12.後悔1つ。決意1つ。
――大和町東区
駅前公園でプラッディが爆発騒動を起こした日から2日が立った。今日は連休明け、久しぶりの学園に胸を躍らせているのは2-Cも落ちこぼれこと金堂鐸であった。
爆発騒動は既に"謎の爆破事件―正体はテロリスト!?"なんて見出しでニュースになっていた。三大ヒーローである五十嵐の活躍でそれを被害0に抑えたことも大々的に報道されている。
正体はテロリストどころか人間形態の上位種で、被害0は「※ヒーロー候補生2名を除く」という注釈がついていることはもちろん知られていない。鐸も知らない。
鐸からすれば2日前に実施されたであろうデートの感想を直で聞くために敢えて瀬雅との連絡を絶っていたのだ。とめどなく溢れるおせっかい根性とリア充憎しの負の感情を胸に登校中なのである。
「しかし、Cクラスのヒーロー米村瀬雅と謎の転入生麦町魅甘かぁ。」
トレードマークでもある鼻の絆創膏を掻きながら呟く。あの二人は鐸から見てかなりお似合いである。人形のように可憐な魅甘はもちろんのこと、瀬雅も目つきが鋭すぎるのを考慮から外せばかなりルックスのレベルは高い。
「べ、別に羨ましくなんてないんだからねッ!」
高校生が登校中に吐くこの台詞は一体どこに需要があるのか。言っていて恥ずかしくなった鐸は誰にも聞かれてないよね?と朝まだ静かな東区の商店街を見渡す。
「あの~おはよう?」
「聴かれてた~……」
真後ろを向いたとき、目と鼻の先には美少女がいた。茶髪を左右でふわっとまとめた少女は、猫のような釣り目と人懐っこい笑みを浮かべる口元、背反するパーツが見事に調和していた。
魅甘のように完璧に整った美人顔というタイプではないが、愛くるしい印象を与える子である。彼女は柔らかに吹いた春風に天野学園の制服のスカートを抑えながら挨拶してきた。
「鐸くん鐸くん。こっちの方に子猫いなかった?」
「え?あ~あっちの方で見たかも。」
突然切り出された要件に困った鐸は、さっきのツンデレ台詞はなかったことにしてくれるらしいと安堵し、適当に指をさした。そこには
「あ、マジでいる……」
「ホントだ、すごい!」
路地裏に小さい猫が入っていくのを見つけた。曰く、商店街から逃げだした飼い猫であり、少女は猫探しを引き受けて朝から探していたそうな。
「じゃあ、いっちょいきますか!フンス!」
「あ、いや、俺が行くよ。ここで待ってて。」
袖をまくって張り切る少女に対し、鐸は自分で行くと宣言。当然少女は「いいよいいよ、頼まれたのはあたしだし」というが、いいからと強引に路地裏に入った。
(てかあれ絶対突っかかるだろ。)
そう、2つの建物の間から入れる路地裏その間隔はひどく狭く、半身になった鐸が肩から入っていくのがギリギリなのだ。あんな脅威の胸囲を持つ者には通れる訳がない。
「んしょ。結構奥まで行くなこれ。」
「鐸くんふぁいとー!あちょー!」
背後から謎の声援を受けながらもずりずりと奥へ進んでいく鐸。しばらくすると建物同士の空間が作り出した小さな広場のような場所に出る。
「こんな場所があったのか。猫の秘密基地ってやつか。」
鐸はその光景に見とれていた。路地裏の薄暗い広場にたくさんのタンポポが咲いており、子猫がそこで寛いでいたのだ。
路地裏とはいえ、アスファルトで固めてある。隙間を縫うように咲いた大量のタンポポは観方によってはかなり不気味であったが、それでも綺麗に咲いていたり、受粉を終えたのかかわいらしく綿毛を付けている光景は鐸の目を奪った。
「鐸くーん?」
大通りから少女の声が聞こえてくる。
「あ、やべ。」
自分が子猫探しの途中かつ登校中であることを思い出し子猫をそっと抱える。幸い子猫は鐸に抱かれても手を数度舐めるだけで大人しかった。
「おーしいい子だ、んじゃ戻……ん?」
違和感を感じて振り返る鐸。子猫を抱えたその視界の端で何かが動いた気がしたのだ。
「……そんなわけないよな。」
振り向いても広がっているのはタンポポ畑のような光景のみ。気のせいか、他にも猫とかが居るのかもしれない。そう思いつつも、不気味に感じた鐸は急いでその場を離れた。
「うお~!ナイスです。鐸くん!」
「ま、まぁな。早く飼い主に届けて学園行こうぜ。」
「あ、ところで鐸君」
「ん?」
「"べ、別に羨ましくなんてないんだからねッ!"って何に対してなの?」
「うふぉぐっはぁ!!!!!!」
「なんで吐血!?」
そんなことを言いながら大通りを歩いていく2人、いつも通りの平和な日常だった。だから誰も気づかないのだ。2日前暴れたのがプラッディという上位種であることも
路地裏のタンポポが既に一本残らず消えていることも。
鐸は少女と共に登校する。その日、瀬雅と魅甘は登校してこなかった。
―――――――――――――――――――
――大和町中央総合病院
4つのブロックで区切られた大和町の中心には重要な施設が集まっている。重症患者を受け入れる病院もここに位置する。
その病院の8階の個室に2人のヒーロー候補生がいた。
窓際のベッドのすぐ横に佇んでいるのは少女、ツヤのある黒神を横で止めた人形のように無表情な少女。
2人が受けたダメージは相当のものであった。
魅甘は全身の筋肉が断裂しかかっており、その状態で魔力球を受け止めたため、肋骨が数本折れていた。
一昔前なら動けるわけのない怪我だが、魔力による活性化を取り入れた最新の医療技術はそれを2日半で治した。既に退院した魅甘は、明日から学校に行けるということであった。
「…………セガ」
問題はもう1人の方である。
四肢がちぎれかけ、内臓にまでダメージが通っていたらいがは本人の様子に反してかなり危ないところであった。
ベッドに横たわる瀬雅は見かけは治っているが、まだまだ完治とはいえない。
それよりも、そんな状態で怪人の状態で戦闘をしたという疲労の蓄積が不味かった。
何せ米村瀬雅の意識は未だに戻らないのだから。
目つきが悪いと評されるそれは今は閉じられていて、寝顔は側に佇む魅甘から見ても好青年であった。
峠を越え、寝息を立てている瀬雅を見て魅甘はただ暗い目を浮かべるのみ。個室にはもの音が無く、病院特有の薬品の匂いと、魅甘の側にある使われていないイスが静けさをより引き立たせていた。
「私のせい……」
植物族を目にした魅甘は後先考えずに私怨のままに突っ込んで行ってしまった。
その結果がこれである。魅甘は悔やんだ、瀬雅に怪我をさせてしまったことも、冷徹になりきれなかったことも。
自分の半端な力がこわいと思ったのは初めてだった。瀬雅とは仲良くなったと思う、なってしまった。
勝手に結界に巻き込んでおきながら、いざ戦闘になると瀬雅の事を考えずに戦うことはできない。
そんな半端は二度とゴメンだ。
魅甘はプラッディの襲撃の後を本能で察知していた。
これから植物族が来る。そんな時にもう加減も遠慮もしている場合ではないのだ。
「ごめんね、セガ。」
後悔1つ、決意1つ。
麦町魅甘は改めて、全力で後先なんて考えずに冷徹に戦うことを決意した。
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