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正義の条件  作者: ありと@
第1章『激突する憎悪と正義』
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4.スーパーと怪人

なんとか日付が変わる前に間に合った……。どんどん字数が増えているんですがそれは。

――天野学園2-C


「はじめ」


 短く告げる担任。金髪に切れ長の目、どうみても教員の外見ではない。天野学園は怪人と戦うヒーローを養成するという手前、実力ある現職や引退した戦闘員が教員として配置される。故に個性的な人物が多いのだ。


 瀬雅達がスーパーで肉の獲得に失敗した翌日、今日は朝から学力テストの日である。担任である男は開始の合図を最後に教室後ろに陣取り朝刊を読み始めてしまう。


(ほんとに自由だな五十嵐……)


 瀬雅は内心で担任に愚痴りつつもテストに目を向ける。


『100! の末尾の0の個数を求めよ。』


(??? 『たくさん』っと)





 米村瀬雅の学力は残念というほかない。『世界遺産○○を造ったのは主に何人か』という問いに対して『5人』と答えるレベルだ。


(分かんねぇな。体動かしてぇ)


 開始20分程でひとしきり珍回答を終えた瀬雅はさりげなく机に出していたハンドグリップで握力を鍛え始めてしまった。


「な に を し て い る 米 村」


「ッヒ!?」


 いつの間にか移動していた担任に丸めた新聞紙で叩かれる瀬雅。小太鼓のような音が頭の空っぽさの証明かと笑いを必死にこらえるクラスメイト一同。


「あとで説教だ。」


 学年トップレベルの身体能力を持ちながらも魔力が使えず、痛みに抑えた黒髪の下に脳は詰まっていない。そんな筋肉学生でも反応できない速度で移動する担任は流石現役ヒーローといったところか。


―――――――――――――――――――――――――


「ご苦労だった、明日からは通常授業だ。訓練は基本的に毎日あると思って着替えを持ってくるように。学校指定の体操着でも動きやすい服でも構わないぞ。」


 気だるげに連絡事項を報告する担任だが、ふと教室を見渡して言う。


「それから、最近また怪人の目撃例が増えている。昨日も大和町内で2件小競り合いがあった。有事の際は"生徒手帳"で速やかに連絡するように。」


 打って変わって真剣な表情で告げる担任。彼の説得力の前には2-Cの皆も耳を傾ける。



――放課後


「やっと解放された……」


「ドンマイセガ。というか普通テスト中に筋トレするか?」


「セガじゃねぇ。」


 テストを終えた瀬雅と鐸は今日の放課後をどう過ごすか考える。明日から過酷な毎日が始まる。午前授業の内に有意義に過ごすのは天野学園の生徒にとっては重要事項なのだ。



「セガくんよ。俺は再び戦場に趣きたい。」


「スーパーだな?」


「そう、今日は魚が安いんだ……」


「そうか、悪いが昨日ので早くも素寒貧だ。ついていくだけになるぞ。」


「すまないな、感謝する。」


「そんなそんな。それより普段通り喋ってくれ、キモい。」


「!?」


 こうして彼らは血なまぐさい戦場(鮮魚コーナー)へと繰り出すのだった。


――――――――――――――――――――――――


――大和町東区


 買い物というのは不思議なもので、人は常に何かを求める。故に東区の賑わいは毎日続く。そんな町中を鳥瞰している影があった。


「チチチチチ。こんなに餌がいるとワクワクするぜ。」


 不気味な笑いを浮かべる"それ"は明らかに異形であった。体中が灰色の毛で覆われ、鋭い爪とあらゆるものを齧りつくす前歯。更には丸みを帯びた耳。一見ネズミを連想させる特徴だが、その体躯は明らかに人より大きく、熊をも易々と捕食できそうな強靭さ、凶暴さを醸し出していた。



――――怪人



 人が名付けた、地球の生態系と大きく異なるそれ。血液の代わりに高密度の魔力を通わせた超生命体。その存在は10年前に顕在化し、何も知らない人間を蹂躙した。


 凶悪な"それ"は品定めをするように眼下に広がる人間()を見る。怪人の姿を認識している人間は未だいない。


 ネズミは小ささ故に栄養を溜めおくことが苦手で、常に餌を求めている。この怪人はクマのような体躯を持ちながら、燃費の悪さはネズミのそれであった。


『ただいまより魚のセールを開始しまーす。お求めの方は中へどうぞ。』


 ふと呑気なアナウンスが響き、眼下に人間が集まってきた。そう、ここはスーパーの屋上看板の上。セールの時間になるとわざわざ餌が集まってくる。ネズミが昨日見つけた格好の狩場であった。


 間もなくセールが始まる。怪人にとってはチャンスであり、人間にとっては絶望へのカウントダウンであった。

 

――――――――――――――――――――――――


「良し!行ってくる」


「おう!生きて戻れよ金堂」


 セールが始まり、昨日と同じように主婦達の苛烈な争いが始まる。金堂鐸も鼻の頭の絆創膏を一撫でした後で戦線に加わる。


「うおおおおお!……あれ?」


 気合と裏腹にあっさりセール品が手に収まる。おかしい、昨日は半死半生だったのに。その時ふと思い至った。自分は昨日なぜ苦戦していたのか。


(セガが後ろからカートで殴ってきてたからじゃねーか!!!!)


