15.M・アビリティ
――深夜
男は夜の街を探索していた。仕事が終わり、気心の知れた同僚と飲みに行った帰りである。ごく普通の人間である男は、今町に広まっている噂が気になっていた。
「突然現れるタンポポ畑なんて本当にあるのかよw」
SNSの目撃情報を頼りにアスファルトだろうと水の上だろうと咲き乱れる花。そんな怪現象が自分の住んでいる町で起こっているなんて見に行かない手はなかった。実際男のように面白がって噂の真偽を確かめている者は少なくなかった。
「ん?あ!あれか!?」
道路の一角にらしきものを見つけて思わず駆け寄る。発見したからには写真に収めなくては。忽然と消えるらしいタンポポ畑の画像、SNSに投稿すれば伸びること必死だ。男も生粋の現代っ子であった。
「あれ?なんかしおれてる?」
近寄ってみると噂に聞いていた花畑とは差異があるように思えた。タンポポがしおれて、クズ野菜のようになっているのだ。
不思議に思って近寄ってみると、異変に気付く。タンポポだと思っていたものはよく見ると足が生えていた、根っこに見える部分の1つ1つが脚なのだ。そして微妙に動いている。
それは植物とは到底言えない、何かの死体の群れであった。
「ひっ!?」
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――天野学園2-C
翌日の天野学園には僅かな変化があった。瀬雅が登校してきたのだ。
「セガぁアアあああああああああああああ!!」
「うっせぇ!」
「おぅふ」
何日かぶりの登校に飛びついてくる鐸を見事な首トンでいなした瀬雅。教室を見回すと、まだ早い時間帯ということもあって数人がまばらにグループをつくって雑談しているだけであった。
「麦町さん最近きてないんだよ。」
瀬雅の目的が分かるのか、鐸が耳元で告げた。
「まだ意識があったのか金堂。」
「いや首トンで気絶する方がムズイって」
「待て、麦町来てないのか?」
鐸の言葉に違和感を覚える瀬雅。魅甘が瀬雅より早く退院していたことも、お見舞いに来てくれたことも病院の記録で確認してもらっている。なのにずっと登校していない?
「欠席の理由は分かるか?」
「それが全然。というよりあんま麦町さんの話題にならないんだ。」
鐸が言うには、最初は欠席を心配する声がそれなりにあったが日に日に魅甘の話題そのものが減っていっているそうだ。
昨日などは鐸や五十嵐が話題を切り出し、他のクラスメイトが思い出したように話に応じた程度だったと言う。
瀬雅は嫌な予感に背筋の悪寒を耐えられずにいた。プラッディを見た時の彼女の反応は明らかにおかしかった。何かが起きているのではないか?実際、今年度に入ってから怪人絡みの事件に巻き込まれる回数がかなり増えている。実践として郊外で怪人との戦闘に応じる3年生よりも頻度は上なのではないだろうか。
『同じクラスの子とかからも段々忘れられて、空気みたいになっていくの。』
「くそ、そういうことかよ……」
少女の言葉が頭をよぎる。自分や鐸が充実した時間を提供できればいいと思っていた。しかし、魅甘のそれはもはや影が薄いというレベルではなかったのだ。
すぐにでも探しに行きたかったが、家にいるのなら焦る必要はない、いないなら心当たりもない。変な所で冷静な瀬雅は、逸る気持ちを押さえつけて授業を受けるのであった。
――――――――――――――――――――――
「魔力っていうのは高密度なエネルギー体。だから燃料にはなるけど、それ自体に属性はないの!分かる~?」
授業が始まっても瀬雅の頭には内容は入ってこなかった。――もとからほとんど聞いていないのだが――今日の彼の頭は唐突に不登校になってしまった魅甘のことでいっぱいだった。
「だから、物語にでてくるように炎の魔術とか、雷ビリビリとかはできないの!なぜなら魔力は?はい金堂君」
「は、はい。魔力は無属性で、人間には普通、それを変化させる能力がないからです!」
「お~け~!流石日夜タイムセールに通ってるだけあるねぇ!」
「いや関係ないでしょ!ってかなんで知ってるんですか!?」
魔術理論の授業――大和町三大ヒーローの黒崎は教えることが上手であった。彼女の話は感覚派ならではの例え話や経験談が豊富で|生徒とのコミュニケーション《金堂鐸いじり》もあるため聞いていて飽きないものだった。
お勉強が苦手な瀬雅にとってもお昼寝のBGMには丁度いい、なんて言ったらプラッディのように切られてしまうのだろうか。
「だから魔力を運用するには身体の強化にまわしたり、障壁を張ったり、変形させてそのままぶつけたり、とシンプルになるんだよね。そして現在広く使われている基本魔術である魔力球や魔力壁を体系化したのが五十嵐センセ―やボクと同じ大和町三大ヒーローの――」
心ここに在らずといった様子で聞いていた瀬雅だが、次の話は興味のあるものであった。
「ただ!普通属性変換できない魔力だけど、それを用いて属性を持った現象を起こせてしまう人がいます!怪人にも人間にもレアなんだけどね。」
黒崎はそれを実演してみせる。黒板に手をかざすと一部の空間が歪み、黒板があるはずなのにその中に黒崎の手が入っていった。
「うおおお!」
突如頬に訪れた感覚に瀬雅は飛び上がる。撫でられたのだ。窓際後ろの方に視線が集まる。この褐色の手は間違いなく教壇に立つ茶目っ気のある三つ編みのものであった。
「ボクの授業を呆けた顔で受けるなんていい度胸だね~」
いじわるな笑みを浮かべる黒崎、咎める口調と全くあっていない。
「アンタ能力の使用国に禁止されてるでしょーが!!!」
「んまぁ硬いコト言わない♪」
つい熱くなる瀬雅だがお手本のような暖簾に腕押し状態にしぶしぶと座るしかない。こういうことが起こるからこの先生の授業はみんな真剣に聞いているのだ。明日は我が身。
「こんな風に、固有能力を持った者は魔力を媒介にして現象を捻じ曲げることができる。雷を出したり、空間を曲げたりね。」
実演を通した説明で生徒の理解も深まる、普通魔力を用いた術にあんな芸当はできない。生徒の反応をみて上機嫌に説明を続ける黒崎。授業も終盤というところで生徒の1人が手を挙げた。
眼鏡におさげ、典型的な委員長ルックの子だ。事実見た目だけでクラス委員長に選ばれたりしている。
「先生。固有能力はどういう条件で持つことができるんでしょうか?才能かと思っていましたが、先生のように後天的に入手した人も多いというので、条件が気になります。」
最もな質問だ。瀬雅が固有能力"正義の悪魔"に目覚めたのはいつだったか覚えていない。固有能力の発動条件は分かっていない、とされている。しかし、三大ヒーロー唯一の固有能力所有者である黒崎なら何か知っているのではないか。そんな質問に期待は高まった。
対して黒崎はゆっくり笑顔を作った。それは"狂い月"と称された怪しげな笑顔だ。そして片目を瞑り、人差し指を唇に当てた彼女は囁くのだ。
「ナイショ♪」
程なくして終業のチャイムが鳴った。
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