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正義の条件  作者: ありと@
第2章『白い薔薇の少女』
35/85

13.侵略は根をはる草木のように

 翌日の大和町は何かおかしかった。


 何か景色が変わったり、人並みが増減した訳でもない。平日であり学校もある。



 金銅鐸も呑気に欠伸なんぞをしながら東区の駅に向かって歩いている最中である。



 人混み――電車の中になるとその異変はすぐに分かる。




「ねえねえ聞いた?あれ。」

「SNSで見たよ、タンポポ畑でしょ。」

「え、ウチはガザミって聞いたけど?」

「あちこちで突然咲いたり、無くなったりしてるんだってね」





 そう、変わったのはうわさ話、日夜様々な話が飛び交う社会ではあるが、昨夜あたりからSNSの話題は1つのうわさ話で持ちきりであった。

 噂になっているのは、大和町各地に突如咲き乱れ始めたタンポポや雑草。季節は春、普通だったら綺麗だね、今年は草花が多いね、で済む話であるが



(ふと気づいたらさっきまであった花がなくなってる、なんてホラー話になってるんだもんな……)



 鐸はにわかには信じられない話だと思った。しかし、確かめるに値する話だ。なにせ、昨日の朝自身もそのタンポポ畑を見ていたのだから。

 そして今朝、駅に向かう途中の大通りから路地裏に行ってみた。朝から1人で路地裏に入っていく不審者のように見られていたのは本人の知るところではないが、とにかく鐸は、路地裏奥の広場に入った。





 そして、そこには何もなかった。




(信じるしかねえよな……)



 こうして自身の体験を持って噂話に耳を傾ける鐸は、そのことを考えていたのだ。



(消えるタンポポなんた聞いたことねえ、なんなんだ?また何か怪人絡みの話なのか?)



 そうすると、瀬雅と魅甘の欠席もそれが関係しているのか?と思考の沼にはまっていく鐸。



 植物族上位種――プラッディが爆破事件の犯人だということは公にされていない。

 従って、瀬雅と魅甘の欠席の理由についても学園は黙秘せざるを得ない。


 連絡がつかないのは風邪でもひいて寮で寝こけているか、連休中のデートが上手くいきすぎてオールナイト米村と化しているかだと思っていたが、怪人絡みだとするとまた怪我をしたりしているのかもしれない。


 後半の想像は鐸のアンチリア充精神を燃やし、吊り革を破壊するかと思ったが、残念鐸の握力は29㎏だ。




「だぁ〜っ!分かんねぇ!!」



 考えても噂話から答えが出る訳がないのだ。青い髪を掻き毟り、意識を切り替える。電車内で突然騒ぐ天野学園の生徒も中々に話題になったことは別の話である。





――――――――――――――――――――――



――天野学園2-C


 今朝も瀬雅と魅甘は欠席していた。鐸の中では怪人のいざこざに巻き込まれた説と愛の逃避行説が半々くらいに育っている。



 連日の瀬雅の欠席を心配する者はおり、鐸と同様何かあったのか心配する声も多かった。


 ただ不思議なのは、魅甘の話をする人が少ない事だ。



 何かと目立つ瀬雅の話で持ちきりになるのは仕方ない、しかし、転入初日は魅甘を質問攻めしていた連中にしては少々無関心すぎるのではないか?



(みんな意外と冷めてんのな。麦町さんだってクラスの仲間だろーに。)



 鐸は馴染んできた2-Cが、今日は違うクラスのように思えて仕方がなかった。





 瀬雅がおらず、いつもの軽口の応酬がない事にやや不安を覚えながらも鐸は学園生活を送った。


 相変わらず授業は理解できるが実践できそうもない内容であり、休み時間は友人と適当に駄弁りながら過ごし、昼休みも偶然鉢合わせた姉に小言を言われたこと以外は平穏であった。



