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正義の条件  作者: ありと@
第2章『白い薔薇の少女』
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9.悪魔の反撃


「…………う」



 明滅する視界の中、瀬雅の目には奮闘する魅甘の姿が映っていた。



 やめろ魅甘。お前の限界は近い――



 プラッディに対し近距離戦を仕掛けた時、瀬雅は火事場の馬鹿力というのを思い出した。魅甘の身体能力は学年でドベとも言われていた鐸よりも更に低い。



 そんな魅甘があれだけ激しい格闘を演じているのはどう見ても無理があった。おそらく魔力切れと同時に身体も悲鳴を上げて動けなくなってしまう。



 ネズミ戦で瓦礫の上を飛び回った瀬雅自身がまさにそうだった為、容易にそれが想像できた。




 両者の距離が再び離れた時、瀬雅は遠く離れたプラッディと目が合った気がした。



「うぐっ……」


 不味い、餌に使われる。そう思い何とか動こうとするが体に上手く力が入らない。それもそのはずである。



 瀬雅自身には分からないが、俯瞰で見れば瀬雅は生きているのが不思議な形をしているくらいであった。うつ伏せで倒れているため、継続的に口に入ってくる砂は血の味がする。



 プラッディがこちらに放った魔力球を、魅甘が全力で追いかけている。弄ぶようにわざと球速を落としたそれに最後の力を振り絞って駆けているのだ。


 グラウンド数周でグロッキーになっていた少女とは思えない速度、無表情が似合う綺麗な顔が焦りと怒りに歪んでいる。



「……魔力壁!」



 魅甘が瀬雅と魔力球の間に障壁を展開する。瀬雅はうめきながらも必死に魅甘を睨んだ。



「う……しろ。」



 瀬雅に魔力壁を貼ることに精いっぱいだった魅甘は、自分の背後に迫る追撃に気づいていなかったようだ。


 瀬雅のかすれ声が聞こえたのか、唇の動きを読んだのか、魅甘は振り返った。



「!!魔力壁!まりょ……」




 白い魔力を板状に変形し、追撃から自身と瀬雅を守るように展開する魅甘。数発を防いだことで障壁は砕ける。次の魔力壁を続けようとしたところで魅甘は悟った。




――魔力切れ




 白い魔力はもう壁を展開することさえ叶わない、それは僅かながら身体能力をブーストしていた魔力が尽きたことをも意味しており、魅甘は限界を超えて酷使した反動を一般人より虚弱なくらいの体で受け止めることとなった。




「あっ……がッ!?」



 脚の力が抜け、横隔膜が急速に競りあがってくる。脳髄にチカチカと衝撃が走り意識を奪い去ろうとするほどの痛み、全身の筋肉が軋んでいるのだ。




 迫りくる追撃、瀬雅は動かない体を気合で動かすも、右手を魅甘の方に向けることが精いっぱいだった。魅甘はそんな瀬雅を背中で感じ、僅かに笑みを浮かべた。




 つい先ほどと逆の状況になってしまった。さっき、瀬雅は拡散蕾からどうやって守ってくれたのだろうか。



 魔力が切れ、脚も動かなくなった魅甘はそれでも浮かべた笑みをそのままに両手を広げた。




「大丈夫、私がセガを守るから。」







 そんな声が聞こえた気がした。







 魅甘は迫りくる魔力球をその身で受けた。








「むぎ……まち!!」




 瀬雅は崩れ落ちる魅甘を見て怒りに体を震わせた。





 湧き上がる感情は赤く赤く。遠くで愉快そうに身をくねらせているあの憎き食虫植物を排除する。いや、そんなことでは済まさない。




 自分の正体を見てなお、共に過ごしてくれたたった一人の仲間。



 普段無表情でありながらも、今日見せてくれた様々な心。



 打ち明けてくれた悩み。




 鐸や学園長のおかげで孤独ではなかったものの、やはり正体を隠して生活することに窮屈さ、居心地の悪さを感じていた瀬雅に唯一できたなんでも話せる女性。




 その魅甘が今目の前で崩れ落ちた。




 絶対に許さない。




 気づけば瀬雅は立ち上がっていた。折れた脚から不気味な音が鳴るが関係なかった。この怒りを、そして魅甘の奮闘を見て閃いた戦法でプラッディをぶっ潰す。






変身(パーフェクション)!!!!!」







 魅甘の前で見せる2度目の変身。プラッディの赤褐色とは違う、純粋で燃え上がるような赤い魔力。全身にみなぎるそれはたちまち瀬雅の傷を塞いでいく。


 肉体はより鋭く、洗練された四肢を形成し、赤く染まった大きな翼と紅の二本角が伸びる。



――悪魔。瀬雅は自分でも何度見ても邪悪そのものだと思った。この姿と比べればプラッディの不気味さなどでかいだけの観葉植物と変わりない。



「これは……?」



 この現象には瀬雅も驚きだった。恐らく変身することで肉体が怪人のように魔力で構築されるのだろう。その過程で生身の状態のダメージが回復するというのは嬉しい誤算だった。


