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正義の条件  作者: ありと@
第2章『白い薔薇の少女』
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8.鞭と鞭

 麦町魅甘は立ちあがった。植物族上位種――プラッディの作り出した砂漠の結界、閉鎖空間での戦いは応援の望めない状況でもある。




 米村瀬雅はプラッディの攻撃から魅甘を庇って今は地に伏している、体の下の砂が赤く染まっている。魅甘が後先を考えずに魔力を使ってしまったのが原因の一端なのだが、魅甘の中では全てプラッディのせいとなっていた。




「……ころす。」




 改めて呟く、その顔は憎悪に染まっている。残り少ない魔力、無駄遣いはできない場面で魅甘はこの状況を打開する為に感情を抑え冷静になる。



『フッフッフ、まずは1人。』



 そんな神経を逆撫でするような言葉、魅甘はもう気づいていたが、プラッディは会話や振る舞いでコントロール状況をコントロールする術に長けている。




 瀬雅に話しかけ、ヒーローなのかどうかカマをかけ、五十嵐を出し抜き今、プラッディが優位に立っている。

 時間稼ぎや相手を挑発するのにも必ず裏があると思っていいだろう。



『次はキサマの番だ。少女よ。』

「……次に死ぬのはお前。」




 とりあえず返す魅甘。その目は既に次の一手を考えているように見える。時間はあまり残されていない。



「……鬱陶しい。」


 まとわりつくような腐敗臭、魔力感知においては瀬雅より優れている魅甘にはこの臭いの正体が分かっていた。

 この香りは時間経過と共に魔力を吸い取る攻撃なのだ。つまり魔力の大半を初撃に使ってしまった魅甘は窮地に立っていると言える。



 怪人と違って、人間は魔力切れが即、死に繋がるわけではないが、魔力を持たない人間では怪人に勝てるわけがない。魔力を吸い取られる前にダメージを与えたかった。




「……魔力球!」



 再び魔力を空中に展開させる。流石に先ほどの数は不可能だ。十ほどの拳サイズの弾丸、魅甘は構わずにそれを先ほどより距離の開いたプラッディに目がけて全弾射出する。




『フッフッフ、芸のないヤツだァ。』



 プラッディは吹雪のような攻撃と比べて明らかに衰えた魔力球を見て、満足気に体を揺らしてから体のあちこちに生える無数の蔓を鞭のようにしならせて振るった。



 ぶつかる鞭と弾丸、その度爆発が発生し、プラッディの体を焦がすが、本人は全く気にした様子はない。

 プラッディからすれば、消耗戦になれば魔力切れを起こすのは向こうのほうだ。自分は傷ついても耐えていればいい。



 プラッディが弾丸の最後の1つを払おうとした瞬間、弾丸の軌道が突然ブレ、鞭を空振りしてしまう。魅甘が放出した魔力球の軌道を高いレベルで制御できるとは知らないプラッディは、その1つを体の中心上、毒々しい花の顔にもらうことになった。




