16.疑念
五十嵐に瀬雅と鐸が呼び出されたのはその日の放課後であった。
「噂の件に関して、お前ら2人に大事な話がある。」
職員室にな、と告げて帰りのホームルームを終える五十嵐に瀬雅と鐸は顔を見合わせる。真面目モードの五十嵐は碌な話を持ってこない、しかも噂の件――つまりタンポポやガザミが突然咲いたり消えたりする話だろうが――というのだから2人は嫌な予感を隠せなかった。
鐸は以前黒崎に言われたように瀬雅達が植物族の問題に巻き込まれてしまっているということ、瀬雅は以前戦ったプラッディ、そして不登校の魅甘のことを考えていた。
いずれにせよ話を聞きに行くしかない、2人は噂の件ということで集まる周囲の目線を感じながら言葉もなく五十嵐の元へ向かった。
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「五十嵐先生、来ました。」
「……なんですか?」
ある程度事情に察しが付いていて素直な鐸と、本当はすぐにでも魅甘の家に安否を確認しに行きたい瀬雅と。
職員室に集まった2人の態度にため息をついた五十嵐は、まずは瀬雅を話に巻き込む為に1つ情報を投下した。
「先日から、麦町の行方が分からなくなっている。」
「な!?どういうことですか!」
いきなり飛び出た情報に思わぬ大きい声になった。職員室中の視線が瀬雅に集まると取り乱していたことに気づき、半歩下がる。
「落ち着け、まずすぐに言わなかったことを謝りたい、すまなかった。」
躊躇うことなく頭を下げる五十嵐、三大ヒーローの謝罪など滅多に見れるものではなく、逆に瀬雅が恐縮してしまう。
「退院直後にいなくなるなんてのは流石に予想外だった。既に捜索は始まっているが、一生徒に伝えるには重大すぎる問題だ。分かってくれ。」
そう言われてしまうと瀬雅も何も言えない。そうですか……と拳を握るくらいである。
一気に萎えてしまった瀬雅を横目に鐸が質問する。こういう時の頭の回転の速さ、空気を察知する力は鐸の持ち味でもある。
「それで先生、麦町の件と噂の件何か関係が?」
「ああ、そうだ。明日、天野学園の教員、3年の上位6人によって会議が開かれる。おそらく、植物族が噛んでいると思われる今回の噂に対して大規模な調査が行われることになるだろう。」
淡々と告げる五十嵐、やはりタンポポやガザミは怪人だったようだ。瀬雅は魅甘が絡む話だと知って聴く気になっている。
「それで、俺らも作戦に加えておいて貰えるってことですか?」
「それをアピールするのはお前らだ。もし、麦町が植物族絡みのトラブルで行方不明なのだとすれば、調査中に探すのがいいだろう。」
五十嵐の言うことはもっともである。捜索が出ているのに発見できない魅甘は十中八九何かトラブルに巻き込まれている。
そして同時期に植物族の目撃情報が多発しているのだ。魅甘を闇雲に探すよりヒーロー達と共に作戦行動の中で探した方が安全で発見率が高いだろう。
「是非会議に参加させてください!」
「俺からもよろしくお願いします!」
2人の答えは決まっていた。瀬雅はもちろん鐸も町を脅かす恐れのある怪人が多発しているなんて状況は見過ごせなかった。
「その答えを待っていた。明日会議室でな。ちなみにこの話はどちらにせよ会議後に全校生徒に話される。今は他言無用で頼む。」
ホッとしたような顔で話を終わらせる五十嵐。2人は職員室を出ると緊張からかいつもの軽口をぶつけ合った。
「どうする?アピールつってもな、討伐経験のあるセガはともかく俺は……」
「鋭いツッコミができるってどう?」
「仮に俺が学園トップの実力者達の前でそれをアピールしたとしてどうなると思う?」
「まぁ極刑だよな。」
「いやそこまでは行かねえよ!!」
「ホラ、そういうやつ。」
