10.蹂躙する狂い月(挿絵有)
ブクマありがとうございます(;O;)震えるうれしさ
驚くことにプラッディは自らの最大火力、拡散蕾を受けても意識を保っていた。
「図体のぶん生命力は高いってか。めんどくさいヤツだ。」
気絶してしまった魅甘を肩に抱えていた瀬雅はぼやく。とはいえ衰弱具合からして結界を保つのはそろそろ厳しいはずだ。ルミとの戦闘時も、ルミのダウンと共に結界は解除されていた。そうすれば瀬雅達は公園に戻り、そこで待ち構えているであろう五十嵐がなんとでもしてくれるはずだ。
『フ……フッフ、フハッハはははははは八はあははははははははは!!!』
プラッディが狂ったように笑い始める。一体どうしたというのか。怪訝そうな瀬雅にプラッディが告げた事実は、言葉だけで戦況をひっくり返すものであった。
『なんとまぁ滑稽だ、人間、いや、悪魔よ。俺の結界に時間切れがあるとでも思って健気に戦っていたのか?』
「なに?」
『この食人結界は、ただの魔力による空間干渉じゃぁない。俺の固有能力によるものだ。』
「固有能力……まさか!?」
『そうだ!普通の結界とは違い俺が自分の意志で解除しない限りは絶対に解除されない!例え俺が死んでもだ!お前達に勝ち目など最初からなかったんだよォ!!!!!!』
今日一番愉快そうに体を揺らす毒々しい花は絶望を瀬雅にもたらした。結界が解除されない、つまり外界には二度と戻ることができない。更に、そんな情報をわざわざ明かすということの意味を瀬雅は理解してしまった。
「俺たちを人質に五十嵐からも逃げようって算段か!」
『フフフ、その通り。』
そう、プラッディは。三大ヒーローである五十嵐と対面してしまった時から、瀕死の瀬雅と魅甘を傍らに結界を解除すれば、手を出せまいと考えていたのだ。
例えプラッディが死んでも結界は解除されず、過労や空腹で死ぬ。殺さずに戦っていてもいずれは魔力を吸い付くされて瀕死にされる。脅しや拷問が効きそうな手合でもない。
まさに詰みの状態であった。いや、最初から活路などなかったのだ。この結界に捕らわれた時点でこの未来は確定していた。プラッディの演じた死闘など、プラッディ自身の満足度や感情を充足させるための戯れでしかなかったのだから。
「くっ…………こいつは、麦町の命は助けてくれないか?」
その固有能力の凶悪さに顔を顰めながらも、なんとか被害を減らそうと瀬雅は交渉する。
『ほう、命乞いか。潔いなぁ悪魔よ。だが分かるだろう?俺という怪人がどうやって強くなるかなんて。』
瀬雅にもここまでくれば魔力が吸い取られていることは気づいていた。こうしてプラッディは餌の持つ魔力を加算して自らをより強力にしているのだ。植物はどんなに時間をかけても食べ残しなんてしない。まさに絶望。
「くっそ、一体どうすりゃ。」
瀬雅は考える、思いつく案はすべて現状を打破しなかった。むしろ考えれば考えるほど、相手が理屈の通じる相手ではないと理解できた。
もう終わりだ。全てを投げ出しそうになった瀬雅は、意識の隅に一番古い自分の記憶を浮かべていた。
――思い浮かぶのは、絶望の淵から自分を救ってくれた英雄。
短めの前下がりに揃えられた色素の薄い髪、モデルのような整った体型。そして変わってしまった瞳の色。今生きているのかさえ分からないその存在。瀬雅が探す、ヒーローを目指すきっかけをくれた人。
(ああ、すみません夏凛さん。お礼言えませんでしたね。)
愉快そうに身をくねらせているプラッディの前で変身を解く。途端に魔力によって補助されていた傷口から全身が抉れたような痛みを受けることになる。
手足の向きだけ戻ってくれてて幸いだな、と瀬雅はどこか外れたことを考えて、魅甘を抱いたまま意識を手放そうとした。
