表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
正義の条件  作者: ありと@
第2章『白い薔薇の少女』
36/85

14.獣と人形と悪魔と


――大和町西区留置場



 娯楽の西区には自然、アウトローな問題が集まってくることになる。そうした問題を受けた国は、ここに捉えた犯罪者を収容する施設を構えた。



 それがこの留置場の表向きの姿だ。



 この施設の真の目的は一般人には入場を許可されない地下にある。

 戦争後にも各地に現れることがある怪人、彼らは魔力の恩恵を受け、岩を砕く腕力、銃弾を弾く耐久力、化石燃料で動く自動車では追いつけない速力を持つ。



 そんな怪人が一挙に押し寄せてきた場合、今度の戦争も切り抜けられるとは限らない。

 確保した怪人の扱いはとてもデリケートな問題なのだ。



 そこで、危険度の低い、あるいは危険度が高くても人間に比較的協力的な者はこの地下にて軟禁される訳だ。




 そして、地下の1室。特に重要度の高い怪人がいた場合に備えて造られたホテル調の空間に、先日初めて入居者が来た。




 夕方、面会が許されるギリギリの時間帯。その部屋の中ではビジネスホテルのような空間の中、テーブルを挟んで二人が話している所であった。




 片方は雪のように美しい白肌、輝く銀髪に宝石のような碧眼の持ち主、そこに存在するだけで美術品として価値がでるほどの美貌の少女、ルミ・ティイケリである。



 最初、この施設の職員――旧時代の軍人達は彼女を人間離れした美人と言っていたがそれは正確ではない。何故なら彼女は怪人であり、文字通り人間ではないからだ。



「オマエの話は分かった。……俄かには信じ難いが、悪魔の体を持った奴もいるくらいだからこの町はなんでもありなんだろう。それよりそろそろ座ったらどうだ。すっかり冷めてしまったが。」




 ルミはテーブルの向かいで立ったまま話をする相手に返答し、自身は優雅に白い脚を組んでいる。



 相手が話した内容が内容だったので、自分の紅茶に口をつける。やっぱり冷めていて、薄く美しい唇がへの字に歪められた。




「……それで、どう、ですか?」



 鈴のように儚い声がルミの向かいから発せられた。気遣いをやんわりと無視して話の続きを催促する相手にルミは眉を顰める。


 しかし、彼女が焦る気持ちも分からないではない。彼女の話が真実なら――



「短期間にそれだけ植物族の目撃例、ほぼ間違いなくアイツ(・・・)の仕業だろうな。」



 ルミは自分の推論を告げた。



「……シュルーム」



 ギリリという音が部屋に響く。なんだと思って顔を上げると、目の前の少女が歯を食いしばっていた。




 自分の人生を滅茶苦茶にした張本人が再び出てきたのだ、ルミだって目の前に自分を憤怒の実験台にした者が現れたら消し炭にしてやるだろう。



 目の前の少女の気持ちは痛いほど分かった。



「奴のことは獣族であるワタシの耳にも届いている。範囲内の植物族を自在に操り、情報を集める固有能力、おそらく今大和町で目撃されているというタンポポやガザミの怪人はシュルームの()だろうな。」





 植物族上位種(ゼラ)シュルーム、事実上植物族のトップに立つ怪人である。そんな怪人が、厄介な能力を引っさげて動き出した。



 しかもその目的が、目の前の少女の言うとおりならば……



「どうやら、植物族のトップはロクでもないという噂は本当らしいな」



 思わず溜息が出る。




「あいつは、必ず、私が殺す。」



 吐き捨てるようにルミの対面にいる少女が言う。頭の動きに僅かに遅れて横で束ねた髪が揺れた。



 ルミは更に溜息を深くする。少女の覚悟は凄まじい、文字通り命懸けの方法でシュルームの能力を抜けようとしているのだから。




「……迷っているのか。」

「そんなこと!」



 ルミの言葉にハッとしたように顔を上げる少女。咄嗟に否定の言葉が口から出たが、普段無表情なその顔に焦りが浮かべられている時点で説得力はなかった。

 だからルミは言ってやるのだ。




「いいや、迷っているのさ。自分の存在が消えていくのは慣れっこだ。でも、大切なものができてしまった。アイツの心の中から自分が消えてしまうのだけが心残り、だからこんなところに来た、違うか?」



 ルミの追撃に再び俯く少女、ルミの言葉を反芻しているのだろう。




「……もう行く。」



 しばらくの間の後彼女は告げる。再び決意を固めたのか、もう迷いはしないとその場から立ち去る黒髪の少女。



 彼女が幾度となく悩んで決めたことだ。ルミが反対する理由はなかった。


 反対はしないが、そんな悲しい未来を選択する彼女に、思違いを1つ正してやりたくなったのだ。



「オマエのその選択で1番傷つくのはオマエ自身だろう。ただ……」



 少女が脚を止める。ルミは真剣な、どこか寂しげな顔のままその背中に投げかけた。





「2番目に傷つくのは瀬雅だぞ。」





 意味が通じたのか通じてないのか、今度は脚を止めることなく少女は出て行った。






 薄暗い部屋の中、ルミは再び1人になった。




「全く、ここは恋愛相談室ではないのだがな。」




 冷えた紅茶が不味い。

 軽口に反してルミの表情はとても優しく、とても悲しげであった。







――――――――――――――――――――――


――大和町中央総合病院



 すっかり日が落ちた大和町、ビル群は日を反射し、夕日を反射し、月を反射する。時間帯によって違った綺麗さを見せる街並みであるが、月夜に照らされた病室というのも中々に風情があった。





「ん…………………」




 月明かりだけの病室で瀬雅は目を覚ました。見知らぬ天井というやつだ。緩慢な動きで体を起こすと辺りを見回して、自分が意識を失って運ばれたのだと理解できた。



「確か、プラッディと闘って……無事だった、んだよな?」



 意識を失う前の五十嵐と黒崎の言い争いを思い出す。一騎当千と言われた三大ヒーローが2人揃っていたのだ、彼らにどうにかできない事態ならとっくに自分は死んでいる。



 とりあえず無事であったことに安堵しつつ再び周囲に視線を巡らせると、ベッド付近のイスにかわいらしい――とは到底言えないぬいぐるみが鎮座していた。




「……麦町も元気になったんだな。」



 凶々しい笑顔のベルくんを手に取り微笑む、これがここにあるということは魅甘も既に退院して、お見舞いに来てくれていた、ということだ。



「強くならなきゃ、な。」



 ふと笑みが消える。瀬雅は思い出す、自分が不甲斐ないばかりに魅甘に傷を負わせてしまった。自分の正体を知って尚且つ一緒に居てくれる存在、瀬雅は彼女を守りたかった。



 もっと自分に力があれば。

 意識が戻ったからには退院だ。明日にでも早速五十嵐と魅甘と修行しよう。




 そう決めて彼は再び眠りに就いた、魅甘と訓練できる明日は来ないとも知らずに――



2016.11.16以下の矛盾を修正

誤)夕焼けを作り出す強い西日が照らす室内

 → 薄暗い部屋の中

 なんで地下の部屋に夕日が差し込んでるんだよw



ご意見ご感想お待ちしております!


次話投稿は明日17時。是非よろしくお願いいたします(^^♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