相変わらず容赦ない瀬雅だが、今回は瀬雅が緊張を紛らわすためにそうしていると分かっているので応じる鐸である。
「あれ?キミ達どうしたの~。」
ふにゃんとした声がした。2人が振り向くと、案の定三つ編みを揺らしながら歩いてくる黒崎の姿があった。
「五十嵐先生に……呼ばれて。」
瀬雅が事情を伝えようとするが、五十嵐の"他言無用"がどのあたりまでなのかイマイチ分からなかったのでぼかす。
それでも黒崎は「ふ~ん。五十嵐クンがねぇ……」と顎に女性らしい手を当ててにやけている。しっかり内容まで察しがついたようだ。最も三大ヒーローである五十嵐と黒崎は情報のレベルも同等だし、黒崎も明日の会議に出るのだから当然だが。
「ふむふむ。このボクにも他言無用を守るなんて口が硬い子は好きだぞ~!!」
「!?」
「おわっふ!」
黒崎は突然感動したように2人の間に入るように黒崎が前から飛びついてくる。年齢より若く見える顔立ちだが"狂い月"と称される笑顔には艶があり、大人らしさはしっかりと立ち昇っている。黒崎ははっきりいってとても美人だ。三大ヒーローには容姿が端麗という条件があるのかもしれない。
そんな黒咲の両腕に絡まれている2人は、間近で感じる大人の香りに脳を痺れさせられる。純朴な反応は黒崎を喜ばせ、腕には更に力が入った。
グイと抱き寄せられ、黒崎の口元に両側の2人の耳がくっつきそうなほど近づいたところで彼女が周りに聞こえないよう囁いた。
「アイツは言ってないかもだけど最近植物族の死体が発見されてる。それも大量にだ。植物族だけでなく、得体のしれないナニカが動いてると国は踏んでいる。それとぶつかる覚悟があるなら明日会議に来て、ボクが口添えしてあげるよ……」
「怪人の死体って……」
鐸が呟き、瀬雅は目を見開く。怪人は死ぬと霧散する、死体など残らない。鐸はそのことにおどろいているのだろう。
瀬雅の驚きは少し違った。なぜなら怪人の死体は瀬雅が見たことのある者だったからだ。再び発見されたということは、偶発的なものではなく、誰かが意図的に怪人を殺しているということだ。
「それってどうい……」
瀬雅が尋ね返そうとしたとき、黒崎の姿はそこにはなかった。
「……金堂、お前はどうする。」
「行く……しかないだろ。」
町で蠢いている目的の分からない植物族。それを回っているナニカ。そのトラブルに巻き込まれていると思われる魅甘。瀬雅はもちろん、鐸の持ち前の正義感もやはりその状況を放置しておけない。
決意新たに帰路に着く2人。しかし瀬雅の頭の中には少しの不安と困惑、疑念が渦巻いていた。
(黒崎が進言してくれるなら俺らは作戦に加えてもらえそうだ。でも……)
黒崎が言っていた怪人の死体の話は五十嵐からは語られていない。そしてそんな噂も聞かない。重要な話だ、五十嵐が理由なく秘匿するわけがない。
ということは、恐らくこれは大和町――もしくはもっと上、国によって秘匿されている情報だ。そんな情報を黒崎は与えてきた。そして、その情報でもって「危険だからやめろ」というのではなく「作戦に参加できるよう取り計らってやる」というのだ。
(一体何を考えてるんだ……黒崎先生)
黒崎純子。戦争中に最も活躍したと言われる大和町三大ヒーローの一角。現在は2-Aの担任で去年は瀬雅の担任。そのつかみどころのない適当な性格から彼女の考えていることは分からない。
しかし、プラッディ戦で目にした冷酷さ、"狂い月"と呼ばれるほどの残忍性、普段の態度と全く一致しない彼女の両面を知った瀬雅は彼女の坑道にひっかかりを覚えたままその日を終える。
そして翌日。天野学園の上位者が集まる会議の場でもその先でも引っかかりは取れないのであった。
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