「あ~こんなとこに居た。」
声がした。瀬雅でも魅甘でもプラッディでもない、女性の声。
瀬雅はついに幻聴が聞こえ出したかと自嘲していたが、プラッディの反応は真逆であった。
『なっ!!!?!!?キサマ!一体どうやってこの空間に入ってきた!!!!』
明らかに動揺するプラッディ、その反応が、外部からの侵入を許したことを物語っていた。
「え~?自分の部屋からここに来たんだよ?わかるでしょ~」
張っているわけでもないのにやたらと通るその声は狼狽するプラッディを楽しげに見下すようだった。
そこまで聞いて瀬雅は再び意識を揺り起こす。そうだ、どこか聞き覚えのあるこの声、去年さんざん聞いてきたテキトーそうな声。
瀬雅の目は来るはずのない増援の正体を求める。顔をあげるとそれはすぐに見つかった。
結界の一部が歪み、外と繋がっているのだ。
アルバムの写真の真ん中を破いて、下の写真が見えてしまっている状態のようなあまりにも不自然な光景。
そして、明らかに生活の跡が見える室内と繋がった結界に、ボーダーシャツの女性が入ってきているのだ。
「はろ~米村君。元気?」
女は一言で表すなら"黒"であった、黒い服に褐色の肌。瀬雅を見つけ大きく開かれた目は、実年齢より若く、むしろ幼く見えるほどに可愛らしいが、その奥には生物の本能が警鐘を鳴らすような闇が覗いている。
命がかかったこの状況で、楽しげに、愛おしげに笑みをつくる口は三日月のように鋭く大きく、不気味だった。
愛嬌のある容姿でありながら、どこか狂気を感じる。10年前の戦争で、敵からも味方からも恐れられた残虐な活躍を見せた絶対強者の一角。
そして、去年の瀬雅の担任でもあった女性。
「黒崎……先生。」
「連休楽しんでるようでなにより♪」
結界を裂いて現れたのは大和町三大ヒーローにして"狂い月"の称号を持つ黒崎純子その人であった。
「だめだよこんな埃っぽいところでデートなんて。」
「あ、いや……」
この場に全く似合わない発言に思わずどもってしまう瀬雅。一体どうやってここが分かったのか、どうやってこの空間に入ってきたのか、すべてが理解不能だった。
『馬鹿な!馬鹿な!あり得ない、外界から完全に隔絶された結界内に入ってくるなど……』
「まぁいいや、ここからでようよ。めんどくさいから五十嵐くんに押し付けて病院に連れてってもらってね」
『ただの結界ならまだしも、俺の固有能力は俺が死んでも解除されない、上位の空間支配の能力だぞ!!』
「なんか米村くんがピンチそうな匂いがしたからさぁ。来ちゃった♪」
『あり得ないあり得ないあり得ない』「うるさいなぁキミ。」
瀬雅を見ていた黒崎は、現状を否定しようと叫ぶプラッディを一瞥した。プラッディのない背筋に震えが走る。狂気に染まった目はプラッディになんの価値も見出していなかった。
「静かにして。」
『あ』
一瞬だった。瀬雅には何が起きたかわからなかった。黒崎が手をプラッディに向け、僅かに横に動かしただけだった。
それなのにプラッディのいた空間に亀裂が入り、歪み、プラッディの体は真っ二つになっていた。大爆発でも意識を失わなかった巨大な体躯は半ばから消し飛んだように風穴を開けていた。
黒崎は触れてもいない、いや、近寄ってすらいない。
体の大半を失ったプラッディは、やがて赤褐色の魔力を撒き散らし、消えてった。
それは、あまりにもあっけない決着であった。
重要度の高いキャラにはもれなく挿絵がつきます。五十嵐は活躍の機会が来たら、ね(未定)
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次話投稿は明日12時。ちょっと早めます!是非よろしくお願いいたします(^^♪