『ぐ、ぬうううう!』




 威力自体はその巨体からすれば致命的ではないが、不意の一撃は存外に痛覚を刺激し、大きく体をのけぞらせる。


 更に、魅甘の攻撃は終わっていなかった。







薔薇の鞭(ファウルネス・ソーン)っ!!!!」



『何ッ!?』





 十の魔力球に紛れて、自らも接近していた魅甘は、数十メートルの距離を全力で詰め、魔力でできた棘鞭を力の限り振るった。



『小賢しい!!』



 プラッディもそれに自身の蔓をしならせて迎撃する。鞭と鞭がぶつかり合い、膂力の勝負になったとき、弾き飛ばされたのはもちろん魅甘であった。




「……魔力壁」




 が、それも織り込み済み。魅甘は砂だらけの無表情に僅かに笑みを浮かべると空中で障壁を展開した。



――――



『ヌおおおおおおおおおおおおお!!!!!』



 瞬間、爆発が小刻みに響き渡った。吹き飛ばされた魅甘は体をひねって華麗に着地――――はできずに普通に頭から落ちたが、プラッディを襲った衝撃はその比ではなかった。




 薔薇の鞭(ファウルネス・ソーン)、鞭についた棘状の魔力は1つ1つが爆弾であり、触れた際に四散するように爆ぜる。



 かつて模擬戦で瀬雅を破った技だが、蔓で迎撃したプラッディにはその棘がより深く刺さった。


 つまり、刺さった傷口の内部で爆発が起きたのだ。




 残り少ない魅甘の魔力で放たれたそれは、威力こそプラッディの爆発には遠く及ばないが、体の内側から焼かれる感覚は経験したことのない激痛をもたらした。




 猛毒の一撃。魅甘は追い詰められた状況から見事に反撃してみせた。




『おのれ……人間風情がぁあああああ!!!』



 が、それが戦況をひっくり返せるかどうかはまた別の話だ。





『ゆるさんぞおおおおおお!!!』




 プラッディは屈辱であった。多少のダメージを食らうことは覚悟の上であった、もともと地に根を張るプラッディはその場から大きく動くことはできない。




 プラッディを中心とする結界で腐敗臭のする霧で内部の者の魔力を吸い上げ、霧を止めようと向かってくる者に蕾の爆発を食らわせる。


 その戦闘スタイルは正に食虫植物のようであった。多少体が傷ついても敵を倒せば養分となる魔力で自分を成長させることができる。そうやってプラッディは上位種にまで登り詰めたのだ。



 だが、目の前の死にかけの人間達はなんだ。粘るどころか自分に耐えがたい苦痛を与えてきた。プライドを刺激されたプラッディは鞭をがむしゃらに振り回し、それと共に魅甘から見て盗んだ魔力球もどきをぶちまけた。




「ッ!魔力壁!魔力壁!」



 魅甘は咄嗟に障壁を多重に展開しながら後退する。蔓の鞭は薔薇の鞭で迎撃したかったが、いやらしく魔力球を織り交ぜられて回避を優先せざるを得なかった。



「あ、ああっ!!」




 じりじり後退していく魅甘、途中魔力壁からこぼれた攻撃が体をかすめる、血はでなかったが、苦悶の声を挙げる。


 再び魅甘は不利となった。彼女が苦し紛れに考えた作戦は、全範囲爆発である拡散蕾を相手に打たせないよう近距離クロスレンジで戦うという単純なものだった。



 あの威力の爆発は魅甘では耐えられないし回避もできない。しかしそれはプラッディも同様のはずである。



 何故なら最初の魔力球の吹雪もフェイントで放った魔力球もプラッディにはしっかり当たり、確かに効いていた(・・・・・)からだ。



 おそらく防御力はないのだろうと踏んだ魅甘は、拡散蕾の爆発に自身を巻き込むほどの近距離では使ってこないと判断したのだ。




 しかしこのまま後退していけばその目論見は潰されてしまう。



『!……フフフフ』




 その時、何かに気が付いたようにプラッディは邪悪な笑顔を浮かべ、全く見当違いの方向に魔力球の1つを放った。




「?………………うッ!!!セガ!!!!!」




 少しの間をあけ、すぐに理解する。未だに地に伏している――というより四肢がおかしな方向を向いていて身動きが取れない瀬雅のもとに魔力球が向かっているのだ。





「ー゛ー゛ー゛ー゛ー゛ー゛ー゛ー゛ー゛ー゛ー゛ー゛ー゛ー゛!!」



 声にならない叫びで砂だらけの体に鞭を打ち、魅甘は走りだす。魔力壁は間に合うか?



 いや、間に合わせる。




「魔力壁!」



『フフフッ』


 プラッディはそれをやはり満足気に見て、追撃の魔力球を飛ばした。






 

ご意見ご感想お待ちしております。


次話投稿も明日15時!是非よろしくお願いいたします(^^♪

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