。

前話とは打って変わってシリアスに


ほんとに同じ人が書いてるんですかねぇ……(自己批判)

次話投稿は明日17時です!よろしくお願いします(^^♪

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