 その間も学園内はやはり消えるタンポポ畑の噂で持ちきりだったが、それ以外は何の変哲も無い日常、そこに変化が生じたのは放課後になってからだった。





「ちょっと顔かしてね〜♪」

「げ。」


 下校しようと歩く鐸は突然襟口をむんずと掴まれて圧迫された喉からは変な声が飛び出た。



「あ〜先生に向かって、げ、はないんじゃないの〜?」

「すみません黒崎先生」



 相も変わらず神出鬼没な人だと1つ嘆息して振り返る、そこにはジャージ姿の色黒の女性がいた。長い髪を三つ編みに束ねたせいか、ちらりと見える耳には三日月を模したピアスが光っている。



 2-A担任黒崎純子。教師らしからぬ緩んだ雰囲気は生徒にはいい意味で雑、などと評価されている人気者だ。

 女性にしてはむしろ身長は高いくらいだが、いつだったか男子生徒が親しみを込めて"ちびくろ"なんて呼んだ所、愛称として定着してしまっているくらいの人気っぷりである。ちなみにその男子生徒のその後はよく分かっていない。



 こんな緩い先生が戦場で"狂い月"と恐れられる三大ヒーローの一角だなんてにわかには信じられまい。兎に角、鐸はこの先生のつかみどころのない部分が少し苦手であった。


 だから要件なら早くしてほしいのだが



「ここじゃあれだから生徒指導室にでもいこ~缶コーヒーでも飲みながらさ♪」



 長話につかまってしまったようだった。




――――――――――――――――――――――


――生徒指導室


 文字通り生徒の指導の際に使う部屋だが、この天野学園においてここが使われる機会はそう多くない。したがって指導室とは名ばかりの小さい空き教室と化しているのだ。

 五十嵐や黒崎はここを生徒との雑談ルームとして使うのが好きだった。




「か、缶コーヒー俺が買うんだ……」



 流れるように2人分自販機で買わされた鐸は実際に出た金額以上に軽くなった気がする財布をしまった。



「まぁまぁ硬いこと言わずに~その辺に座ってよ♪」

「いや先生が指さしてる方向にはゴミ箱しかないんですけど……って今日は俺だけですか?」



 黒崎は最近、五十嵐が瀬雅と魅甘にしているように、複数の生徒を特訓していたりする。最も、黒崎の場合はちょっかいに近いが。

 鐸はネズミの怪人がスーパーを襲った際、ほぼ怪我人を出さずに避難誘導を完遂したことがお眼鏡に叶ったようだが、1人で呼び出されるのは初めてであった。




「う~ん。ヤバめの話だからこれ内緒ね?」



 対して黒崎はお茶目に舌なんて出して見せる。不覚にも可愛いなんて思ってしまった鐸は、黒崎が五十嵐と同年代であることを思い出し絶望する。そして、そんな鐸に語られたのは、噂の件であった。





「えっと、タンポポがどーたらって話は聞いてるよね?」

「あ、はい。かなり噂広がってますね。」

「そ。それ。まずボク達はほぼ植物族の怪人だと見てます。」

「……やっぱりですか。」



 その可能性は鐸をはじめ、"植物族"というカテゴライズを知っているヒーロー関係者であれば思いついていた話だ。黒崎はおお。話が分かる子は好きだぞ~と片目を閉じてから続ける。所作がいちいちかわいいアラサーだ。



「そしてね、今度対策会議が行わるの。大規模な掃討戦になるかもね。」

「ちょ、ちょっとちょっと!なんでそんな話俺だけに!?」



 あっさりと言う黒崎、本人が言うようにヤバめの話であった。三大ヒーローを始め、多くのヒーローの戦闘に制約がついている今、掃討戦をするということは学園のヒーロー候補生が主力になるということである。




「多分君にも参加してもらうことになるからねぇ。」


「!……セガと麦町さんですか。」



 鐸といえば戦闘能力においてCクラスの落ちこぼれとして名高い。そんな鐸に参加を促すのは、瀬雅と魅甘絡み以外に考えられなかった。




「やっぱり、話の分かる子は好きだぞ♪」


 それだけ告げると黒崎は出て行った。

ご意見ご感想お待ちしております!

次話投稿は明日7時。是非よろしくお願いいたします(^^♪

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