 高級魚を獲得した喜びと親友への怒りに肩を震わせながら会計に向かう。













――――その瞬間、レジが消えた。



 いや、消えたのではない。飛来した"何か"が入口付近のレジをぐしゃぐしゃにしたのだ。飛んできたのが自動車だと気づくまで、鐸は若干の時間を要した。



「チチチチチ!!ここは売り物から客まで餌に困らねえなァ!!」


「嘘……だろ……」



 怪人。人外の膂力と大量の魔力をもつ超生命体。10年前、圧倒的な数の差があったにも関わらず人間は尽く踏みつぶされた。ネズミのような顔と熊を超える体躯を持ったソレが眼前に現れたのだ。


「うわああああああああ!!」

「か、、、怪人!!!」

「あ……あ……」

「ついに東区にまで」

「怖いよママ―!!!!!」



 一瞬の静寂のあと、店内は一気に悲鳴で埋め尽くされた。一般人では怪人の相手など不可能だ。赤子が戦車の砲撃を受け止められるものか。


 かといってそれは、ヒーロー候補生とはいってもCクラスの"落ちこぼれ"の金堂鐸がいたところでどうにかなるものではなかった。


 鐸の意識は突如現れた破壊の権化への恐怖――――ではなく、破壊されたレジにあった。


(レジには誰も並んでなかった。でも、パートの人が……!)


 目の前でまた(・・)人命が失われる。それは10年前の戦火を思い起こさせ、鐸の足を竦ませた。


(みんな……死んじまう!!)



「……ねどう。金堂!!!!」


「!……セガ」




 恐慌に閉ざされそうになった思考を黒髪が繋ぎ止める。鐸の横には女性を抱えた瀬雅の姿があった。




「パートさんは無事だ。まだ誰も死んじゃいない。」



 瀬雅は鐸に言い聞かせる。鐸が人一倍、死を恐れていることは知っている。



「セガ……俺、何もできねぇ……!」



 落ちこぼれであることが恥ずかしい。憎い。瀬雅は鐸の唇から血が滲んでいるのを見逃さなかった。



「金堂、この人は気を失ってる。連れて避難しろ。」


「え?」



 瀬雅はぐったりとした女性を半ば押し付けるように鐸に託した。

 鐸は突然のことに理解が追いつかないといった表情を浮かべる。瀬雅は落ち着けと前置きした後、もう一度口を開いた。



「いいか。この人をおぶって、皆を避難させるんだ。学園に連絡をして応援も呼べ。近くに天野学園の生徒が居ればすぐに混乱は収まる、とにかく逃げろ。」


「逃げろって……お前はどうすんだよセガ!」


 誰から襲おうか楽しそうに品定めを続ける怪人を睨み付ける瀬雅。鐸の予感は的中する。


「……俺が増援まで食い止める。」


「なッ!?」


 いくらなんでも無謀すぎる。熊より大きい怪人など、本来武装したヒーローがぶつかるものだ。Cクラスの、ましてや魔力がつかえない落ちこぼれが身体能力で何とかできる相手ではない。



「無茶はやめろ。一緒に逃げるんだ!」


「駐車場から自動車ぶんなげてくるデタラメな奴だ。それにあの反応、逃げ惑う様子を楽しんでやがる。踊り食いでもするんだろうさ。全員精肉コーナー行きなんてゴメンだぞ。」



 瀬雅の言うことは正しかった。怪人とは魔力を通さない通常兵器では傷すらつけられない存在。誰かが意識を引き付けなければ逃げられるわけがない。



「でも……それじゃお前が!」


「無茶はしないさ。俺しかできないことだ。」



 瀬雅は店内を見渡す。逃げる者、叫ぶ者、失禁するもの、諦めたように空笑いする者。

 ネズミの怪人は恐怖を煽るようにわざと人を襲わず店内を破壊していた。


 そして、隣で震える青髪の友人。



「金堂、俺は意外と人見知りだ。」


「……なんだよ……こんな時に。」


「避難誘導なんて苦手中の苦手。お前がやるならスゲー助かる。俺が。」


「!」




「この場でお前以外には頼れない。みんなを任せたヒーロー」



 いたずらっぽく犬歯を見せる瀬雅。



「ったくずるいぜそんな言い方、貸し1つだぞセガ。」


「セガじゃねぇ。瀬雅ライガだ。借りはどーやって返せばいい?」


「生きて再会、それでチャラだ。」



 軽口を叩く2人。だがその目は笑っておらず、目の前の絶望に向けられている。一定おきに聞こえてくる轟音、2人の意識はその度に"生き残ること"に集中していくのだ。



「まかせたぞセガ!!」



 気絶した女性を抱えて走り出す鐸。


 ネズミの怪人はこれまで以上に残酷な笑みを浮かべた。



「テメェに決めた!!最初の餌だァ!チチチチチ!!!」


「まぁ待てよ。」


「あァ!?」



 店内に避難を呼びかけ始めた鐸、そこに襲い掛かろうとしたネズミの怪人に不意打ちの蹴りが決まる。

後ろ回し蹴り。生身の瀬雅が繰り出せる最高の技だった。



「ッチ!イッてぇな。なんだテメェは!!」



 2mを優に超えるその巨体は、痛がる素振りを見せるもののふらつくこともなく瀬雅に向き直った。



「天野学園2-C米村瀬雅。 俺が相手だガチムチネズミ。」



 ヒーロー候補生と怪人の絶望的な戦いが幕を開けた。



 

誤字脱字のご指摘があるとありがたいです。


 ストックないけど、何時投稿くらいがご都合よいでしょうかね?

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