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正義の条件  作者: ありと@
第2章『白い薔薇の少女』
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5.戦いは唐突に

ルビに「・・・」を多用する癖は棒小説家の影響ですね。


「あの〜すみません、お聞きしたいことがあるんですが。」




 しばらくの時間が経ち、クレープ屋さんの車が移動していった頃。ベンチに腰掛ける瀬雅と魅甘に話しかける者がいた。



「はいなんでしょう?」



 男は何というか、特徴のない姿だった。どこにでもいそうな平凡な顔立ち、額に浮かぶ汗や微妙に刻まれたシワ。そして着慣れた感じがするスーツ。



 中年サラリーマン、一言で表すならそれしかないというような没個性的な男が自分に何を聞きたいのだろう。

 とりあえず、歳上の人が立っているのに自分がベンチに座って応対するのは気が咎めて、瀬雅も立ち上がった。



「それで、どうしました?」




 自分とは普通接する機会のないような中年サラリーマン。道案内か何かかと思った瀬雅。しかし、男の質問は予想外な物だった。



「いやね、つい最近、獣族の怪人が暴れたって聞きまして、目撃者を探しているんですよ。」



 瀬雅は変わった人がいるもんだと感じた。数週間前まで東区を中心に大和町を騒がせていた怪人騒動、出現数に対して少ない被害から「犬のいたずら」なんて評価をされることもしばしばだ。



 そんな不名誉な評判を受けて「ほ、誇り高き獣族が……」と嘆く上位種のことは瀬雅の知るところではないが。



 どちらにせよ、"目撃者"なんていうのはSNSでも漁ればいくらでも出てくるものだ。それをわざわざこうして口コミで聞いているなんて。


 

 瀬雅の呆けた顔を、怪訝な表情と受け止めたのか、中年サラリーマンはややあわてて言葉をつづけた。




「や、なんでも風の噂によると上位種が現れたそうじゃないですか。滅多にないことなので是非話を聞きたくて。」



 ぞわり、鳥肌が立つような感覚がした。



「…………お詳しいですね。」




 瀬雅は納得顔をつくってみせた。目の前の中年サラリーマンは、間違いなく一般人ではない(・・・・・・・・)。同様の感想を抱いたのか、いつの間にか魅甘も立ち上がり、瀬雅の半歩後ろに並んだ。



 確かに獣族、ネズミやコボルトと一緒にルミも町へ繰り出していた。しかし、ルミ・ティイケリと直接戦ったのは瀬雅と魅甘のみ。


 ニュース等に"上位種"なんて報道は出てないのはもちろんのこと、天野学園の生徒ですら、ごく一部の者しかそれは知らない情報なのだ。




 ルミ・ティイケリという上位種の存在を認識している――それは2つの可能性を示していた。学園や拘置所の事情に精通しているお偉いさんか




 あるいは――



『怪人は肉体全てが魔力が変化した個体、気体、液体で成っている。』



 瀬雅の頭の中に浮かんだのはルミの言葉だった。真偽を確かめまいと早まる頭が、危険を顧みずに次のセリフ絞り出していた。





「あ、そういうことなら俺、見ましたよ。とんでもない凶悪な怪人を。」


「おお!そうでしたか、是非ゆっくりお話を……あいや、デートの途中でしたね。」


「いえいえ彼女も目撃者なのでお構いなく!改めまして俺、米村って言います。」




 背後でベルくんのぬいぐるみを抱きしめ「でーと……カノジョ……」と復唱している少女のことは置いておき、手を差し出す瀬雅。



「これはご丁寧に。」



 コミュニケーションは挨拶から。男もまた差し出された手を握りながら会釈をする。互いの手が触れた時、瀬雅は目を閉じ指先の感覚を最大限まで研ぎ澄ました。



 もし、ルミの言っていることが正しければ、そして目の前のサラリーマンがそうならば、特殊な術など使わなくてもわかる(・・・)はずだ。瀬雅は限界以上に集中し、そして、確かに知覚した。






「あなたの手。ずいぶんパワフルですね。魔力でできてる(・・・・・・・)みたいだ。」




 手を離し、魅甘と二人身構えながら告げた。それに対し――




「………お前、ヒーローかぁア?」





 突然豹変した中年サラリーマン。瀬雅達はその場から飛び退く。


 幸い、ここは広場、空間は十分にある。しかし公園内にいくつもある人影をどうするか。考える二人に中年の男はつづけた。





「まさか一発目で釣れるとはヒーロー、いい餌になるぜぇ!」



 言葉に合わせてその体をゆらゆらと振りはじめる。そして――




拡散蕾エクリクシス・オームオ!」





 次の瞬間、公園が爆ぜた。




 男が蕾のような形の魔力を無数に展開し、全方向に解き放ったのだ。あまりの数と展開速度に何も反応できず、爆風に顔をしかめ手でガードすることしかできない瀬雅。せめてもと爆風からかばうように魅甘を完全に背に隠せたのは僥倖か。



 一拍おいて公園に悲鳴があふれ出す。夕方にかかろうかという時間帯とはいえ、休日の公園。屯っていた人は突然のことに何が何だかわからず、ヒーロー候補生ですらない一般人はただ声を上げて爆風に飲まれることしかできなかった。





 迂闊だった――。男、いや、あの怪人の正体を暴くにしてももっと慎重にすべきだったのだ。人間の姿で平時を過ごす怪人は特に危険度が高い。分かっていたことではないか、ルミだって、自分だってそうなのだから。







 瀬雅が後悔しても既に遅い。握手で怪人を釣ろうとしたように、怪人も上位種という情報で、力あるヒーローを釣ろうとしていたのだ。狙いはその力を奪い糧とするためか。




 周囲の人や公園毎巻き込んでしまい、魂がかきむしられるような後悔の念に襲われながら、爆発の衝撃を歯を食いしばって待つ。










 しかし、その時は来なかった。







 コボルト戦でも似たようなことがあった気がする。誰かが助けにきてくれたのか?と考える瀬雅だが、あの時とは訳が違う。


 全方位への爆発攻撃。たまたま近くにヒーローが居て、立ちふさがってくれたところで防げない。範囲攻撃なのに公園が壊れる音も自分への衝撃も何も訪れないなんて。









 瀬雅の考えは半分正解で半分誤りであった。当たっていたのは"たまたま近くにヒーローが居て、助けに来てくれた"こと。




 そして、誤っていたのは彼の認識。






「こんなだだっ広いところで堂々と暴れるとはな……。」



「な!?貴様は……!」






 駆け付けたのが"範囲攻撃から周囲への被害を完璧に防ぐことのできる”ヒーローであったことだ。





「くっ、"太陽"ッ!」





 憎々しげな男――怪人の声に顔を上げ、辺り見渡すとそこは一面の鏡面であった。いや、鏡のように薄い板状の魔力。一枚一枚は部屋の姿見のようなサイズの魔力壁が幾重にも展開され、鏡でできた迷宮のようなドームとなって公園のすべてと、逃げる人々の前で爆発を受け止めていた。



 瀬雅や魅甘が反応すらできなかった刹那に、これだけ正確無比に魔力壁を展開できるヒーローなど、それこそ数える程しかいない。









「爆発ショーとは斬新なデートだな。米村、麦町」



「五十嵐……先生。」







 天野学園2-C担任にして、"大和町三大ヒーロー"や"太陽"の称号を持つ絶対強者、五十嵐光が不敵な笑みを浮かべて怪人と対面していた。



ここまで読んで下さってありがとうございます!

次話投稿は明日15時です。是非!


ブクマ等していただけるとありがたいです(^^♪


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