 いや、正確には"怪人の姿"でいるときは魔力で補強されているだけだろう。変身を解除した後に再び訪れるであろう激痛を想像すると冷や汗が流れる。




『へぇぇ……!怪人でありながらヒーローを語るとは……フッフッフ滑稽な奴だな。』



「うるせぇ!お前は俺が仕留めてやる。」



 遠くでプラッディが愉快そうなくねりをより大きくした。ヒーローが怪人の姿を取るとは思わなかったのだろう。





『まぁ待て、その異形は明らかにこっち側だろォ。なぜ人間の味方なんぞをしている。お前はそんな邪悪何を振りかざして俺を倒そうというんだ。暴力か?怒りか?それはお前が仲良くしている人間達が嫌う怪人そのものではないか。』




 明らかな挑発。怪人の姿で力を振るう、それは怪人同士の戦いに他ならない。ルミを助けた時と違い、自分のふがいなさを、魅甘を傷つけられた怒りをプラッディと同じ怪人の力に頼って解決しようというのだ。

プラッディはこうやって相手を足踏みさせ、その間に魔力を少しづつ吸い取っていくのだ。




「……義だ。」



『ぬ?』



 瀬雅はすぐに答えた。




正義の条件(俺のルール)でお前を裁いてやる!!!!!」




『フッフ……フハハハハハハ!!!!見事な自己中心的考えだ!!!いいだろう気に入った。木っ端み微塵にしてやる!!!!拡散蕾エクリクシス・オームオ!』




 巨大な赤褐色の魔力が渦巻く。魅甘と瀬雅から常に吸収していた魔力は、先ほどより大量の魔力の蕾を形成するに至った。



 数百の全方位爆発、数発当てただけで瀬雅を瀕死にまで追い込んだ威力だ。隙間なく飛ばしてしまえば回避も敵わず木っ端微塵となるだろう。しかし瀬雅はこれを待っていた。





「お前が木っ端微塵になるんだよ!」

『!?!!?』





 プラッディはいつの間にか肉薄していた瀬雅に完全に虚を突かれていた。



 魅甘のように囮の中に紛れたわけではない。ただ単に数十メートルの距離をひとっとびで詰めただけ。変身して強化された瀬雅の瞬発力は風や音すら置き去りにしたため、気づけなかったのだ。




 しかし、蔓を振って距離を離せばまた同じことだ。しかも今回は既に空中に無数の爆弾が用意してある。プラッディは一瞬慌てたが、瀬雅はまさに飛んで火にいる夏の虫状態であると考えて笑みを浮かべ――そのまま固まった。







 なぜ今嗤った?






 自分ではない。目の前の悪魔もなぜ嗤っているのだ?







「お前、防御力ないみたいだな?」



 瀬雅は真っ赤な目を歪めて先ほど魅甘の戦いを見て察した情報を提示する。瀬雅の手には魔力球が1つ浮かんでいた。





『まさか……。やめろ!!この至近距離では!』



「ほい。」





 瀬雅は気の抜けた声でその魔力球を蕾の1つに向かって投げた。



 魔力でできた蕾爆弾は魔力球に反応すると――――――




 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド―――――――






『グうううううううああああかあああああえふぁしあいさいきらいあさすふぁふぃうはえろしはしうふぁひぅがえいはいうしふがいぐはおいうほいふああふぁがっがっがあああああああああああ!!!!!!!』



 爆発がすぐ近くの蕾を誘爆させる。その爆発がまた隣の蕾を――



 プラッディが打ち出す前の数百の蕾は、全て飛び散ることなくプラッディの近くで大爆発した。身構えていた瀬雅は咄嗟に全力で爆発の直撃の範囲から飛び出したが、それでもいくらか食らってしまった。




「っぐ……いてて、みたかこんにゃろ。」



 一箇所に集中した超爆発は砂煙を大量に巻き上げている。あの中ではプラッディも致命傷なはずである。



 仮にまだ動けるようでも、弱ったプラッディを至近距離でいたぶり、距離を離そうとしてきたら再び拡散蕾を誘ってループに持ち込めばよい。




 圧倒的不利からの瀬雅と魅甘の作戦勝ちであった。

ここまで読んで下さってありがとうございます!


次話投稿も明日15時です!是非よろしくお願いいたします(^^♪

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